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大ちゃんの呉服屋を出たあと。
僕は、もうすぐ開催される露天市の出店申請をするため、役所へ向かった。
受付は先着順だったらしく、なんとか滑り込みで申請が通った。
ただ、持っていったリボンの話をしたところ、担当の人に「販売数が少ない」と指摘され、当日はもっと商品を用意してくるようにと言われてしまった。
その場では「わかりました」と答えたけれど――。
綾音ちゃんに相談してみよう。
****
次の日、僕は綾音ちゃんの家を訪ねた。
事情を話すと、彼女は腕を組み、少し考え込んでから言った。
「ふむ……販売する数ね」
「うん、少ないって」
「とりあえず、出来る限り作るしかないわね」
「やっぱり、そうだよね。あとは、家にある不用品でもいいって言われたから、それも探してみようと思ってる」
「そうね……。――あ、貰った羽織紐、売りに出したら?」
「えっ!?」
「だって、あれ、高瀬って女性と二人で選んだかもしれないんでしょ? そんなの、見るたび辛くなるじゃない」
「……うん」
「それに、そろそろ羽織も着ないでしょ」
「そんなことないよっ。それに……あれは、誠一に初めて貰ったものだし……。だから、その……ちゃんと別れてから売るよ」
「ふうん? まぁ、いいけど。とにかく、商品の数を増やさなきゃいけないことに変わりはないわ。作れるだけ作りなさい」
「うん、そうする」
「頑張るのよ。うちにも、露天市に出せそうなものがないか見ておくわね」
「ありがとう」
そうして綾音ちゃんとは、次の裁縫のときにまた話す約束をして別れた。
帰りながら、露天市に出せそうなものを思い浮かべてみる。
――不用品なんてあったかな……。
うちは、どうも物が少ない気がする。
たぶんだけど、義理の父が売ってしまったんだろう……そう思えば納得がいく。
家に着く頃には、だいぶ日が傾いていた。
少しでも明るいうちに不用品を探そうと、僕は台所へ向かう。
棚の奥にあったのは、欠けた湯のみが二つ。
その隣には、使ったことのない大皿が二枚。
「……こういうので、良いのかな」
手を伸ばしかけて、ふと動きを止める。
――待てよ。
今は使っていないだけで、いつか必要になるかもしれない。
それに、この家に来てまだ間もない僕が、勝手に「不用品」と決めつけていいんだろうか。
理由があって残しているのかもしれないし……。
僕はそっと棚を閉め、小さくため息をついた。
――誠一に確認した方がいいかも。
そうだ、その時に露天市のことも……リボンを作っていることも、話してみようかな。
そう考えながら、風呂と夕飯の支度に取り掛かった。
しばらくすると、玄関の方から足音が聞こえた。
――帰ってきた!
早足で玄関へ向かうと、玄関の向こうにいたのは、誠一だけではなかった。
高瀬さんの声――。
丁寧にお礼を言って、別れの挨拶をする、彼女の嬉しそうな声。
それに「あぁ、また明日」と、優しく返す誠一。
次第に遠ざかっていく、彼女の足音。
誠一は、僕と高瀬さんに対しての態度が違う。
高瀬さんには優しい。
笑顔も向ける。
お礼を言われてるということは、きっと親身になってあげているのだろう。
じゃあ僕は……?
笑いかけてもらったことなんて、あっただろうか。
思い返してみても、誠一は僕の話に一言、二言返すだけで、会話が続いたことはほとんどない。
僕の話はろくに聞かないのに、高瀬さんの話は、ちゃんと聞くんだ……。
僕のことが、大事じゃないから?
どうでもいい存在なの……?
だったら、僕だって――。
さっきまで「誠一に確認しよう」「露天市の話をしよう」と思っていたのに、その気持ちは急にしぼんでしまった。
結局、その日は何も話さなかった。
****
それからの数日は、朝も日中もリボン作りに専念した。
二つ、三つと作るうちに手が慣れてきて、一つ目よりもずっと早く、ずっときれいに仕上げられるようになっていた。
露天市に並べる予定のリボンは四つ。
もう少し手を加えれば完成だ。
でも――問題は数だ。
出来るだけ多く作りたいけれど、飾りの硝子玉がもう無い。
ここからは、飾りなしのリボンでいいのかな。
というか、たくさん作って売れ残ったら、どうしよう。
――いや、今は作ると決めたんだ。
いっそのこと、リボン以外のものを作ってみようか。
そう思い、たんすの引き出しを開けて残りの布を確かめる。
そのとき――奥にしまっていた、誠一からの羽織紐が目に入った。
綾音ちゃんと話していたときは、売るのを何故かためらってしまったけれど……。
小さく息を吐き、リボンと一緒に羽織紐もまとめて置いた。
****
そして、土曜日の夜。
誠一が、夜遅くに帰ってきた。
土曜日の午後は学校がないはずなのに、彼が昼に帰ってきたことは一度もない。
――どうせ、今日も高瀬さんと一緒だったんだろう。
そう思ったけれど、帰宅した誠一はどこか疲れた表情をしていた。
今日は本当に残業だったのかな……?
それとも――。
……いや、考えるのはやめよう。
そうして迎えた、日曜日。
勉強会の日がやってきた。
僕は、もうすぐ開催される露天市の出店申請をするため、役所へ向かった。
受付は先着順だったらしく、なんとか滑り込みで申請が通った。
ただ、持っていったリボンの話をしたところ、担当の人に「販売数が少ない」と指摘され、当日はもっと商品を用意してくるようにと言われてしまった。
その場では「わかりました」と答えたけれど――。
綾音ちゃんに相談してみよう。
****
次の日、僕は綾音ちゃんの家を訪ねた。
事情を話すと、彼女は腕を組み、少し考え込んでから言った。
「ふむ……販売する数ね」
「うん、少ないって」
「とりあえず、出来る限り作るしかないわね」
「やっぱり、そうだよね。あとは、家にある不用品でもいいって言われたから、それも探してみようと思ってる」
「そうね……。――あ、貰った羽織紐、売りに出したら?」
「えっ!?」
「だって、あれ、高瀬って女性と二人で選んだかもしれないんでしょ? そんなの、見るたび辛くなるじゃない」
「……うん」
「それに、そろそろ羽織も着ないでしょ」
「そんなことないよっ。それに……あれは、誠一に初めて貰ったものだし……。だから、その……ちゃんと別れてから売るよ」
「ふうん? まぁ、いいけど。とにかく、商品の数を増やさなきゃいけないことに変わりはないわ。作れるだけ作りなさい」
「うん、そうする」
「頑張るのよ。うちにも、露天市に出せそうなものがないか見ておくわね」
「ありがとう」
そうして綾音ちゃんとは、次の裁縫のときにまた話す約束をして別れた。
帰りながら、露天市に出せそうなものを思い浮かべてみる。
――不用品なんてあったかな……。
うちは、どうも物が少ない気がする。
たぶんだけど、義理の父が売ってしまったんだろう……そう思えば納得がいく。
家に着く頃には、だいぶ日が傾いていた。
少しでも明るいうちに不用品を探そうと、僕は台所へ向かう。
棚の奥にあったのは、欠けた湯のみが二つ。
その隣には、使ったことのない大皿が二枚。
「……こういうので、良いのかな」
手を伸ばしかけて、ふと動きを止める。
――待てよ。
今は使っていないだけで、いつか必要になるかもしれない。
それに、この家に来てまだ間もない僕が、勝手に「不用品」と決めつけていいんだろうか。
理由があって残しているのかもしれないし……。
僕はそっと棚を閉め、小さくため息をついた。
――誠一に確認した方がいいかも。
そうだ、その時に露天市のことも……リボンを作っていることも、話してみようかな。
そう考えながら、風呂と夕飯の支度に取り掛かった。
しばらくすると、玄関の方から足音が聞こえた。
――帰ってきた!
早足で玄関へ向かうと、玄関の向こうにいたのは、誠一だけではなかった。
高瀬さんの声――。
丁寧にお礼を言って、別れの挨拶をする、彼女の嬉しそうな声。
それに「あぁ、また明日」と、優しく返す誠一。
次第に遠ざかっていく、彼女の足音。
誠一は、僕と高瀬さんに対しての態度が違う。
高瀬さんには優しい。
笑顔も向ける。
お礼を言われてるということは、きっと親身になってあげているのだろう。
じゃあ僕は……?
笑いかけてもらったことなんて、あっただろうか。
思い返してみても、誠一は僕の話に一言、二言返すだけで、会話が続いたことはほとんどない。
僕の話はろくに聞かないのに、高瀬さんの話は、ちゃんと聞くんだ……。
僕のことが、大事じゃないから?
どうでもいい存在なの……?
だったら、僕だって――。
さっきまで「誠一に確認しよう」「露天市の話をしよう」と思っていたのに、その気持ちは急にしぼんでしまった。
結局、その日は何も話さなかった。
****
それからの数日は、朝も日中もリボン作りに専念した。
二つ、三つと作るうちに手が慣れてきて、一つ目よりもずっと早く、ずっときれいに仕上げられるようになっていた。
露天市に並べる予定のリボンは四つ。
もう少し手を加えれば完成だ。
でも――問題は数だ。
出来るだけ多く作りたいけれど、飾りの硝子玉がもう無い。
ここからは、飾りなしのリボンでいいのかな。
というか、たくさん作って売れ残ったら、どうしよう。
――いや、今は作ると決めたんだ。
いっそのこと、リボン以外のものを作ってみようか。
そう思い、たんすの引き出しを開けて残りの布を確かめる。
そのとき――奥にしまっていた、誠一からの羽織紐が目に入った。
綾音ちゃんと話していたときは、売るのを何故かためらってしまったけれど……。
小さく息を吐き、リボンと一緒に羽織紐もまとめて置いた。
****
そして、土曜日の夜。
誠一が、夜遅くに帰ってきた。
土曜日の午後は学校がないはずなのに、彼が昼に帰ってきたことは一度もない。
――どうせ、今日も高瀬さんと一緒だったんだろう。
そう思ったけれど、帰宅した誠一はどこか疲れた表情をしていた。
今日は本当に残業だったのかな……?
それとも――。
……いや、考えるのはやめよう。
そうして迎えた、日曜日。
勉強会の日がやってきた。
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