甘美なる隷属

氷華冥

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仮面の剥落と従順の試練

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麗子と陽翔の結婚報告の挨拶回りは、連日続いていた。麗子の社交的な交友関係は広く、華やかな会食や訪問が陽翔を容赦なく駆り立てていた。陽翔は麗子の指示に従い、定型句化した挨拶を繰り返していたが、内心では麗子の視線と首輪の感触に縛られ、彼女の支配下での従順を常に意識していた。ある日、麗子は陽翔を連れて、彼女の古くからの親友である冴子の自宅を訪れた。陽翔は冴子について、麗子の親友という以上の情報を持たず、いつも通りの挨拶を準備していた。

冴子の自宅は、都心の高級住宅街に佇むモダンな一軒家だった。リビングは黒と白を基調とした洗練されたデザインで、革のソファとガラス製のテーブルが妖艶な雰囲気を漂わせていた。冴子はタイトな赤のドレスに身を包み、黒髪をゆるやかに流し、陽翔と麗子を迎え入れた。彼女の微笑みは穏やかだが、どこか鋭い眼光が潜んでいた。麗子は黒のシルクドレスで、ブロンドの髪と自信に満ちた笑みが部屋の空気を支配していた。

「あなたが陽翔くんね。話はいつも麗子から聞いているわ。」冴子はソファに腰を下ろし、優しく微笑みながら陽翔を見た。彼女の声は柔らかだが、探るような響きがあった。

陽翔は緊張しながら、定型句を口にした。「はじめまして。麗子さんとお付き合いさせていただいている、陽翔と申します。」彼は丁寧に頭を下げ、いつも通りの挨拶で場を収めようとした。

冴子の唇に、意味深な笑みが浮かんだ。「ふーん、『お付き合い』…随分と控えめな言い方ね。」彼女はグラスを手に、ゆっくりとワインを口に運びながら、陽翔をじっと見つめた。「私は、ちょっと違った風に聞いているけど?」

陽翔は冴子の言葉に一瞬戸惑い、視線を麗子に向けた。麗子はソファにゆったりと座り、意味深な笑みを浮かべていた。「フフッ…陽翔、いつもやってるように冴子に見せてあげたら?」彼女の声は甘く、しかし底知れぬ命令の響きを帯びていた。

陽翔の心臓がドキッと高鳴った。麗子の言葉の真意が分からず、困惑が彼の顔に広がった。「麗子様…いつも…やってるように…?」彼の声は震え、麗子の意図を探るように彼女を見つめた。

冴子の穏やかな笑顔が一瞬で消え、冷たい視線が陽翔を貫いた。「私は、あなたが麗子の『奴隷』だと聞いているけど?」彼女の言葉は鋭く、陽翔の仮面を剥ぎ取り、麗子の調教によって植え付けられた従順な本性を暴くものだった。

陽翔の身体が凍りついた。冴子の言葉は、彼の表向きの挨拶を粉々に打ち砕き、麗子の支配下での本当の立場を突きつけた。彼は言葉を失い、震える視線で麗子を見た。麗子はクスクスと笑い、陽翔の顎を指で持ち上げ、冷酷な優しさで囁いた。「陽翔、冴子は私の親友よ。私の奴隷であるお前を、隠す必要なんてないわ。いつもやってるように、ちゃんと挨拶しなさい。」

冴子は一歩踏み出し、陽翔の顎を強く掴み、鋭い視線で問い詰めた。「いつも麗子から話は聞いていると言ったわよね? なのに、なぜ『お付き合い』なんて嘘をつくの?」彼女の声は穏やかさを失い、冷たく響いた。

陽翔はパニックに陥り、慌てて冴子の足元に跪き、床に額をこすりつけて謝罪した。「す、すみませんでした…冴子様…! 僕…麗子様の奴隷です…! 嘘をついて…本当に…申し訳ありません…!」彼の声は震え、麗子の調教によって植え付けられた従順さが反射的に彼を動かしていた。

冴子の表情が豹変し、冷酷な笑みが浮かんだ。「フンッ、最初から正直にそうおっしゃいよ! 『麗子の奴隷』だって!」彼女は鋭く言い放ち、陽翔の頬にビンタを浴びせた。パシン! 鋭い音がリビングに響き、陽翔の頭が揺れた。「なぜ嘘をついたの? 私を騙そうとしたの?」冴子の声は容赦なく、陽翔の心を切り裂いた。

麗子はソファから立ち上がり、陽翔の髪を掴んで顔を上げさせた。「陽翔、冴子に失礼でしょう? 『いつもやっているように』という私の命令も無視したわね。冴子は私の親友なんだから、ちゃんと正しい作法で挨拶しなさい。」彼女の声は甘く、しかし絶対的な命令だった。

陽翔は震えながら、改めて冴子の足元に額をこすりつけた。「冴子様…初めまして…僕は…麗子様に調教していただいている奴隷、陽翔です…どうぞよろしくお願いします…。」彼の声はか細く、麗子の調教によって叩き込まれた従順な姿勢が彼を支配していた。

冴子は満足げに微笑み、陽翔の髪を軽く撫でた。「ふふ、いい子ね、陽翔くん。最初からそうやって正直に挨拶すれば、ビンタなんて必要なかったのに。」彼女は麗子と視線を交わし、嗜虐的な笑みを共有した。「麗子、素晴らしい奴隷ね。陽翔くん、ちゃんと躾けられてるわ。」

麗子は陽翔の首輪を軽く引き、冷たく微笑んだ。「でしょ? 陽翔は私の完璧な奴隷よ。これからも、冴子にはたっぷり見てもらおうと思ってるわ。」彼女の言葉には、陽翔をさらなる支配と晒し者の舞台に引きずり出す企みが隠されていたが、陽翔にはまだその全貌は知らされていなかった。

陽翔は跪いたまま、麗子と冴子の視線に挟まれ、震えながら頭を下げ続けた。冴子の家での挨拶は、麗子の支配をさらに強固にし、陽翔を被虐の沼の底へとさらに深く沈める一歩だった。麗子と冴子の嗜虐的な笑みが、リビングの妖艶な空気に溶け合い、陽翔の心を完全に彼女たちの手中に閉じ込めた。

(ふふ、陽翔、冴子の前で本性を暴かれて、素敵な反応ね。)

麗子は内心でほくそ笑んだ。

(これからもっと、仲間たちの前であなたの従順を晒してあげるわ。)
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