22 / 25
22.虚しい悪あがき
しおりを挟む
一方夜会会場から半ば追い出されたメプリは母やブリュイアンの家族と共に一室に押し込められていた。
一見洗練された応接室のように見える部屋は実は軟禁するための檻でもあった。室内にはメプリと母、コシュマール侯爵家の4人しかいないが、部屋の外の扉前には屈強な公爵家の衛士が見張りに立っている。窓は嵌め殺しで外に出ることは叶わない。
呆然としていたメプリであったが、時間が経つにつれ理不尽な怒りが沸き上がっていた。自分が公爵令嬢ではない? 公爵家は父の前妻の家系だから父は公爵ではない? そんなことは知らない!
お父様は私もお母様も愛してない? そんなはずはない。だって我儘は何でも聞いてくれた。……いや、聞いてくれたことはない。ある程度の買い物は自由にさせてくれたが、肝心なところでは一切聞く耳を持たなかった。学院に通うことも、本館に住むことも、夜会やお茶会に出ることも、ブリュイアンと結婚することも、何1つ聞き入れてはくれなかった。
改めてメプリは振り返り愕然とした。愛されていると思っていた。愛されていると信じ込んでいた。けれど、思い返せば、表面上は優しく微笑んでくれていたが、それだけだ。
いや、そんなはずはない。お父様は、お母様のことはともかくあたしのことは愛してくれているはずだ。だって、あたしはこんなにも可愛いいんだから。
自分のこれまでを否定されたかのようで怖い。それを振り払うように必死にメプリは自分は愛されているのだと言い聞かせる。
そんなメプリの周りではブリュイアンとその親が罵り合っている。お前のせいだ、俺は悪くないと互いに責任を擦り付け合う醜い言い争いだ。
「五月蠅いわね! 黙りなさいよ!」
こんなに五月蠅くては考え事も出来ない。頼りにならない母は狂ったかのように小声でブツブツと何かを呟いている。
「五月蠅いだと!? 貴様のせいで俺は将来を失ったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「何よ、あたしを愛してるから婚約破棄しようとしたんでしょ! あたしのせいにしないでよ!」
「なんだと! 公爵になれると思ったからお前を選んだんだ! このままじゃ貴族じゃいられない! 3男の俺に継ぐ爵位はないんだぞ! 貴様のせいだ!」
「はん! フィエリテに捨てられたもんね! でも、あたしに謝ってあたしに尽くすんならあんたをあたしの婿にしてあげてもいいわよ! 公爵じゃないけど、伯爵なら継げるもの!」
結局メプリもブリュイアンもコシュマール侯爵家も正しく理解はしていなかった。1代伯爵の意味を理解していないのだ。
「お父様はピグリエーシュ伯爵よ。お父様の娘はあたしだけ! まぁ、フィエリテもいるけど、フィエリテは公爵家継ぐから伯爵家は継げないでしょ。あたしと結婚すればあんたがピグリエーシュ伯爵になれるのよ」
そのメプリのおめでたい主張に、ブリュイアンは目を見開く。有り得ないことに『それもありか』と思いながら。公爵から伯爵と爵位は落ちるが、それでも平民になるよりはマシだ。ピグリエーシュ伯爵領は豊かな土地だと聞くから名ばかりの成り上がり侯爵家よりもはるかに贅沢な暮らしも出来るだろう。
この数時間で粗が見えたメプリを妻とすることには聊か嫌悪感はあるが、子供を産ませたら領地に幽閉してしまえばいい。そして自分は美しい愛人を囲えばいいのだ。
愚かな彼らにはメプリの案はこの上もなく良いものに思えた。だから、怒れるペルセヴェランスの機嫌を取るためにもしおらしく反省した姿を見せ、メプリとブリュイアンの結婚を認めさせようと決めた。
そしてそれから暫くしてペルセヴェランスが室内へと入ってきた。フィエリテもいる。他にも前々公爵とその夫とフレール侯爵とその後継者がいるが、メプリたちは気にも留めなかった。重要なのはペルセヴェランスだ。一応クゥクー公爵となったらしいフィエリテにも殊勝にしておいたほうがいいだろう。
だから、早速メプリとブリュイアンは行動に移した。
「お父様、お姉様、夜会ではごめんなさい。あたし、いっぱい勘違いしてたみたい。本当にごめんなさい、反省してるわ」
「ペルセヴェランス卿、フィエリテ、本当に申し訳なかった。あんな騒ぎを起こしてしまって。反省している」
結局、何も理解していないメプリとブリュイアンにクゥクー公爵一家は呆れた。理解していれば身分の低い自分たちから声をかけることなど許されないのだ。しかも反省しているという内容も見当違いだ。
「あたし、心を入れ替えるわ。だから、お父様、あたしとブリュイアンの結婚を認めてほしいの!」
「ペルセヴェランス卿、お願いします。メプリを幸せにします!」
ここにクゥクー公爵一家が揃っていることの意味を理解していない愚か者たちにペルセヴェランスは呆れ果てて溜息をついた。自分たちは彼らに処罰を与えるために来たのに、家族団欒が待っているとでも思っているのか。そこまで能天気でもなかろうから、せいぜいが叱責を受ける程度と考えていたのだろう。
「お前たちの結婚か。好きにすればいい」
家族でも何でもない者たちの結婚などどうでもいいとペルセヴェランスは告げる。
「お父様ありがとう! あたしたちの結婚を祝福してくださるのね! あたし、頑張ります! 2人で頑張ってピグリエーシュ伯爵家を守りますわ!」
「はぁ? 何言ってんの? 頭可笑しいんじゃないの?」
メプリの言葉に応えたのは、メプリたちが『見知らぬガキ』と判断した、フィエリテによく似た少年だった。
一見洗練された応接室のように見える部屋は実は軟禁するための檻でもあった。室内にはメプリと母、コシュマール侯爵家の4人しかいないが、部屋の外の扉前には屈強な公爵家の衛士が見張りに立っている。窓は嵌め殺しで外に出ることは叶わない。
呆然としていたメプリであったが、時間が経つにつれ理不尽な怒りが沸き上がっていた。自分が公爵令嬢ではない? 公爵家は父の前妻の家系だから父は公爵ではない? そんなことは知らない!
お父様は私もお母様も愛してない? そんなはずはない。だって我儘は何でも聞いてくれた。……いや、聞いてくれたことはない。ある程度の買い物は自由にさせてくれたが、肝心なところでは一切聞く耳を持たなかった。学院に通うことも、本館に住むことも、夜会やお茶会に出ることも、ブリュイアンと結婚することも、何1つ聞き入れてはくれなかった。
改めてメプリは振り返り愕然とした。愛されていると思っていた。愛されていると信じ込んでいた。けれど、思い返せば、表面上は優しく微笑んでくれていたが、それだけだ。
いや、そんなはずはない。お父様は、お母様のことはともかくあたしのことは愛してくれているはずだ。だって、あたしはこんなにも可愛いいんだから。
自分のこれまでを否定されたかのようで怖い。それを振り払うように必死にメプリは自分は愛されているのだと言い聞かせる。
そんなメプリの周りではブリュイアンとその親が罵り合っている。お前のせいだ、俺は悪くないと互いに責任を擦り付け合う醜い言い争いだ。
「五月蠅いわね! 黙りなさいよ!」
こんなに五月蠅くては考え事も出来ない。頼りにならない母は狂ったかのように小声でブツブツと何かを呟いている。
「五月蠅いだと!? 貴様のせいで俺は将来を失ったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「何よ、あたしを愛してるから婚約破棄しようとしたんでしょ! あたしのせいにしないでよ!」
「なんだと! 公爵になれると思ったからお前を選んだんだ! このままじゃ貴族じゃいられない! 3男の俺に継ぐ爵位はないんだぞ! 貴様のせいだ!」
「はん! フィエリテに捨てられたもんね! でも、あたしに謝ってあたしに尽くすんならあんたをあたしの婿にしてあげてもいいわよ! 公爵じゃないけど、伯爵なら継げるもの!」
結局メプリもブリュイアンもコシュマール侯爵家も正しく理解はしていなかった。1代伯爵の意味を理解していないのだ。
「お父様はピグリエーシュ伯爵よ。お父様の娘はあたしだけ! まぁ、フィエリテもいるけど、フィエリテは公爵家継ぐから伯爵家は継げないでしょ。あたしと結婚すればあんたがピグリエーシュ伯爵になれるのよ」
そのメプリのおめでたい主張に、ブリュイアンは目を見開く。有り得ないことに『それもありか』と思いながら。公爵から伯爵と爵位は落ちるが、それでも平民になるよりはマシだ。ピグリエーシュ伯爵領は豊かな土地だと聞くから名ばかりの成り上がり侯爵家よりもはるかに贅沢な暮らしも出来るだろう。
この数時間で粗が見えたメプリを妻とすることには聊か嫌悪感はあるが、子供を産ませたら領地に幽閉してしまえばいい。そして自分は美しい愛人を囲えばいいのだ。
愚かな彼らにはメプリの案はこの上もなく良いものに思えた。だから、怒れるペルセヴェランスの機嫌を取るためにもしおらしく反省した姿を見せ、メプリとブリュイアンの結婚を認めさせようと決めた。
そしてそれから暫くしてペルセヴェランスが室内へと入ってきた。フィエリテもいる。他にも前々公爵とその夫とフレール侯爵とその後継者がいるが、メプリたちは気にも留めなかった。重要なのはペルセヴェランスだ。一応クゥクー公爵となったらしいフィエリテにも殊勝にしておいたほうがいいだろう。
だから、早速メプリとブリュイアンは行動に移した。
「お父様、お姉様、夜会ではごめんなさい。あたし、いっぱい勘違いしてたみたい。本当にごめんなさい、反省してるわ」
「ペルセヴェランス卿、フィエリテ、本当に申し訳なかった。あんな騒ぎを起こしてしまって。反省している」
結局、何も理解していないメプリとブリュイアンにクゥクー公爵一家は呆れた。理解していれば身分の低い自分たちから声をかけることなど許されないのだ。しかも反省しているという内容も見当違いだ。
「あたし、心を入れ替えるわ。だから、お父様、あたしとブリュイアンの結婚を認めてほしいの!」
「ペルセヴェランス卿、お願いします。メプリを幸せにします!」
ここにクゥクー公爵一家が揃っていることの意味を理解していない愚か者たちにペルセヴェランスは呆れ果てて溜息をついた。自分たちは彼らに処罰を与えるために来たのに、家族団欒が待っているとでも思っているのか。そこまで能天気でもなかろうから、せいぜいが叱責を受ける程度と考えていたのだろう。
「お前たちの結婚か。好きにすればいい」
家族でも何でもない者たちの結婚などどうでもいいとペルセヴェランスは告げる。
「お父様ありがとう! あたしたちの結婚を祝福してくださるのね! あたし、頑張ります! 2人で頑張ってピグリエーシュ伯爵家を守りますわ!」
「はぁ? 何言ってんの? 頭可笑しいんじゃないの?」
メプリの言葉に応えたのは、メプリたちが『見知らぬガキ』と判断した、フィエリテによく似た少年だった。
184
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません
タマ マコト
ファンタジー
【高評価につき21話〜43話執筆も完結】
第一王女セレスティアは、
妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、
誰にも気づかれないまま毒殺された。
――はずだった。
目を覚ますと、
すべてを失う直前の過去に戻っていた。
裏切りの順番も、嘘の言葉も、
自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。
もう、譲らない。
「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。
二度目の人生、
セレスティアは王位も恋も
自分の意思で掴み取ることを決める。
だが、物語はそこで終わらない。
セレスは理解している。
本当の統治は、即位してから始まる。
壊れた制度の後始末。
王太子という肩書きの再定義。
影で生きてきた者たちの行き先。
腐敗を一掃した後に残るものを、どう生かすか。
それを選ぶのが、女王セレスティアの次の戦いだった。
「お前の代わりはいくらでもいる」と笑った婚約者が、翌日から報告書一枚書けなくなった件
歩人
ファンタジー
子爵令嬢リーゼロッテの取り柄は、文章を書くことだけ。
華やかさのかけらもない彼女は、婚約者アルベルトの政務報告、外交書簡、
演説原稿——その全てを代筆していた。
「お前の代わりはいくらでもいる」
社交界の花形令嬢に乗り換えたアルベルトは、笑ってそう言った。
翌日から、彼の机の上には白紙の報告書だけが積み上がっていく。
——代わりは、いなかった。
【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる