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雇用契約交渉
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「ではまず、雇用条件から詰めていきましょうか」
そういって美琴は何もない空間から4枚の書類を取り出した。異世界人は魔法を使えない。聖女は瘴気を祓うがそれは魔法ではない。そう思い込んでいた3人は目の前で収納魔法という高度な空間魔法を使った美琴に愕然とした。
アルフォンソが国王ら3人に書類を渡し、美琴の背後に戻ったところで美琴は再び口を開いた。すっかりこの場の主導権は美琴が握っている。
こんな小娘にと国王も宰相も大神官長もギリギリと奥歯を噛みしめ怒りを面に出さぬよう堪えている。まぁ、美琴にはバレバレだ。
「私は『魔の森の瘴気を祓うため』に召喚された。間違いないですね?」
美琴は『魔の森の瘴気を祓うため』という部分に言霊を込めた。高天原の神々に教えていただいた誓いにするためだ。
「ああ、そうだ」
美琴の意図を理解することなく、国王が首肯する。すると美琴に渡された書類──契約及び誓約書と表題が書かれた以外は白紙だった──に文字が浮かび上がる。『聖女の役割は魔の森の瘴気を祓うことであり、それ以外の如何なる職務も負うことなない』と。
「承知しました。では、私は『魔の森の瘴気を祓うため』に尽力いたしましょう。それが私の聖女としての役目ですから」
美琴は承諾するように見せかけて自分のやることを限定する。契約及び誓約書には先の文言に続いて『前述の役目以外を求められても聖女はこれを拒否出来、王国及び神殿はそれに異を唱えることは出来ない』と文字が浮かび上がった。それに国王も宰相も大神官長も驚く。聖女の存在を様々に利用する気満々だったのだ。
「続いて、私の身分ですが。聖女ということは神殿の『役職』だということでしょうか」
これには大神官長が直ぐに反応した。聖女の身柄を神殿が確保することが出来る。聖女が『役職』という言葉に力を込めたことには気づいていない。
「然様ですな。神のお導きによって異世界からお越しいただいたのです。神殿が聖女様をお支え致しますぞ」
勢い込んで言う大神官長に国王と宰相は苦い表情だ。聖女の身柄を王宮と神殿のどちらで預かるかは政治的に重要だったのだ。
「そうですか。では私は一時的に神殿の職員ということですね。そして『聖女』という役職を授かると」
聖女の言い回しに大神官長は一瞬不穏なものを感じたが、まずは聖女の身柄を確保することが重要だと、同意した。
するとまた書類に文言が現れた。『聖女は神殿と雇用契約を結び、神殿の一職員として『聖女』の役職を与えられる』と。その文言を目にし、大神官長も国王も宰相も焦りを感じた。何やら自分たちが想定し、期待していたものと違う流れになっているようだ。
「雇用契約……?」
「ええ、そうですよ。雇用契約です。ですから、先に職務を明確にしたんです。では労働条件を確定しましょう。一日の労働時間は午前9時から午後6時まで。間に1時間の休憩を挟む。時間外に聖女の役目を求める場合、時間外労働手当を支払う。聖女の職務として魔の森に出向く際は危険手当を支払うものとする。最低限はこんなところでしょうね」
「俸給は時給ですか、日給ですか、固定給ですか。聖女の身分は大神官長に次ぐものということでいいですよね。では大神官長とその次の地位の神官長の間の額ということになりますね」
美琴はどんどん要求を突きつける。それに呆気にとられた国王と宰相、大神官長はただ沈黙するしかできなかった。
「ま、待て、ヒロ・セ! いきなり何を言うんだ!」
しかし、ハッと気づいたかのような国王が声を荒げた。神殿は王家とは仲が悪いとはいえ、国家の機関である。当然俸給その他は国家予算から支払われる。大神官長と神官長の俸給は高額だ。その中間の俸給を聖女に払うだと!? 有り得ない。これまでの聖女召喚で聖女に俸給を支払ったなど記録に残ってはいない。王宮に住まわせ、衣食住の面倒を見るのだから必要ないだろう。しかも危険手当とはなんだ。そんなもの王国騎士団にも払ってはいない。元々戦うことが前提の組織だからそれも含む俸給になっているのだ。
「国王陛下、私は貴方の臣下ではありません。そして、異世界から誘拐されてこの国のために危険を冒して瘴気を祓うんです。この世界の住人ではない私にはそんな義務はないにも関わらず、押し付けられて。ゆえにあなたに呼び捨てにされる謂れはない。最低限の敬意は払ってください」
美琴はきっぱりと国王の無礼を突きつける。自分はこの国に何の関わりもないし、今現在の関わりはこの国に押し付けられたものだ。だから、臣下でもない自分が国王や宰相、大神官長に敬意を払う必要はない。飽くまでも敬意を払うのはその人格に対してだと突きつけた。
「聖女という仕事をするのですから、雇用契約を結び、報酬を含めた待遇を決めるのは当然ですよね? 少なくとも、それが私が生きてきた世界での常識です」
そちらが自分たちの都合と常識を押し付けるのならば、こちらも自分の世界の常識を示す。聖女だから尽くして当然などというそちらの都合を押し付けられる謂れはない。聖女としての役割を求めるならば、聖女の要求を呑み、聖女の世界のルールに合わせて対価を支払え。美琴が求めているのはそれだけだ。
「そもそもそれが嫌なら、私に聖女の役割を求めず、ただ放逐すればいいだけです。十分に現在の王国で対応が可能なのでしょう? 多少の費用は掛かるでしょうが、国の安全と引き換えならば安いものでしょう。私でなくても対応できるのだから、私の要求が不満ならば、私を排除すればいい」
そう、本当は必要のない聖女召喚なのだ。聖女の要求が不当だと思うならば、今すぐ王城から或いは王国から追い出せばいい。
しかし、国王も宰相も大神官長もそれを受け入れることは出来なかった。聖女一人に押し付けるほうが安上がりだ。出来が悪い分可愛い息子に聖女の夫という栄誉を与えられる。聖女のいる時代の大神官長という名誉を得られる。それぞれの思惑が、聖女の要求を断れなくしていた。
そういって美琴は何もない空間から4枚の書類を取り出した。異世界人は魔法を使えない。聖女は瘴気を祓うがそれは魔法ではない。そう思い込んでいた3人は目の前で収納魔法という高度な空間魔法を使った美琴に愕然とした。
アルフォンソが国王ら3人に書類を渡し、美琴の背後に戻ったところで美琴は再び口を開いた。すっかりこの場の主導権は美琴が握っている。
こんな小娘にと国王も宰相も大神官長もギリギリと奥歯を噛みしめ怒りを面に出さぬよう堪えている。まぁ、美琴にはバレバレだ。
「私は『魔の森の瘴気を祓うため』に召喚された。間違いないですね?」
美琴は『魔の森の瘴気を祓うため』という部分に言霊を込めた。高天原の神々に教えていただいた誓いにするためだ。
「ああ、そうだ」
美琴の意図を理解することなく、国王が首肯する。すると美琴に渡された書類──契約及び誓約書と表題が書かれた以外は白紙だった──に文字が浮かび上がる。『聖女の役割は魔の森の瘴気を祓うことであり、それ以外の如何なる職務も負うことなない』と。
「承知しました。では、私は『魔の森の瘴気を祓うため』に尽力いたしましょう。それが私の聖女としての役目ですから」
美琴は承諾するように見せかけて自分のやることを限定する。契約及び誓約書には先の文言に続いて『前述の役目以外を求められても聖女はこれを拒否出来、王国及び神殿はそれに異を唱えることは出来ない』と文字が浮かび上がった。それに国王も宰相も大神官長も驚く。聖女の存在を様々に利用する気満々だったのだ。
「続いて、私の身分ですが。聖女ということは神殿の『役職』だということでしょうか」
これには大神官長が直ぐに反応した。聖女の身柄を神殿が確保することが出来る。聖女が『役職』という言葉に力を込めたことには気づいていない。
「然様ですな。神のお導きによって異世界からお越しいただいたのです。神殿が聖女様をお支え致しますぞ」
勢い込んで言う大神官長に国王と宰相は苦い表情だ。聖女の身柄を王宮と神殿のどちらで預かるかは政治的に重要だったのだ。
「そうですか。では私は一時的に神殿の職員ということですね。そして『聖女』という役職を授かると」
聖女の言い回しに大神官長は一瞬不穏なものを感じたが、まずは聖女の身柄を確保することが重要だと、同意した。
するとまた書類に文言が現れた。『聖女は神殿と雇用契約を結び、神殿の一職員として『聖女』の役職を与えられる』と。その文言を目にし、大神官長も国王も宰相も焦りを感じた。何やら自分たちが想定し、期待していたものと違う流れになっているようだ。
「雇用契約……?」
「ええ、そうですよ。雇用契約です。ですから、先に職務を明確にしたんです。では労働条件を確定しましょう。一日の労働時間は午前9時から午後6時まで。間に1時間の休憩を挟む。時間外に聖女の役目を求める場合、時間外労働手当を支払う。聖女の職務として魔の森に出向く際は危険手当を支払うものとする。最低限はこんなところでしょうね」
「俸給は時給ですか、日給ですか、固定給ですか。聖女の身分は大神官長に次ぐものということでいいですよね。では大神官長とその次の地位の神官長の間の額ということになりますね」
美琴はどんどん要求を突きつける。それに呆気にとられた国王と宰相、大神官長はただ沈黙するしかできなかった。
「ま、待て、ヒロ・セ! いきなり何を言うんだ!」
しかし、ハッと気づいたかのような国王が声を荒げた。神殿は王家とは仲が悪いとはいえ、国家の機関である。当然俸給その他は国家予算から支払われる。大神官長と神官長の俸給は高額だ。その中間の俸給を聖女に払うだと!? 有り得ない。これまでの聖女召喚で聖女に俸給を支払ったなど記録に残ってはいない。王宮に住まわせ、衣食住の面倒を見るのだから必要ないだろう。しかも危険手当とはなんだ。そんなもの王国騎士団にも払ってはいない。元々戦うことが前提の組織だからそれも含む俸給になっているのだ。
「国王陛下、私は貴方の臣下ではありません。そして、異世界から誘拐されてこの国のために危険を冒して瘴気を祓うんです。この世界の住人ではない私にはそんな義務はないにも関わらず、押し付けられて。ゆえにあなたに呼び捨てにされる謂れはない。最低限の敬意は払ってください」
美琴はきっぱりと国王の無礼を突きつける。自分はこの国に何の関わりもないし、今現在の関わりはこの国に押し付けられたものだ。だから、臣下でもない自分が国王や宰相、大神官長に敬意を払う必要はない。飽くまでも敬意を払うのはその人格に対してだと突きつけた。
「聖女という仕事をするのですから、雇用契約を結び、報酬を含めた待遇を決めるのは当然ですよね? 少なくとも、それが私が生きてきた世界での常識です」
そちらが自分たちの都合と常識を押し付けるのならば、こちらも自分の世界の常識を示す。聖女だから尽くして当然などというそちらの都合を押し付けられる謂れはない。聖女としての役割を求めるならば、聖女の要求を呑み、聖女の世界のルールに合わせて対価を支払え。美琴が求めているのはそれだけだ。
「そもそもそれが嫌なら、私に聖女の役割を求めず、ただ放逐すればいいだけです。十分に現在の王国で対応が可能なのでしょう? 多少の費用は掛かるでしょうが、国の安全と引き換えならば安いものでしょう。私でなくても対応できるのだから、私の要求が不満ならば、私を排除すればいい」
そう、本当は必要のない聖女召喚なのだ。聖女の要求が不当だと思うならば、今すぐ王城から或いは王国から追い出せばいい。
しかし、国王も宰相も大神官長もそれを受け入れることは出来なかった。聖女一人に押し付けるほうが安上がりだ。出来が悪い分可愛い息子に聖女の夫という栄誉を与えられる。聖女のいる時代の大神官長という名誉を得られる。それぞれの思惑が、聖女の要求を断れなくしていた。
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