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聖女生活
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美琴が求めた雇用契約は、美琴が望んだとおりに結ばれた。
続いて美琴がしたのはエンリケ王子の婚約者であるアドリアナとの面会だ。このアドリアナ、異世界転生者である。美琴と同じ時代の同世代の女性という前世の記憶をしっかりと持っていた。それを登利津芙媛から聞かされ、面会を望んだのだ。実は異世界召喚前に登利津芙媛がアドリアナの夢に渡り、事情を説明済みだった。
アドリアナとしても異世界召喚聖女物のラノベのような展開は望んでいない。そんな展開になれば明らかに自分の役割は悪役令嬢だ。自分を見失い愚かな行為を仕出かしたり或いは冤罪で断罪されるなど冗談ではない。よって、アドリアナは登利津芙媛の提案を受け入れ、この王国での聖女の後見人となることとなった。
王子エンリケと側近の狙いはアドリアナとその父公爵にも伝えられ、エンリケの欲望から聖女を守るという大義名分を以て聖女の後見人役を勝ち取った。何よりも聖女の強い希望が後押しをした。ついでにアドリアナは『聖女を妻にと望むのであれば婚約者など邪魔でしょう』とまんまと婚約の白紙化にも成功していた。
美琴とアドリアナは元は同じ国同じ時代の同世代ということで馬が合ったのか、直ぐに意気投合した。
「リアナ、私にこの世界の常識とかルールとかマナーとか教えてくれる? それから社会制度やら庶民の生活、治安状態、経済状態、生きていくうえで貴方たちが当たり前だと思っていることは私にとっては当たり前ではないから」
美琴にそう言われたアドリアナは早速各種教師の手配をしてくれた。アドリアナは物心ついた時には前世の記憶があり、かつて生きていた世界とこの世界の違いに戸惑ったものだ。しかし、生まれた時から公爵家の娘として過ごしたことで、直ぐに馴染み適応出来た。だが、美琴は中高年になってからの異世界転移だ。見た目は女子高生だが。自分の時よりも大変だろうと、アドリアナはことあるごとに現代令和の日本との違いを説明し、美琴の生活をサポートしてくれた。
美琴は契約に従い、朝9時に神殿へ出勤し、そこで仕事をする。今迄の聖女は力の使い方を学び、瘴気の発生源へと赴いていた。乙女ゲームのように見目麗しい王子や騎士や魔術師とともに瘴気を祓うための旅に出ることもあったようだ。
しかし、美琴は違う。力の使い方は既に登利津芙媛によって教えられているから新たに学ぶことはない。瘴気の発生源は従来通り王国の組織が対応しているから聖女が赴くほどの規模にはなっていない。実は聖女が王都に存在することによって、瘴気の発生スピードは緩やかになっている。瘴気が消えることはないが大きくなることもなく、余計に聖女が出張るほどのものにはならないのだ。
ならば、と神殿は美琴に『聖女』らしい政治的宣伝をさせようとした。『癒し』の力を民衆に使い、神殿への支持を高めようとしたのだ。尤もそれは『契約違反です』の一言で拒否された。
ただ、美琴としても何の仕事もしていないのに高い報酬を受け取るのは気が引ける。アドリアナには『無理やり異世界に召喚されたんだから、その慰謝料だと思えばいい』と言われたが、支払われる報酬は元は民衆の収めた税だと思うとなんとなく居心地が悪かった。そこで、かつての聖女たちの手記を整理しまとめることと、孤児院や施療院への慰問や炊き出しなどを行うことにした。ラノベやアニメなどで『聖女の務め』としてポピュラーなものだ。ついでに神殿の営業時間内の治療院も手伝うことにした。
それに関しては改めて臨時業務契約を結んだ。聖女の手記の編纂は『瘴気対応の資料整理』ということで無償(正確には元々の業務内容に含まれるとした)、慰問や炊き出しには1回あたり王都の平均的な女給の日給程度、治療院は患者が払う治療費の半分と同額。それらの報酬を契約書に追加した。勿論、神殿と王城と話し合っての結果だ。
結果として美琴は『見た目は冷たそうだけど、気さくで面白い聖女様』として民衆に受け入れられた。それによって神殿と王城は聖女召喚に一定の評価を得、聖女の存在は貴族にも好意的に受け入れられた。何より、歴代の聖女のようにこの世界の常識を蔑ろにせず学ぼうとする姿勢を貴族たちは評価したのだ。
「ねぇ、登利津芙媛様、これ、元々の目的とずれてない?」
元々は『聖女を召喚すると面倒臭いし厄介だからやめよう』という流れにする予定だったはずだ。しかし、今、聖女の存在は好意的に受け入れられている。
『そうねぇ。でもまだ1か月でしょ。そろそろ俸給が支払われるから、国王や大神官長や宰相は慌て始めるはずよ』
美琴の疑問に登利津芙媛はニンマリと笑って答えた。
美琴は渡された俸給に愕然とした。契約時の金額の倍以上なのだ。何故と不思議に思った美琴に説明したのは、今やすっかり秘書官と化したアルフォンソである。
「聖女様の雇用契約は元々業務を『国境の魔の森の瘴気を祓う』と限定したものです。聖女様が王都にいらっしゃることにより、『国境の魔の森』以外の瘴気も抑えられておりますので、まずその分が上乗せされています。それから、歴代聖女様の手記の整理と編纂、孤児院や施療院への慰問、炊き出し、神殿治療院での治療、全てこれらは当初の契約にはない業務ですので、業務外手当てが発生しております。結果がこの俸給です。契約書にそのように記載されております」
確かに最初に契約を結んだ際に『国境の魔の森の瘴気を祓う』ことが聖女の仕事であり、それ以外は業務外になると記載した。その結果がこれか。道理で登利津芙媛が悪い顔で笑っていたはずだ。
ただ、単にこれだけで『聖女召喚メンドくせぇ』にはならないだろうと美琴は思った。しかし、ここから連鎖的に王国と神殿は聖女召喚を後悔するようになるのだ。
まず、高額な俸給支払いに困った王城と神殿は、美琴がやっていた仕事を全て辞めさせた。当初の契約にはない業務外なのだからしなくていいと。なので、暇になった美琴は契約変更を求めた。毎日出勤ではなく仕事があるときだけ出勤、俸給も毎月固定給ではなく、基本給プラス出来高制にしようと。基本給は神殿の新任神官と同じ額とした。当然王城と神殿は喜んで契約変更に応じた。しかし、これが民衆の不満を産むことになるのだった。
続いて美琴がしたのはエンリケ王子の婚約者であるアドリアナとの面会だ。このアドリアナ、異世界転生者である。美琴と同じ時代の同世代の女性という前世の記憶をしっかりと持っていた。それを登利津芙媛から聞かされ、面会を望んだのだ。実は異世界召喚前に登利津芙媛がアドリアナの夢に渡り、事情を説明済みだった。
アドリアナとしても異世界召喚聖女物のラノベのような展開は望んでいない。そんな展開になれば明らかに自分の役割は悪役令嬢だ。自分を見失い愚かな行為を仕出かしたり或いは冤罪で断罪されるなど冗談ではない。よって、アドリアナは登利津芙媛の提案を受け入れ、この王国での聖女の後見人となることとなった。
王子エンリケと側近の狙いはアドリアナとその父公爵にも伝えられ、エンリケの欲望から聖女を守るという大義名分を以て聖女の後見人役を勝ち取った。何よりも聖女の強い希望が後押しをした。ついでにアドリアナは『聖女を妻にと望むのであれば婚約者など邪魔でしょう』とまんまと婚約の白紙化にも成功していた。
美琴とアドリアナは元は同じ国同じ時代の同世代ということで馬が合ったのか、直ぐに意気投合した。
「リアナ、私にこの世界の常識とかルールとかマナーとか教えてくれる? それから社会制度やら庶民の生活、治安状態、経済状態、生きていくうえで貴方たちが当たり前だと思っていることは私にとっては当たり前ではないから」
美琴にそう言われたアドリアナは早速各種教師の手配をしてくれた。アドリアナは物心ついた時には前世の記憶があり、かつて生きていた世界とこの世界の違いに戸惑ったものだ。しかし、生まれた時から公爵家の娘として過ごしたことで、直ぐに馴染み適応出来た。だが、美琴は中高年になってからの異世界転移だ。見た目は女子高生だが。自分の時よりも大変だろうと、アドリアナはことあるごとに現代令和の日本との違いを説明し、美琴の生活をサポートしてくれた。
美琴は契約に従い、朝9時に神殿へ出勤し、そこで仕事をする。今迄の聖女は力の使い方を学び、瘴気の発生源へと赴いていた。乙女ゲームのように見目麗しい王子や騎士や魔術師とともに瘴気を祓うための旅に出ることもあったようだ。
しかし、美琴は違う。力の使い方は既に登利津芙媛によって教えられているから新たに学ぶことはない。瘴気の発生源は従来通り王国の組織が対応しているから聖女が赴くほどの規模にはなっていない。実は聖女が王都に存在することによって、瘴気の発生スピードは緩やかになっている。瘴気が消えることはないが大きくなることもなく、余計に聖女が出張るほどのものにはならないのだ。
ならば、と神殿は美琴に『聖女』らしい政治的宣伝をさせようとした。『癒し』の力を民衆に使い、神殿への支持を高めようとしたのだ。尤もそれは『契約違反です』の一言で拒否された。
ただ、美琴としても何の仕事もしていないのに高い報酬を受け取るのは気が引ける。アドリアナには『無理やり異世界に召喚されたんだから、その慰謝料だと思えばいい』と言われたが、支払われる報酬は元は民衆の収めた税だと思うとなんとなく居心地が悪かった。そこで、かつての聖女たちの手記を整理しまとめることと、孤児院や施療院への慰問や炊き出しなどを行うことにした。ラノベやアニメなどで『聖女の務め』としてポピュラーなものだ。ついでに神殿の営業時間内の治療院も手伝うことにした。
それに関しては改めて臨時業務契約を結んだ。聖女の手記の編纂は『瘴気対応の資料整理』ということで無償(正確には元々の業務内容に含まれるとした)、慰問や炊き出しには1回あたり王都の平均的な女給の日給程度、治療院は患者が払う治療費の半分と同額。それらの報酬を契約書に追加した。勿論、神殿と王城と話し合っての結果だ。
結果として美琴は『見た目は冷たそうだけど、気さくで面白い聖女様』として民衆に受け入れられた。それによって神殿と王城は聖女召喚に一定の評価を得、聖女の存在は貴族にも好意的に受け入れられた。何より、歴代の聖女のようにこの世界の常識を蔑ろにせず学ぼうとする姿勢を貴族たちは評価したのだ。
「ねぇ、登利津芙媛様、これ、元々の目的とずれてない?」
元々は『聖女を召喚すると面倒臭いし厄介だからやめよう』という流れにする予定だったはずだ。しかし、今、聖女の存在は好意的に受け入れられている。
『そうねぇ。でもまだ1か月でしょ。そろそろ俸給が支払われるから、国王や大神官長や宰相は慌て始めるはずよ』
美琴の疑問に登利津芙媛はニンマリと笑って答えた。
美琴は渡された俸給に愕然とした。契約時の金額の倍以上なのだ。何故と不思議に思った美琴に説明したのは、今やすっかり秘書官と化したアルフォンソである。
「聖女様の雇用契約は元々業務を『国境の魔の森の瘴気を祓う』と限定したものです。聖女様が王都にいらっしゃることにより、『国境の魔の森』以外の瘴気も抑えられておりますので、まずその分が上乗せされています。それから、歴代聖女様の手記の整理と編纂、孤児院や施療院への慰問、炊き出し、神殿治療院での治療、全てこれらは当初の契約にはない業務ですので、業務外手当てが発生しております。結果がこの俸給です。契約書にそのように記載されております」
確かに最初に契約を結んだ際に『国境の魔の森の瘴気を祓う』ことが聖女の仕事であり、それ以外は業務外になると記載した。その結果がこれか。道理で登利津芙媛が悪い顔で笑っていたはずだ。
ただ、単にこれだけで『聖女召喚メンドくせぇ』にはならないだろうと美琴は思った。しかし、ここから連鎖的に王国と神殿は聖女召喚を後悔するようになるのだ。
まず、高額な俸給支払いに困った王城と神殿は、美琴がやっていた仕事を全て辞めさせた。当初の契約にはない業務外なのだからしなくていいと。なので、暇になった美琴は契約変更を求めた。毎日出勤ではなく仕事があるときだけ出勤、俸給も毎月固定給ではなく、基本給プラス出来高制にしようと。基本給は神殿の新任神官と同じ額とした。当然王城と神殿は喜んで契約変更に応じた。しかし、これが民衆の不満を産むことになるのだった。
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