3 / 21
03.王子の教育係
しおりを挟む
ゲーム開始時、王太子と婚約者の仲は然程よくありません。特に悪いわけでもありませんが、互いに政略結婚なのだからこの程度だろうという感じですわね。
ですが、問題はございました。ゲームの王太子は恋愛至上主義なのです。婚約者のことは政治が絡むゆえに一応尊重はするものの、本当は恋愛を夢見ているのです。
なので、婚約者に対して『本当に愛する者を得たらそなたは飾りの王妃だ』なんて阿呆なことを堂々と言うのです。『いや、恋愛したいなら婚約者と愛情を育めよ』と前世のわたくしは突っ込みを入れておりましたわね。
何故そんなことを言う王子が出来上がったかといえば、原因は彼の幼少期の教育係でございました。王子の教育係であったはローエイ伯爵夫人はロマンス小説大好きなお花畑脳だったのです。何故そんな教育係を選んだのだと言いたいところでございますが、彼女の夫の政治力が凄かったということですわね。
そんなお花畑恋愛脳教育係の影響で、王太子は尊大な俺様野郎でひそかに運命の恋を夢見る恋愛脳という、王族としてはどうなのといった残念王子になってしまうのでございます。ゲームのわたくしに同情が禁じえませんわ。
乙女ゲームとしては理想的なヒーローでしょうけれど、こんな王子、現実問題としては大問題でございます。
王子に教育係がつけられるのは5歳のときです。なので、その前にわたくしは行動を開始いたしました。当時わたくし(同年の王太子も)は3歳でございました。
前世の記憶があり大人びていたわたくしは、両親や使用人など周りの大人に早熟な天才児と認識されておりました。勿論、幼児らしい舌ったらずな喋り方や仕草は愛らしいと愛でられてもおりましたけれど。
そういった周囲の誤解を利用して、ローエイ伯爵夫人を自分の教育係として招いていただいたのです。彼女やその家族が教育係としての就活をしておりましたから容易でしたわね。
因みに教育係の名前は設定資料集にございました。王太子のページに『政略結婚の空しさと真実の愛の尊さを教えた』として紹介されておりましたもの。
そうしてやってきたローエイ伯爵夫人。ことあるごとにお花畑恋愛脳を炸裂させました。真実の愛がいかに尊いか、政略結婚がどんなに悲惨か。真実の愛を知らずに政略結婚する愚かさと惨めさ。そんなことをまるで洗脳するかのように幼子に語るのです。
マナーや礼儀作法の講義は真面なのですけれど。いえ、かなり洗練されていて、それだけ見れば当代一の貴婦人といっても過言ではないような、気品のある洗練された美しさをお持ちでした。所作と頭の中身は関係ないのだと実感し、少々空しくもなりましたわね。
何度か夫人の講義を受けたわたくしはお父様に泣きつきました。勿論お芝居ですわよ。
「おとうしゃま、おかあしゃまのことをおきらいなの? せんしぇいがおっしゃるの。おとうしゃまとおかあしゃまはせいりゃくけっこんだからしあわせじゃないのよって」
確かに両親は政略結婚でございます。貴族社会において恋愛結婚などほとんどございませんものね。ですが、両親はその婚約期間に互いに信頼と愛情を育み、今でも仲睦まじいご夫婦でございますの。
最愛の妻との関係を否定されたお父様はお怒りになられましたわ。目が笑っていない笑顔で優しく凍えるような声でわたくしに詳細を尋ねられましたの。あれは今思い出しても恐怖体験ですわね。
「どういうことかな、ブラン? お父様はお母様のことが大好きだし、お母様もお父様のことが大好きだよ? だから今お母様のお腹には赤ちゃんがいるし、マシューやブランやケヴィンやジェフが生まれたんだよ」
我が家はこの当時6人家族でございました。現在は8人家族でございます。父と母、長男のマシュー、長女のわたくし、次男のケヴィン、三男のジェフリー、四男のマイクと五男のポールがおります。わたくしより下は年子ですわね。お母様、空き腹が殆どない状態でしたもの。どれほど仲睦まじいのかが判るというものですわ。
そうしてわたくしから詳しい話を聞いたお父様はローエイ伯爵夫人のことを徹底的に調べ、侍女たちに命じて授業内容を詳細に報告させました。雇う前にも評判などはお調べになったようですが、あのマナーと礼儀作法ですもの、問題は見つからなかったようですわね。
その結果、お父様は夫人を解雇なさいました。庶民や下位貴族の間で流行っている『真実の愛』という名の身分制度軽視の物語に毒されている、教育係に相応しくない人物と判断して。
やがて王太子(当時はまだ立太子しておられませんでしたから単なる第1王子でしたけれど)の教育係の選定が行われました。彼女は一応候補には上がったのですが、直ぐに弾かれたそうですわ。お父様が解雇の事情を説明なさったので。公爵家の教育係として相応しくないと解雇された人物を王家が雇うわけはございませんものね。
王太子の教育係はゲームとは別人となり、現実の教育係はしっかりとした教育をなさいました。政略結婚の意味、王族としての責任、寛容と慈愛の精神、平等と公平の違いなどなど。その結果、王子はまさに理想の王太子へと変化なさいました。ゲームの俺様恋愛脳ではなく、穏やかで紳士的な王族の責任と自負を持った貴公子へと。
ですが、問題はございました。ゲームの王太子は恋愛至上主義なのです。婚約者のことは政治が絡むゆえに一応尊重はするものの、本当は恋愛を夢見ているのです。
なので、婚約者に対して『本当に愛する者を得たらそなたは飾りの王妃だ』なんて阿呆なことを堂々と言うのです。『いや、恋愛したいなら婚約者と愛情を育めよ』と前世のわたくしは突っ込みを入れておりましたわね。
何故そんなことを言う王子が出来上がったかといえば、原因は彼の幼少期の教育係でございました。王子の教育係であったはローエイ伯爵夫人はロマンス小説大好きなお花畑脳だったのです。何故そんな教育係を選んだのだと言いたいところでございますが、彼女の夫の政治力が凄かったということですわね。
そんなお花畑恋愛脳教育係の影響で、王太子は尊大な俺様野郎でひそかに運命の恋を夢見る恋愛脳という、王族としてはどうなのといった残念王子になってしまうのでございます。ゲームのわたくしに同情が禁じえませんわ。
乙女ゲームとしては理想的なヒーローでしょうけれど、こんな王子、現実問題としては大問題でございます。
王子に教育係がつけられるのは5歳のときです。なので、その前にわたくしは行動を開始いたしました。当時わたくし(同年の王太子も)は3歳でございました。
前世の記憶があり大人びていたわたくしは、両親や使用人など周りの大人に早熟な天才児と認識されておりました。勿論、幼児らしい舌ったらずな喋り方や仕草は愛らしいと愛でられてもおりましたけれど。
そういった周囲の誤解を利用して、ローエイ伯爵夫人を自分の教育係として招いていただいたのです。彼女やその家族が教育係としての就活をしておりましたから容易でしたわね。
因みに教育係の名前は設定資料集にございました。王太子のページに『政略結婚の空しさと真実の愛の尊さを教えた』として紹介されておりましたもの。
そうしてやってきたローエイ伯爵夫人。ことあるごとにお花畑恋愛脳を炸裂させました。真実の愛がいかに尊いか、政略結婚がどんなに悲惨か。真実の愛を知らずに政略結婚する愚かさと惨めさ。そんなことをまるで洗脳するかのように幼子に語るのです。
マナーや礼儀作法の講義は真面なのですけれど。いえ、かなり洗練されていて、それだけ見れば当代一の貴婦人といっても過言ではないような、気品のある洗練された美しさをお持ちでした。所作と頭の中身は関係ないのだと実感し、少々空しくもなりましたわね。
何度か夫人の講義を受けたわたくしはお父様に泣きつきました。勿論お芝居ですわよ。
「おとうしゃま、おかあしゃまのことをおきらいなの? せんしぇいがおっしゃるの。おとうしゃまとおかあしゃまはせいりゃくけっこんだからしあわせじゃないのよって」
確かに両親は政略結婚でございます。貴族社会において恋愛結婚などほとんどございませんものね。ですが、両親はその婚約期間に互いに信頼と愛情を育み、今でも仲睦まじいご夫婦でございますの。
最愛の妻との関係を否定されたお父様はお怒りになられましたわ。目が笑っていない笑顔で優しく凍えるような声でわたくしに詳細を尋ねられましたの。あれは今思い出しても恐怖体験ですわね。
「どういうことかな、ブラン? お父様はお母様のことが大好きだし、お母様もお父様のことが大好きだよ? だから今お母様のお腹には赤ちゃんがいるし、マシューやブランやケヴィンやジェフが生まれたんだよ」
我が家はこの当時6人家族でございました。現在は8人家族でございます。父と母、長男のマシュー、長女のわたくし、次男のケヴィン、三男のジェフリー、四男のマイクと五男のポールがおります。わたくしより下は年子ですわね。お母様、空き腹が殆どない状態でしたもの。どれほど仲睦まじいのかが判るというものですわ。
そうしてわたくしから詳しい話を聞いたお父様はローエイ伯爵夫人のことを徹底的に調べ、侍女たちに命じて授業内容を詳細に報告させました。雇う前にも評判などはお調べになったようですが、あのマナーと礼儀作法ですもの、問題は見つからなかったようですわね。
その結果、お父様は夫人を解雇なさいました。庶民や下位貴族の間で流行っている『真実の愛』という名の身分制度軽視の物語に毒されている、教育係に相応しくない人物と判断して。
やがて王太子(当時はまだ立太子しておられませんでしたから単なる第1王子でしたけれど)の教育係の選定が行われました。彼女は一応候補には上がったのですが、直ぐに弾かれたそうですわ。お父様が解雇の事情を説明なさったので。公爵家の教育係として相応しくないと解雇された人物を王家が雇うわけはございませんものね。
王太子の教育係はゲームとは別人となり、現実の教育係はしっかりとした教育をなさいました。政略結婚の意味、王族としての責任、寛容と慈愛の精神、平等と公平の違いなどなど。その結果、王子はまさに理想の王太子へと変化なさいました。ゲームの俺様恋愛脳ではなく、穏やかで紳士的な王族の責任と自負を持った貴公子へと。
201
あなたにおすすめの小説
良くある事でしょう。
r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。
若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。
けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~
真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。
自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。
回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの?
*後編投稿済み。これにて完結です。
*ハピエンではないので注意。
【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜
BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。
断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。
※ 【完結済み】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる