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田中紗季の日常
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今日も、ここへ来た。
明日も、多分来る。
「もう見慣れてきちゃったな」
お世辞にも都会とはいえない街を見下ろして呟く。初めて来た時は怖くて10秒も居られなかったのに
「少し成長したってことかな」
苦笑気味に自分をそう評価する。
靴を脱いで、落ちるギリギリまで縁に近づく。腕をめいっぱい開いて風を感じる。
「な、何してるんですか?」
いきなり後ろから女性の声が聞こえて驚いて振り返る。女の子だ。手に包みを持っていた。
「「――あっ」」
振り返った拍子に足を滑らせ、4階分の高さから落ちる――
「あっ……ぶなかったぁ」
瞬間、女の子が咄嗟に手をつかんで引き寄せた。
「何してたんですか!あんなところにいたら落ちちゃいますよ!」
女の子は少し涙目になって怒っていた。
「――ふっ、あははは」
「なっ……」
そんな彼女を見て、笑いが止まらなくなっていた。
「なんで笑ってるんですか!こっちはすごく怖かったのに……」
それを聞いて私はハッとした。この子は怖さを顧みずに助けてくれたのだ。初めてここに来た時、私は10秒も我慢できなかったのに。
「ごめんごめん。別に飛び降りるつもりはないから安心して……って、結局落ちかけたんだけどね」
女の子の顔を伺いつつ軽口を叩く。
「私、田中紗季、2年生。あなたは?」
「私は葉村叶って言います」
「それにしても、ここに何しに来たの?初めて見る顔だけど」
「あ、私、ご飯食べに来たんです。ここは景色が良さそうだったから……って、あれ?ご飯がない?!」
「ご飯って、あれのこと?」
女の子の後ろに落ちていた包みを指さす。
「あぁ、私の昼ご飯……」
包みは開き、弁当の中身は地面に溢れていた。恐らく私を助けた時投げてしまったのだろう。
それにしても、さっきより泣きそうになっているのはどういうことなのか。また笑いそうになるが、堪える。
「ご、ごめんね?そうだ、購買でパン買ってあげるよ」
「本当ですか?」
「ほんとほんと。助けてくれたお礼になんでも買ってあげる」
立ち上がって歩き出す。二人でこの場を後にする。
「じゃあ、カレーパンと焼きそばパンとあんぱんとメロンパンと、デザートにクリームパンと……」
「あはは……意外と食いしん坊だね、はは……」
今日も、ここへ来た。
明日も、多分来る。
でも、目的は今日までとは違う。
明日も、多分来る。
「もう見慣れてきちゃったな」
お世辞にも都会とはいえない街を見下ろして呟く。初めて来た時は怖くて10秒も居られなかったのに
「少し成長したってことかな」
苦笑気味に自分をそう評価する。
靴を脱いで、落ちるギリギリまで縁に近づく。腕をめいっぱい開いて風を感じる。
「な、何してるんですか?」
いきなり後ろから女性の声が聞こえて驚いて振り返る。女の子だ。手に包みを持っていた。
「「――あっ」」
振り返った拍子に足を滑らせ、4階分の高さから落ちる――
「あっ……ぶなかったぁ」
瞬間、女の子が咄嗟に手をつかんで引き寄せた。
「何してたんですか!あんなところにいたら落ちちゃいますよ!」
女の子は少し涙目になって怒っていた。
「――ふっ、あははは」
「なっ……」
そんな彼女を見て、笑いが止まらなくなっていた。
「なんで笑ってるんですか!こっちはすごく怖かったのに……」
それを聞いて私はハッとした。この子は怖さを顧みずに助けてくれたのだ。初めてここに来た時、私は10秒も我慢できなかったのに。
「ごめんごめん。別に飛び降りるつもりはないから安心して……って、結局落ちかけたんだけどね」
女の子の顔を伺いつつ軽口を叩く。
「私、田中紗季、2年生。あなたは?」
「私は葉村叶って言います」
「それにしても、ここに何しに来たの?初めて見る顔だけど」
「あ、私、ご飯食べに来たんです。ここは景色が良さそうだったから……って、あれ?ご飯がない?!」
「ご飯って、あれのこと?」
女の子の後ろに落ちていた包みを指さす。
「あぁ、私の昼ご飯……」
包みは開き、弁当の中身は地面に溢れていた。恐らく私を助けた時投げてしまったのだろう。
それにしても、さっきより泣きそうになっているのはどういうことなのか。また笑いそうになるが、堪える。
「ご、ごめんね?そうだ、購買でパン買ってあげるよ」
「本当ですか?」
「ほんとほんと。助けてくれたお礼になんでも買ってあげる」
立ち上がって歩き出す。二人でこの場を後にする。
「じゃあ、カレーパンと焼きそばパンとあんぱんとメロンパンと、デザートにクリームパンと……」
「あはは……意外と食いしん坊だね、はは……」
今日も、ここへ来た。
明日も、多分来る。
でも、目的は今日までとは違う。
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