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佐原琴音の日常
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昼休み、佐原琴音は友達と購買に来ていた。
「あははは、でさぁ……」
ちらと横を見ると、あの女がいた。誰にも聞こえないほど小さく舌打ちをし、近づいた。
「あれぇ、紗季さんじゃん。なにしてんの?」
田中紗季は肩を跳ね上げ、顔を背けた。
「……は?何、感じ悪。なんか言いな――」
「あっ、先輩!パン買ってきましたよ!」
紗季へ手を伸ばした瞬間、遠くから女の子の声が聞こえた。1年生のようだ。
「何、後輩パシリに使ってんの?」
「ち、違うよ」
紗季は短くそう言って、後輩の方へ走って行った。
「え……!?これ全部?何個買ったの?」
「20個くらいですね。うへへ、ここのパン全部美味しいですよね」
「私のおこづかい……」
遠ざかる2人の後ろ姿を見送る。
「なんなのよあれ」
*
屋上へ続く階段、その踊り場
「あ、この前の後輩ちゃんじゃん」
「えっ、あ、こんにちは……この前?」
「覚えてないか。そりゃそうだね」
「なにかご用ですか?」
「1つ忠告というか、アドバイス?かな」
あの女を慕っているであろうこの少女の目の前で、あの女を侮蔑するように、
「田中紗季とは関わらない方がいいよ。ひどい目にあうから」
言いたいことは言った。教室に戻ろう。
「――ひどい目っていうのは、紗季先輩にですか、それともあなたに……ですか?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。徐々に言葉の意味を理解していき、それと同時に怒りが込み上げてきた。少女を押し倒し、馬乗りになる。
「あんた、あいつのことを何も知らないんだね」
「分かりませんよ。先輩、自分のことは何も話してくれないですから。でも」
少女は、その体格からは想像できないほどの力で琴音を押し返し、
「屋上で初めて会った時、先輩が本気で飛び降りようとしてたのは分かったから!振り向いた時の泣きそうな目は本当だったから……だから、私が何とかしなくちゃって、思ったんです!」
飛び降りようとした。その言葉に琴音は呆然とした。身体中から力が抜けた。
「先輩を悪く言わないでください。仲良くしてあげて――」
「――何を今更」
「え、あ、ちょっと!」
逃げてしまった。走って、走って、走って。気づけば教室の前まで戻ってきていた。深呼吸をして気持ちを整え、ドアを開ける。
「みんな、おまた……せ」
ドアを開けた目の前に、田中紗季がいた。心臓が跳ね上がり、言葉が出なくなった。紗季の方も驚いていたが、顔を逸らして逃げてしまった。
その様子を呆然と見送り、ため息をついた。
「なんなのよ、ほんとに」
「あははは、でさぁ……」
ちらと横を見ると、あの女がいた。誰にも聞こえないほど小さく舌打ちをし、近づいた。
「あれぇ、紗季さんじゃん。なにしてんの?」
田中紗季は肩を跳ね上げ、顔を背けた。
「……は?何、感じ悪。なんか言いな――」
「あっ、先輩!パン買ってきましたよ!」
紗季へ手を伸ばした瞬間、遠くから女の子の声が聞こえた。1年生のようだ。
「何、後輩パシリに使ってんの?」
「ち、違うよ」
紗季は短くそう言って、後輩の方へ走って行った。
「え……!?これ全部?何個買ったの?」
「20個くらいですね。うへへ、ここのパン全部美味しいですよね」
「私のおこづかい……」
遠ざかる2人の後ろ姿を見送る。
「なんなのよあれ」
*
屋上へ続く階段、その踊り場
「あ、この前の後輩ちゃんじゃん」
「えっ、あ、こんにちは……この前?」
「覚えてないか。そりゃそうだね」
「なにかご用ですか?」
「1つ忠告というか、アドバイス?かな」
あの女を慕っているであろうこの少女の目の前で、あの女を侮蔑するように、
「田中紗季とは関わらない方がいいよ。ひどい目にあうから」
言いたいことは言った。教室に戻ろう。
「――ひどい目っていうのは、紗季先輩にですか、それともあなたに……ですか?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。徐々に言葉の意味を理解していき、それと同時に怒りが込み上げてきた。少女を押し倒し、馬乗りになる。
「あんた、あいつのことを何も知らないんだね」
「分かりませんよ。先輩、自分のことは何も話してくれないですから。でも」
少女は、その体格からは想像できないほどの力で琴音を押し返し、
「屋上で初めて会った時、先輩が本気で飛び降りようとしてたのは分かったから!振り向いた時の泣きそうな目は本当だったから……だから、私が何とかしなくちゃって、思ったんです!」
飛び降りようとした。その言葉に琴音は呆然とした。身体中から力が抜けた。
「先輩を悪く言わないでください。仲良くしてあげて――」
「――何を今更」
「え、あ、ちょっと!」
逃げてしまった。走って、走って、走って。気づけば教室の前まで戻ってきていた。深呼吸をして気持ちを整え、ドアを開ける。
「みんな、おまた……せ」
ドアを開けた目の前に、田中紗季がいた。心臓が跳ね上がり、言葉が出なくなった。紗季の方も驚いていたが、顔を逸らして逃げてしまった。
その様子を呆然と見送り、ため息をついた。
「なんなのよ、ほんとに」
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