転生したら史上最強の猫ちゃんでした~唸れ肉球伝説~

岸谷 畔

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魔王アムダール復活編

第12話

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チェスが転生したこの世界ではかつて人と魔物、魔族達の戦いがあった。

魔族は魔物を率いて、その圧倒的な力で人間達を蹂躙した。魔族達の力の前になす術もなく斃れていく人間達だったが、そこに天使達が介入した。

天使はブライゼ含むドラゴン達を人間の味方として人間の勢力に加勢させ、更にはシャルロット・クローリーをはじめとする勇者達に力を与え、その勇者一行らの手により魔王アムダールは斃され、アムダールは魂にも封印を施され世界に平和が訪れた。

そして現代。魔王の存在が消えた今、魔族や魔物は一部を除き、奴隷として人間に蔑み虐げられる、人と神、天使だけの平和な時代が訪れたのである。

魔物や魔族らはかつての勢いや力を失い、もはや人間と天使に抗うものはいないと思われた。

しかし現世から隔絶された冥界でも天国でも地獄でもない場所、虚空ーーすなわち虚無空間にて、アムダールは意識だけ生きながらえて現世を静かに見ていた。

虎視眈々と、再び自分が支配していた世をもう一度手に入れるためにーーー

「もうすぐだ。もうすぐ俺は現世に復活し、忌々しき天使共を滅ぼしてくれる…!!」

♢♢♢

ここはイルリットの森。イレイン王国とティアセル帝国を結ぶ巨大な樹海である。この樹海には数多くの魔物や魔族が暮らしており、広大な自然が広がっている。そして、このイルリットの森には、人狼の隠れ里が広がっていた。

「ただいま!」

「おう!パトリックか!お帰り!」

「ジーリオ!待ってた?」

「おうよ!今回も大物を討伐してきたんだろ?」

「うん!今回ちょっと手こずっちゃって、腹に穴開けられちゃったけど….でもなんとか自前の回復魔法で自分の傷は治して退治できたよ!」

パトリックと呼ばれた黒い髪に、サファイアのような青い目をした少年は嬉しそうに鞄から何かを出す。それは吸血鬼の体内から取れた魔石だった。パトリックの両腕でようやく抱え切れるほどの大きさである。

「凄え!今回の魔石、超でけえじゃん!これで俺ら大金持ちじゃね?」

「うん。長に出して、この人狼の里を切り盛りするお金にしてもらうんだ。半端者のボクにはこういう事しか出来ないから」

「何言ってんだよ。クルースニクの吸血鬼みたいな不死の魔族を殺す力を持ったお前にしか出来ない事じゃんか。俺なんて雑用ばっかだぜ?それに、お前が人間と魔族のハーフで、人間を繋ぐ架け橋になってくれて、そんで吸血鬼狩りをして、人間との関係を取り持ってくれてるからこの人狼の里も存在が成り立ってるんだよ」

「そうなのかな。ボク、人間にも魔族にも馴染めてないし、人狼の友達も人間の友達いないし。理解者は長とジーリオとシェーンくらいだよ」

「3人もいるからいいじゃねえか!何だよ、俺達じゃ不満か?え?」

「いやそんな事は~…って頭ぐりぐりするのやめてよ!」

ジーリオはパトリックの頭に拳をぐりぐりとめり込ませる。もちろん、愛ゆえの行動なので手加減はしている。

「でもさ、ジーリオ。この平和っていつまで続くんだろうね」

「何だよ改まって」

「近頃ね、変な噂を聞くんだ。この人狼の里で、俺に食われろ、さすればお前を力として人間を滅ぼしてくれようって声が夢で聞こえる、みたいなさ」

「はー?何だよそれ。無責任な誰かが流したデマじゃね?」

「ううん、ボクも聞いたんだ、夢の中でその声を。シェーンにも聞いたらわたしも聞きました、だって」

「はあ、みんな疲れてんだよ。俺みたいに適当に生きてりゃ良いんだよ。このご時世、戦闘力よりも生産力の方が需要あるんだからさ。それに、俺達人狼みたいな魔族でも人間と共存できてはいるしな。まあ、人狼は外見も狼の姿に変身しなければ人間と変わらないし、そんな何処の馬の骨ともわからん奴の声とかほっときゃ良いんだよ。俺も力もそこそこあるし、身体強化の魔法も使えるから不審者がいればやっつけてやるよ!」

「だと良いんだけど…」

「考えすぎだぜパトは。さあさ、俺が焼いたアップルパイでも食って元気出せよ!」

「うん!そうだね!あ、シェーンと長も呼んで良いかな?」

「おうよ!そう言うと思って4人分焼いたぜ!」

♢♢♢

「ふむ、やはりジーリオの焼いたアップルパイは美味いな」

「美味しい!紅茶も合いますね♪」

「だろ~!俺の腕は世界一だからさ!」

「それ言い過ぎじゃぞ。…そしてパト、今回の成果はどうじゃ?」

「あ、そうだった。長にも見せるね。これを」

「うむ。巨大でサイズは申し分ない。明日これをオラクルハイトにでも売りにいくか」

「凄い!でもわたし達みたいな魔族が売るものって買い叩かれるんだろうな。パトリックくんが折角傷つきながらも取ってきてくれたものなのに」

「仕方ないよ。いくら人間と共存できてるからといって千年前の戦いで魔族は人間に負けたんだ。むしろ、奴隷みたいな立場にならないだけまだ良いよ。ボクが完全に人間だったらさ、こんな事にならなかったのかな…」

パトリックがそこまで言うと、ハッとした顔で発言を訂正した。

「ご、ごめんなさい!!そんなつもりで言ったんじゃ…」

「良いんですよ。パトリックくんがそう思うのも無理はないです。わたしだって、人間なら良かったって思った事はありますよ」

「そうじゃな。わしももう700年ほど生きてるが、人間達に迫害され、弾圧されてきた。いつの世も魔は影の世界で生きていくしかないと嫌でも思い知らされるのだよ」

「でもよ。こうしてみんなと仲良く暮らせるだけでも。俺はみっけもんだと思うよ。な、長、シェーン?」

「うむ」

「はい!」

会話の途中でパトリックが時計を見ると、午後の5時を指していた。

「あ、もうこんな時間…. そういえば長、今日って宴をやるんだよね?年に一回の」

「ああ、そうじゃ。なんと今日は人間達も来るんじゃよ」

「えっ?人間が来るんですか?」

「ああ。なんでも日頃から野菜を作ったり、イレインやティアセルで働いてる者達への労いも含まれていてな。人狼に対して友好的な人間達と宴をするのじゃよ」

「本当ですか?仲良くなれるかな…」

「わしが野菜を何回も納品してるお得意様も来るみたいじゃから、きっと仲良くできるさ。なに、世界は悪意に満ち溢れているわけじゃないんじゃよ」

「そっか….そうだよね!さっきは変な事言っちゃってごめんなさい!」

パトリックは長に向かって深々とお辞儀をする。

「はは、そんなにかしこまるな。さて、パトよ。今日はお祭りなんだし、そのネクタイとかコートのようなカッチリとした服装も着替えなさい。年相応の軽装でいい」


「あ、そうですね!というか、カッチリした服しか持ってなくて。私服でも貴族が着るような服しか…」

「なら俺が貸してやるよ!あ、でも俺の方が身長差10cmくらいあるから少しブカブカしてるかもだけど」

「じゃあ、お言葉に甘えて借りようかな…」

和気藹々とした人狼の里での会話。そして、人間達との交流会が始まろうとしていた。

そう、これが、今夜がーーーー

地獄の始まりだった。 
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