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14歳になったパルマと私は暮らし続けていく

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 パルマと過ごし始めてから、5年の月日が経った。
 今日をもってして、魔女見習いになったパルマは私とお揃いのデザインである黒のローブを羽織っており、リュックサックには私とパルマのそれぞれが作った薬が入っている。
 パルマにとって今日は初めての納品。
 これから正式な魔女になるまでは私のおつかいや自分で作ったのを売りに行くため、何度もやることになる。

 だから初めての納品を見届けるために一緒に町へ来て並んで薬屋へと向かっている。
 横にいる14歳になったパルマの身長は、私より6㎝高い161㎝の高さになった。
 腰まで伸びている金髪は出会ったときよりも美しい。顔も素敵な美少女になり、10人いれば9人は美人だと言うほどに育ったと思う。

 現に大通りで私と一緒に歩いている今、男女問わずに視線を強く感じる。いつも来ている町だというのに、みんなパルマが気になるのね。
 魔女である私と同じ服を着ているということもあるだろうけれど。まぁ今までパルマは魔女の弟子と言ったことはないから、顔見知りの人も驚いているに違いない。
 特に今のパルマはおしゃれ度が私より高いから。同じ黒ローブを着ているけれど、髪には銀色のヘアピンを左右それぞれにひとつずつ身に着けて、前髪を分けている。
 ぼさっと肩まで赤い髪を伸ばしている私と比べれば、小さなヘアアクセだけで目を惹く可愛さだ。
 化粧も私が教え、私好みの凛々しくもかわいいメイクになっている。

「あぁ、パルマは今日もかわいいわねぇ」
「そりゃあ、シエナにはいつも良く見られたいから」
「中身までかわいいだなんてずるくないかしら。将来はきっと誰もが惚れる美女になるのが今から楽しみだわ!」

 パルマはほんと、いい子に育った。子育て経験がない私にしては頑張ったと言ってもいいんじゃないかしら?
 育てたというよりも、自分から育っていったと言ったほうが正しいのだけど。子供に対する教育なんてわからないから、大人相手に対応するよう多くのことを教えたし。
 それに足りないことがあれば自分から聞き、近くの村に行っては村長に勉強を教わりに行き、一緒に農具を持って汗を流すという勤勉さ。
 本人に聞いたら、知らない知識が増えるのがなによりも楽しいと。もう魔力、性格のどちらも魔女向きね。性別が男だけれど、魔女向きだわ!
 これからのことを考え、初めて仕事でパルマと一緒に歩くのを楽しんでいるとパルマは地面を見ながらため息をつき、私に聞こえないほどの小さな声で何かを言った。

「……ボクを見てくれるのは、1人だけでいいんだけどな」
「今、なんて言ったの?」
「やっとシエナと一緒に仕事ができるんだなって」
「そうね。半人前の魔女として今日からあなたの人生が始まるのよね。記念に何か買ってあげるわ。何か欲しいものはある?」
「町を出るまでに考えておくよ」

 お互いに柔らかい笑みを浮かべあい、今日この日、一緒に歩く時間を楽しんでいる。
 それから私たちは薬屋へと向かって歩いていく。パルマと出会った路地を通り、いつもの薬屋へ。
 売るのはパルマが作った筋肉痛に効く塗り薬だ。店の店主はパルマが出したものをひとつひとつ丁寧に見ていき、値段をつけていく。
 それらは私が作ったものより3割ほど安く買い取られていった。
 それを不満に思ったパルマが店主へと詰め寄り、値段が低かった原因と値上げ交渉を始めるけど、私は口を出さない。
 こうやって成長していくんだなぁ、と昔の自分を思い出しながら温かい目で見守った。

 それからパルマは粘ったものの、結局は店主の言うとおりの値段で買い取られた。まだ品質は良くないから、店主が決めた値段は正当なものなのがわかる。
 落ち込みながらお金を受けとったパルマを連れて店の外へ出ると今日の目的は達成だ。あとは自由に動ける。

「シエナ、ごめん。やっぱり半人前の出来だったみたい。ボクとしては1割安いかなぐらいで考えていたけれど」
「いいのよ、それでも。塗り薬を作る努力を私は知っているから。それと、そんなに急いで魔女になろうとしなくてもいいのよ?」

 ひどく大きなため息をついて落ち込んだパルマに、私はなぐさめの言葉をかけた。
 パルマはあまりにも急ぎ過ぎているように思えるから、少しは失敗をして慎重に、ゆっくりと考えて生きていって欲しい。
 早く魔女として一人前になりたい理由はよく知らない。どんなに聞いてもそれだけは教えてくれなかった。魔女になっても、その力を悪いことには使わないだろうから、ちょっとの秘密ぐらいあっても気にしない。

「ボクは早く一人前になって、シエナに認めてもらいたいんだ」
「急いでも良い魔女になるとは―――」

 私の前に回りこんで、私の目をまっすぐみつめて言ってくるパルマに返事をする途中に言葉は止められてしまった。
 止められた理由は、パルマが私の右手を手に取り、身をかがめて手のひらにキスをしてきたから。
 手のひらに感じたものは柔らかくてすべすべして気持ちいいもの。手のひらとはいえ、キスはキス。
 パルマの唇の感触に頭がまっしろになっていると、パルマは手を離して私の顔へと近づき、耳のそばでささやく。

「好きだよ、シエナ。いつかボクだけのモノにしたい」

 普段より低い声はかわいいパルマではなく、1人の男の子としての声だった。
 ささやかれると心臓がドキドキして顔が熱くなってきてしまう。
 あぁ、男の人にこんなふうにささやかれたのは初めて。しかも今までかわいい男の子だと思っていたのに、急に1人の男になるなんて。
 口を開けて放心している私に、パルマは色っぽく怪しい笑みを浮かべて離れていく。


「さて、次はご飯を食べに行こう。ボクの初めて記念日だから、今日はいっぱい具が入ったピザを食べたいんだ」

 先に歩き出すパルマに、私は言葉もなくついていく。
 もう魔性の女、いえ、魔性の男と言ってもいいと私は強く思う。
 女の子の育て方をしたのに、いったいどこでこんな男の子に成長したんだろう。
 さっきの愛の告白的なものは、こう、親愛的なものではなく恋愛的な意味だと思うけれど……。

 私はこれからどうすればいいの? 今までは時々一緒のベッドで寝て、お風呂にも入っていたけど恥ずかしくてもうできない。
 手のひらにキスされてから、もう男の人として意識してしまうようになった。
 ……一瞬の出来事すぎて、頭の中がパルマのことでいっぱいだ。

「シエナ?」

 先に歩いていたパルマが、立ち止まっていた私に近づいて手を引っ張って歩き出す。
 その手はキスされた手。そして繋がれた手は男の子の手だ。目の前にいるパルマはかわいい女の子に見えるけど、声とキスと手の感触で男の子なんだぁと改めて思う。
 ぼぅっとしながら連れていかれるままだったけれど、冷静さが戻ってくると、さっきの言葉に気づく。
 それは私への告白のこと。
 段々とその意味を理解して照れてきてしまう。
 まさか305歳になった今、14歳の子にあんなことを言われるなんて。

「ううん、なんでもないわ。ほら、いきましょう」

 私はパルマから手を離し、パルマの前を歩く。今はまだ師匠と弟子の関係だけれど、将来はもしかしたら同じ場所にいるんじゃないかと思う。
 そして、それはそれで、きっと幸せなことなんじゃないかなって。
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