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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。
十七話
しおりを挟むルーファスの怒りに燃える瞳は真っ直ぐ団長に向けられていたが、迸る稲妻は部屋の中の人々を無差別に昏倒させていた。その中で、睨まれている当の団長だけが意に介した様子もなく、平然と俺の胸を掴んでいる。
俺より大きな手で後ろから右の胸のふくらみを掴み、もう片方の丸太のような腕が俺の腰に絡んでいた。団長の手つきには性的な気配がないからか、俺は特に何も感じない。
だがルーファスにとっては、違ったらしい。
「その手を、離せ……!」
「まだ精神汚染が抜けきってないのか?悔しかったら取り戻してみせろ」
「――ッ!!」
ざわっ、と怒髪天を衝く勢いで光と雷の魔力を迸らせたルーファスの前に、命知らずな人影が立ち塞がった。ちょっと存在を忘れかけていたマリーだ。魔術の素養は高いほうなのか、ルーファスの力に昏倒する騎士達の中でまだピンピンしてる。
まあ、そうか。光と相性の悪い闇魔法の使い手というだけでなく、彼女もルーファスと拮抗するほどの実力の持ち主なんだろう。
「ルーファス様!正気に戻ってくださいませ!」
お、お前が言うか……。
ポカンとして口を半開きにしてしまったのは、俺だけじゃない。悲劇のヒロインよろしくルーファスに訴えかけているマリー以外、部屋の中で意識を保っている人間はほぼ同じ気持ちになっていた。
お前が言っちゃうかぁ、それ。
「そんな男の言うことになど、心乱されないでくださいまし!さあ、わたくしと帰りましょう!」
どんだけ性格に難があろうとも、マリーの闇魔法の実力は確かだ。あのルーファスが人形になるくらいなんだから。
マリーの周囲に黒い霧がふわりと立ち込め、それが膜のようにルーファスを包み込みはじめる。あ、あれヤバいんじゃないか?いいのか止めなくて?
間近にいる団長の顔を見て視線で問いかける。ルーファスの方を見ていた団長は俺の視線に気付いて振り向くと、問題ないとでも言うように頷いた。
本当にいいのか?これも策の一部だってのか。
半信半疑な俺の視線にふっと唇の端をつり上げた団長は、俺の耳元に顔を寄せてきた。
「まあ見ていろ」
なんで無駄に低い囁き声なんだ?吐息が耳に掛ってめちゃくちゃくすぐったいんだが……。
そんな事を思ったのは一瞬だった。バチッバチッ、と大きな光と稲妻が部屋を走り抜け、団長の頬のスレスレを通って後ろの窓ガラスにぶつかる。もちろん、ガラスは木っ端微塵に弾け飛んだ。
「キャア!」
悲鳴を上げたのはマリーだった。壁側に弾き飛ばされたらしく、侍従がその身体を受け留めている。あ、そっか貴族令嬢だもんな、そりゃあ一人で乗り込んできたりはしないか。お付きの一人や二人いるはずだわ。
「ルーファス様……なぜ……」
マリーの絶望に染まったような声が聞こえたが、ルーファスはそちらに目もくれず俺の方へつかつかと歩み寄ってくる。いや、俺じゃないなこれ、団長狙いだな?
団長が俺の腰から手を離し、ルーファスに向き直ろうとした――刹那。視界の端でギラリと銀色の光が瞬いた気がした。
俺の身体は無意識に動いていて、あと数歩の距離だったルーファスに駆け寄る。そして突き出されたナイフを腹で受け止めた。ぐっと腹筋に力を入れると刃がそこで止まり、ナイフの柄を持っていたマリーが蒼白な顔色をしながら俺を見上げる。
「嬢ちゃん、出来ればそういうモノは一生持たずに生きて欲しかったなァ」
近くで見れば、このマリーという貴族令嬢がまだ10代そこそこなのが判った。銀のカトラリーや万年筆より重たいものは持ったことがないんだろう。そんな白魚のような手に、他人を傷つけるためのナイフは似合わない。生きるか死ぬか、明日をも知れない盗賊団じゃねーんだから。そんなもん、知らずに生きられたほうがいいんだ。
まんまるに見開いた海のような青い瞳が、俺の苦笑いを映している。
ナイフは随分と使い古された色の柄をしていた。先程マリーを受け止めた侍従の持ち物だろう。本人は受け止めた時の衝撃で壁のほうで伸びちまってるが。
「……ほら、手ぇ離せ。ゆっくりでいいぞ」
ガチガチに固まって震えるマリーの手を、ナイフの柄から外させる。すると崩れ落ちるように床に座り込んでしまった。
俺はナイフを引き抜かないまま、腹に力を入れて留めておく。このまま引き抜くと出血がなあ……火があれば焼いておくんだが。とりあえずここは騎士団の詰め所なんだし、医務室みたいなのはないのか?
「……ん?」
そこで、ようやく凍り付いたように動かないルーファスに気がついた。その目は俺に刺さるナイフの柄を見つめていて、怯えたように揺らいでいる。
なんだ?お前ほどの実力者が、たかがナイフ一本に怯えるってどういうことだ。
「治療を」
「……ん?ああ、光魔法か。いや、そんな大層な怪我じゃ……」
「治療、……治療だ、今度こそ……」
俺の言葉も聞かずブツブツと呟いたルーファスは、子供のように惑ったまま俺の傷に手を向けた。しかしその瞬間、バチッ、と感電したかのように震えてルーファスの身体が崩れ落ちる。
驚いて手を伸ばしたが、ルーファスの後ろから大きな腕が伸びてきてその身体を担ぎ上げてしまった。
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