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七話
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しおりを挟む王宮へ行くために貴族らしい服装と体裁を整えたアレンは、それはもうどこから見ても『お貴族様』だった。そういやこいつ顔がいいだけじゃなく、家柄が良いんだった。今思い出したわ。
銀髪にいつもの紺色のリボンは変わらないが、上品に仕立てられた服にコート、靴、タイ、なんかひらひらしたシャツ、その他ブローチだのカフスだのを色々と着けている。これでも華美になり過ぎない程度の装いらしい。それがまた綺麗な顔を引き立ててんだから、美形ってやつはほんとに困る。
アレン・バーツィーの中身がただの変態のモンスター研究者だと知っている俺でも、ううんと唸ってしまうほどの変身ぶりだった。
横にいるのが俺じゃなくて着飾ったクロードだったら良かったのにな。きっと並んで馬車を降りた瞬間から、王宮で話題になって王都を噂話が駆け巡るだろう。
「何考えてるかすぐ判るから止めてくれる?」
「まあまあ、睨むなよ。お前が目立てば俺がその影に隠れられるからな、宜しく頼むぜアレン・バーツィー博士」
バーツィー家の家門の入った豪華な馬車に揺られ、俺達は王宮に向かっていた。呼ばれといてなんだが、俺は『冒険者のヴィンセント』と名指しされていたから、いつもの装備そのまんまで来ている。アレンは『服や装飾品くらいは用意する』と言ったが、余計だと言って断った。
そもそも戦闘になるかも知れない敵の巣に赴くわけだ。借り物の服を汚したり破いたりしたら後が怖い。俺じゃあ一生かかっても賠償できないだろ。
「俺は何も喋らないでお前の後ろに居りゃいいんだろ?」
「ああ。場合によっては適度に脅し掛けて貰うかもしれないけど」
「そりゃお安い御用」
そうやって話しながら着いた王宮は、見事な石の建築物で、その華やかな様子とは裏腹にしんと静まり返っていた。案内に出てきたのは執事一人で、騎士はどこにも見あたらない。地下に根を生やしたテンタクルボールの力で人間の気配を探ってみたが、王宮の中とは思えないほど人が少なかった。
──ふぅん、なんか胡散臭いな。まあ、何もないわけないか。おおかた、こっちの戦力が読めなくて様子見してるってところだろう。ここまでお膳立てしておいて話だけで終わるとは思ってなかったが、絶対になんか企んでるな。
王宮の近衛達は転移陣を使って各地に移動するため、神出鬼没な精鋭部隊と言われているらしい。ウィトリー家に来てた奴らも戦闘になってすぐアレを発動してたら無事に逃げおおせただろうに、こっちを舐めてたから逃げ遅れた。テンタクルボールとの戦闘が初めてで、気付いた時には絡め取られてたっていう冒険者にはよくある話だ。
発動していたら、の話になるが……。ソレは王が持つマスターの魔法陣に向けて、騎士一人一人が召喚されるシステムの魔法陣なんだと。アレンが王宮に行く前に、もっとも警戒すべき相手として近衛騎士の情報はいろいろ教えてくれた。
奴らは、国内なら何処へ派遣されていても王のもとに一瞬で戻れんだってよ。そんな魔法を長年かけて宮廷魔術師が作りだしたらしい。
まあ、元はダンジョンの入口にある帰還魔法陣を真似ているらしいが。あ、ダンジョンってのはボスを倒すと最下層から一瞬で入口に戻れる仕組みになってんだよ。便利過ぎて一家に一台欲しいわ。
それはさておき、王の近衛騎士達は一時隠れて、後でドッと転移してくるつもりなのかもしれない。退路の確保と、警戒をしておかないとな。
「クロードの様子は?」
「向こうにはなにもない。いまんとこ」
謁見室に向かいながら、アレンが視線も向けず話しかけてくる。俺の五感は化け物級に発達したからアレンのごく小さな囁き声も聞こえていた。
ちなみに俺の声は、一匹貸したチビ触手が、アレンの襟もとに隠れていて音として伝えている。テンタクルボールの幼体が首筋に張り付いてるなんて普通の人間なら悲鳴上げてるところだと思うが、アレンは全く気にしていないようだった。
いやむしろ新しい発見に喜んでさえいた。
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