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十話【第二部】
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「エディンの村に寄ろうと思うんだがいいか?」
「もちろん、俺も昨日の件で気になっていた。行こう」
テントを畳み朝食を済ませると俺たちは街道の方へ戻った。
この道は北の山脈から南下する唯一の道で、北の部族の荷馬車が通っている。徒歩で旅していると結構声をかけられて、乗せてくれるんだよな。
彼らは結構話し好きだ。礼には貨幣よりも実用的な物が好まれるから、干し肉や穀物を提供していた。
今日も南に向かう馬車が通りかかって声をかけられ、乗せて貰えた。
穀物の小さな袋を一つ渡すと快く近くの村まで送ってくれるという。
「昨日、あの森で薬草摘みの子供と会ったんだ。近くを通るなら村に寄ってくれって言われてるんだよな。十歳くらいの子供の活動範囲にある村ってどこだろうな?」
「うーん、子供? そりゃあ教会の子じゃないか。このあたりは作物もあんまとれねぇで貧しくてなあ、子供産んでも育てられないからってみんな教会に押しつけちまうんだよ。俺らの部族じゃ子は宝だ、信じられないことだけどさ」
「へぇ……そしたら教会がある村かな? そこまで乗せてってくれるか」
「そりゃ構わないけど、なんにもない村だよ」
不思議そうな顔をしながらも馬車の主は俺たちを乗せてその村に向かってくれた。クロードは目深にフードを被った姿で、馬車の後ろのほうにちょこんと座っている。それ、可愛いからよせってばクロード。
馬車の主と話しながら俺がチラチラ見てたら、クロードに伝わったのかフイッと横を向いてしまった。俺の伴侶が毎秒可愛いから困る。
朝に出発して、日が中天にかかる前にその村へついた。
村の守りは古めかしい石組みの囲いで、あまり対モンスターへの防御能力はなさそうだ。森の竜酔花があれだけ竜種を引き寄せるのだから堅牢な塀で囲われてると思ったんだが。
村の入口で止められ、馬車の主が何か話している。
そのうちに俺は村の中の様子を窺った。
あまり裕福そうには見えないが子も育てられないほど困窮しているようには思えない。子育てを全て教会になげて働いてるとかか?
村のなかには小さな平屋の家がひしめきあっている。
その中でひときわ目立つ尖塔のある建物が見えた。あれだけ妙に気合い入ってるな。壁もレンガだけじゃなく漆喰で塗り上げられている。どう見ても金のかかり方が違っていた。
「あれが教会か……」
「ヴィンセント、教会と神殿の違いはなんだ?」
「ああ、大した違いはない。元々このあたりじゃメイア教徒ってのが多くて、それが教会を運営してる。ユグドラシルはそれより前に流行った神話を元にしてる宗教だから、神殿。こっちは急拵えのところとか、朽ち果てそうな建物を再建したりして場所を確保してる」
「それで、大した違いがない……?」
不思議そうに首を傾げたクロードの背を軽く叩いて抱き寄せる。
「メイアはここ三百年くらいの間に出来た宗教だ。まあ信者を集めて運営してるのに変わりはないだろ。どっちも宗教の施設だしな」
「そ、そういうものか……?」
「そーそー」
各神殿をまわり、世界樹の種を植えてこいというアレンからの依頼は、最終的にはアルゼイン方面へ行ってくれってことなんだろうと思う。
世界樹の安全のため、クロードの心の平穏のためにも世界は平和でいてもらわないといけない。人間たちがドンパチ戦争なんかで血を流していたら落ち着かないだろうしな。
ただこの旅は期限が決められているわけではないし、寄り道はいくらしてもいい。冒険者としての旅は、クロードに楽しんでもらうためのものだからな。
「おーい、兄さん。この村、宿屋はないらしいぞ?」
「そうなのか、じゃあ夜までに出て行くよ」
「いえ、それでしたら教会に聞いてみたらどうでしょう」
「……」
門番のように立って馬車の主と話していた村人が、俺たちを見てにこやかにそう言った。その視線がどうにも胡散臭い。
俺は少し前へ出て背にクロードを隠しながら頷いた。
「そうだな、教会にはエディンもいるかもしれない。覗いてみるよ」
「エディン? あの子の知り合いかい」
「ああ、知ってるか。赤髪の少年で、昨日森で会ったんだ。この村の子は勇敢だな、モンスターのいる森に一人で行くなんて」
「……森に?」
門番の男の顔色が変わった。
どうやら昨日あの場所にエディンがいたことは、この村の大人は知らないらしいな。
馬車の主に別れを告げて、クロードと二人で村に入った。
振り返って見た村の門は石の囲いの間に木製の戸を設置したもので、裏側が金属で補強されている。夜はこれを閉めて外敵の侵入を防いでいるんだろう。
あの時既に日が暮れかけだったってことは、エディンはこの門の閉まる時間に間に合うはずがない。
会ったのが夕方だと言わなくて良かった。
この村には、子供の出入りできる抜け穴がどこかにあるらしい。
「エディンの村に寄ろうと思うんだがいいか?」
「もちろん、俺も昨日の件で気になっていた。行こう」
テントを畳み朝食を済ませると俺たちは街道の方へ戻った。
この道は北の山脈から南下する唯一の道で、北の部族の荷馬車が通っている。徒歩で旅していると結構声をかけられて、乗せてくれるんだよな。
彼らは結構話し好きだ。礼には貨幣よりも実用的な物が好まれるから、干し肉や穀物を提供していた。
今日も南に向かう馬車が通りかかって声をかけられ、乗せて貰えた。
穀物の小さな袋を一つ渡すと快く近くの村まで送ってくれるという。
「昨日、あの森で薬草摘みの子供と会ったんだ。近くを通るなら村に寄ってくれって言われてるんだよな。十歳くらいの子供の活動範囲にある村ってどこだろうな?」
「うーん、子供? そりゃあ教会の子じゃないか。このあたりは作物もあんまとれねぇで貧しくてなあ、子供産んでも育てられないからってみんな教会に押しつけちまうんだよ。俺らの部族じゃ子は宝だ、信じられないことだけどさ」
「へぇ……そしたら教会がある村かな? そこまで乗せてってくれるか」
「そりゃ構わないけど、なんにもない村だよ」
不思議そうな顔をしながらも馬車の主は俺たちを乗せてその村に向かってくれた。クロードは目深にフードを被った姿で、馬車の後ろのほうにちょこんと座っている。それ、可愛いからよせってばクロード。
馬車の主と話しながら俺がチラチラ見てたら、クロードに伝わったのかフイッと横を向いてしまった。俺の伴侶が毎秒可愛いから困る。
朝に出発して、日が中天にかかる前にその村へついた。
村の守りは古めかしい石組みの囲いで、あまり対モンスターへの防御能力はなさそうだ。森の竜酔花があれだけ竜種を引き寄せるのだから堅牢な塀で囲われてると思ったんだが。
村の入口で止められ、馬車の主が何か話している。
そのうちに俺は村の中の様子を窺った。
あまり裕福そうには見えないが子も育てられないほど困窮しているようには思えない。子育てを全て教会になげて働いてるとかか?
村のなかには小さな平屋の家がひしめきあっている。
その中でひときわ目立つ尖塔のある建物が見えた。あれだけ妙に気合い入ってるな。壁もレンガだけじゃなく漆喰で塗り上げられている。どう見ても金のかかり方が違っていた。
「あれが教会か……」
「ヴィンセント、教会と神殿の違いはなんだ?」
「ああ、大した違いはない。元々このあたりじゃメイア教徒ってのが多くて、それが教会を運営してる。ユグドラシルはそれより前に流行った神話を元にしてる宗教だから、神殿。こっちは急拵えのところとか、朽ち果てそうな建物を再建したりして場所を確保してる」
「それで、大した違いがない……?」
不思議そうに首を傾げたクロードの背を軽く叩いて抱き寄せる。
「メイアはここ三百年くらいの間に出来た宗教だ。まあ信者を集めて運営してるのに変わりはないだろ。どっちも宗教の施設だしな」
「そ、そういうものか……?」
「そーそー」
各神殿をまわり、世界樹の種を植えてこいというアレンからの依頼は、最終的にはアルゼイン方面へ行ってくれってことなんだろうと思う。
世界樹の安全のため、クロードの心の平穏のためにも世界は平和でいてもらわないといけない。人間たちがドンパチ戦争なんかで血を流していたら落ち着かないだろうしな。
ただこの旅は期限が決められているわけではないし、寄り道はいくらしてもいい。冒険者としての旅は、クロードに楽しんでもらうためのものだからな。
「おーい、兄さん。この村、宿屋はないらしいぞ?」
「そうなのか、じゃあ夜までに出て行くよ」
「いえ、それでしたら教会に聞いてみたらどうでしょう」
「……」
門番のように立って馬車の主と話していた村人が、俺たちを見てにこやかにそう言った。その視線がどうにも胡散臭い。
俺は少し前へ出て背にクロードを隠しながら頷いた。
「そうだな、教会にはエディンもいるかもしれない。覗いてみるよ」
「エディン? あの子の知り合いかい」
「ああ、知ってるか。赤髪の少年で、昨日森で会ったんだ。この村の子は勇敢だな、モンスターのいる森に一人で行くなんて」
「……森に?」
門番の男の顔色が変わった。
どうやら昨日あの場所にエディンがいたことは、この村の大人は知らないらしいな。
馬車の主に別れを告げて、クロードと二人で村に入った。
振り返って見た村の門は石の囲いの間に木製の戸を設置したもので、裏側が金属で補強されている。夜はこれを閉めて外敵の侵入を防いでいるんだろう。
あの時既に日が暮れかけだったってことは、エディンはこの門の閉まる時間に間に合うはずがない。
会ったのが夕方だと言わなくて良かった。
この村には、子供の出入りできる抜け穴がどこかにあるらしい。
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