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一章
魔王の過去・2
しおりを挟む世界の調和のため、魔王を遣わして勇者に存在意義を与え祀り立てる。
いわゆる『やられ役』としてこの世界に存在しているのが魔王である。
魔族を統べるためでも、人間と戦争するためでもない。もともと魔族にとっては利になる存在ではなかった。
しかし、それを知っているのは魔王本人だけだ。
この世界の魔王として派遣された『魂』は、一度目の生で早々に任務に失敗して死んでいる。
まだ継承して数年しか経っていない頃だった。
もう遥か昔のことで、魔王の記憶も曖昧だが。
そもそも魔王に成る前、自分がどんな魔族で誰の子供だったのかなど、個に関することが全くわからなくなっている。
システムに組み込まれる前に記憶は漂白されてしまうようだ。その方が世界に慣れると思っての措置だろうか。
……逆にやり難い気がするが。
しかし神々の作ったこのシステムは、右も左も判らず世界に放り込まれる魔王に救済措置が用意されている。
任務を達成せずに死ぬとその前の生の倍の魔力を持って、死に戻るのだ。
戻る場所は、魔王に成った時点。
魔力は純粋に倍になり、また死ねばさらにその倍になる。
この世界は魔法と魔力で成り立っているので、魔力の高さというのは強さと同意義だ。
破格の待遇なのは誰にでもわかる。
ただ、困難にぶつかっても魔力を倍にして戻してやるからまあ大丈夫だろう?という安易な救済措置ではあった。
事実、魔力が膨大な量になっても魔王は殺され続けた。殺し方などいくらでもあるのだ。
神々からは攻略のヒントもなく、魔力増強は根本的な解決にはなっておらず、ただ力技でなんとかしろということだ。
俗に言う『強くなってコンテニュー』、そのおかげで99回の死を乗り越えて、今まで類を見ない魔力をもった最強魔王となったが。
しかし……実際問題、魔力だけではどうにもならないこともある。
魔王はまだ魔力が弱い頃、この世界に慣れず騙され毒殺されることが多かった。
すり寄ってこられていい人か?と信用した後にその者から毒を盛られるのは、精神的にも堪える。
死に戻ってから魔法で毒耐性をつけたら、今度は遠距離狙撃などを駆使して殺された。
罠にはめられ地下牢に拉致監禁の末に獄死したこともあった。
他人を信用するなと言われればそれまでだが、魔力が強くたってそれを行使するのは人格をもった魔王自身だ。
油断していれば殺されるし、信用している者に後ろから刺されることもある。
人生においての小さな分岐は無数にあり、一歩間違えば魔王はすぐに殺される。
全ての道を潰していくには膨大な時間が必要だった。しかも魔族の動向だけ気にしていればいいかというと、そうでもない。
ここで魔王の生存のキーとなるのが、やはり勇者の存在だった。
勇者が魔王と戦う前に、紋章を継承しないまま死ぬと魔王の生まで終わってしまう。なんと、こんなところで運命共同体なんて組まされていた。
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