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七話 寸劇のアクシデント

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 マイルズの言っていた通り、王妃さまはノリノリだった。

 お友だちにも声をかけて寸劇の練習をしているそうだ。

 アラスターが呆れていた。



「毎日、練習を見せられる身にもなってくれ。あ、もしかしたら父上もチョイ役で出るかもしれない」



 国王陛下が出演するなんて前代未聞だ。

 思っていたより大事になってきたわね。

 ちらりとリコリスを見ると、リコリスも緊張していた。

 あなたが犯人だとは思いたくないけど、もし犯人だったら考え直してちょうだい。

 国王陛下もいらっしゃる場で、おかしなことをしては万が一の場合、不敬罪になってしまう。

 いたずらではとても済まされないのだ。



 私たちは先生たちとの話し合いや、出演を希望してくれた父母との連絡で数週間を費やした。

 第六回役員会では、『もったいない父母参観』の最終確認をした。

 生徒だけでなく、父母までも巻き込んだ『もったいない革命』だ。

 いつもより大掛かりになるのは仕方がない。

 手抜かりのないよう、生徒会役員だけでなく、委員会からも人手を借りて、私たちは準備に明け暮れた。

 誰もがワクワクしていた。

 まるで前世の高校の文化祭みたいで、プログラムをつくったり会場設営の設計図を描いたり、どれも楽しかった。

 私はすっかりここが乙女ゲームの世界であることを忘れていた。

 だが、リコリスはそれを忘れていなかった。



 ◇◆◇



 すべての準備を整えて迎える『もったいない父母参観』の日。

 あとは先生たちに任せて、生徒である私たちは観客席に着いた。

 ソロの歌唱から始まり、合奏やダンス、休憩時間も挟んでプログラムは問題なく進行していく。

 そして大トリは、なんといっても王妃さまが登場する寸劇だ。

 私とマイルズは横並びで観客席に座っている。

 前の席にアラスターとクリフォードが座っている。



「解説なら任せてよ、もう何度も見たからね、この寸劇は」



 ちょっと背もたれに寄り掛かり、食傷気味なのだとアラスターは言う。

 いよいよ幕が上がる。

 前のめりになる私とマイルズと違って、行儀の悪い恰好のままだったアラスターが、寸劇の途中で突然起き上がる。



「え? なんでチョイ役が父上じゃなくて兄上なんだ?」



 どうやら国王陛下が演じるはずのチョイ役を、第一王子が代理で演じているらしい。

 仮面をかぶった人物なので私たちには分からなかったが、アラスターには体つきと声で分かるのだそうだ。



「まあ、兄上も僕と一緒で毎日この寸劇を観せられたからな。台詞だって覚えているだろうよ」



 そう聞いて安心して観ていた私たちだったが――。

 演じ終えた第一王子が舞台のそでに退く瞬間、観客席を振り返りこう言った。



「我々には潤沢な金を使い、経済を回す義務がある!」



 素早く立ち去ったので劇はそのまま進行したが、あきらかに不釣り合いなおかしな台詞だった。



「あんな台詞、なかったけどな?」



 アラスターも首をかしげている。

 しかし観客席から拍手がおきていた。

 見るとリコリスがいる一角が、第一王子を讃えていた。

 なんだか嫌な予感がする。

 ジェニファーは第一王子の台詞を何度も繰り返し考えるのだった。



「あの台詞、私たちに向かって言ったのかもしれませんわ」



 数日考えて、出した答えがそれだった。

 ジェニファーはマイルズに相談していた。



「私たち生徒会役員は、『もったいない革命』に取り組んでいますわね? もったいないとは、今あるものを大事に使うってことですが、第一王子の台詞はそれとは正反対でしたわ」

「潤沢な金を使うってところ?」

「ええ。経済を回すなんて言い訳じみたことも仰ってましたわね」



 ジェニファーは溜め息をつく。



「考えすぎかもしれないのですが、リコリスさんと第一王子が繋がっている可能性はないでしょうか? あの日の拍手、どうにも嫌な予感がしていますの」

「アラスターにも聞いてみよう。何か知っているかもしれない」



 その日は生徒会活動のない日だったが、生徒会室の鍵を開けてもらい、アラスターとクリフォードの到着を二人で待った。



「なんだ? 二人きりのほうがいいんじゃないのか?」



 笑いながらやってきたアラスターに、ジェニファーとマイルズはリコリスと第一王子のことを話す。



「ん~? どうだろうなあ、微妙だなあ。兄上は女好きだからな。もしリコリス嬢のほうから近づいたのなら、来るものは拒まずだろうしね」



 しかし兄上も婚約者がいる身なのに参るよ、とアラスターは続けた。



「父上は許してないんだけど、兄上は側室制度を復活させようとしているんだ。それというのも母上が決めた兄上の婚約者と、全然そりが合わなくてさ」



 アラスターは身内の恥だから、ここだけの話ねと前置きする。



「兄上は金にも女にもだらしがないところがあって、何度か父上に怒られてるんだ。そんな兄上のお目付け役が今の婚約者なわけ。そりが合う訳ないんだよ、定規のようにピシッとした人なんだ」



 だが、アラスターは嫌いではないらしい。



「真っすぐっていいことだと思うんだ。ぐねぐねした兄上にはちょうどいいよ」



 しかし第一王子のだらしなさは、矯正されていないようだ。



「もう少し僕も兄上を注視してみるよ。もしリコリス嬢と繋がっているのなら、絶対にまた僕たちの活動を邪魔してくるだろうからね。兄上はもったいないって感覚を、永遠に分からないような人だよ」



 あ~あ、とアラスターは嘆き節だ。

 そこへマイルズが突っ込んだ質問をする。



「アラスターが王太子になる気はないのか?」



 ごとん、と音を立ててアラスターが椅子から落ちる。

 クリフォードは見ているだけだ。



「ちょっとちょっと! 危ない発言は控えてよ! そういうの僕は苦手なんだから」

「なぜだ? 第一王子は頼りないのだろう?」

「でもあの人も頑張っているからさ、応援しているんだよね、僕」



 アラスターが照れくさそうに言うあの人とは、第一王子の婚約者であるイヴリン嬢のことらしい。



「兄上も、そろそろ心を入れ替えればいいのになあ、イヴリン嬢があんなに一生懸命に寄り添ってくれているのに。もしこれでリコリス嬢と浮気していたら、僕は許せそうにないな」



 どう見てもアラスターはイヴリン嬢に恋をしている。

 本人に自覚はないのかしら?

 私とマイルズは顔を見合わせるのだった。
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