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リザ
ローゼンヘン館 共和国協定千四百三十四年立春
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三年目の春はちょっとした粘土細工と焼き物で冬を越した。
デンプンをセロファンのタネで固めたうえで耐熱陶器の器に液体窒素を入れた状態で骸炭釜に入れるとひどく硬い材料になることを発見した。
最初は食器だった。ガラスと違って艶のある黒ですぐに手に馴染む冷たさをもったそれは、割れにくく軽い黒い上等な磁器という風合いだった。これと比べればベークライトの重みのある感触は柔らかげにさえ感じた。
品質の安定した粘土を使う気分で、本来の目的のペースが落ちている骸炭炉で焼き始めた。液体窒素を入れたのはどうしてもある程度灰に煤けるので窒息剤という意味合いだった。そのうちに、窒素により高圧をかけた炭が何らかの変化を受けひどくなめらかで燃えにくいものになっていることに気がついた。
最初のうちは、かなりいいところまでいけるのだが微細な寸法は保証できず、冷却工程で割れてしまうこともある相変わらず歩留まりの悪い方法だった。
だが、母材の整形が簡単で手作業で修正が効くことや一般的な焼き物に比しても遥かに薄く仕上げることができる点、更にはそうやって作ったものは後の工程なしに固く酸やアルカリに侵されず、あるいはタネの配合と圧力を変えると水素も通らなくなったり半透性の調整ができるなど、様々な機能があった。
耐圧容器や共に入れる窒息剤の種類や量などを変えてやることで、水素が滲んで逃げない容器も出来た。
焼き固めてしまえばレンガや鉄と比べても耐熱温度が高く、遥かに軽く丈夫だった上に、燃えにくい極めてなめらかな炭の作り方というものの技法が安定すると順次骸炭釜の内釜は炭素製釜に置き換わっていった。多少目減りしたもののプラチナが回収されたのは、逼迫していないとはいえ財布に優しい出来事だったし、最悪金貨を鋳潰して精錬すれば手に入る金と違いプラチナの地金は流通量が極端に少なかった。天秤は減り量で見ていたので面倒はあまりなかった。
そうして焼き固めた材料は強度耐熱部材としても、鉄で挟み込んでみるとひどく硬い軸材であることが実感できる。
中子のように穴を開けた薄く刃の形に尖らせた炭の板で刃の軸を作り、鉄で挟んで叩いて研ぎだしていくと驚くほどの刃物になった。
天蓋材には純粋な硬さでは負けるが大きさや形の自由を考えれば十分なものだった。
そうして作った部材は、銃身の内筒や拳銃のスライドフレームなど、バネ以外のほとんど全てに使えた。軽すぎる。という点をアウルムは嫌ったが、ユエは拳銃は普段持ち歩くものなんだから軽い方がいいし、重さが必要なのは飛んでゆく弾丸だけ、という指摘は的を射たものだった。
そうやってステアの拳銃は鉄から炭素製になった。
爆発をさせなくても拳銃は作れるんだね、というソラの何気ない感想は前に作ったときの騒ぎの衝撃を思い起こさせるもので、子供たちがなにをやっているかを理解していたという証として心に染みた。
マジンは試しに何を作ったか知っているか子供たちに聞いてみた。
竈、排煙回収器、骸炭釜、水平器、定盤、旋盤、回転キリ、回転ヤスリ、手押しポンプ、蒸気圧機関、自動帯ヤスリ、回転ノコギリ、機械ろくろ、機械金槌、引出し機、押出機、巻取り機、圧延機、煉瓦窯、焼き入れ窯、拳銃大小、猟銃三種類、機械ポンプ、ネジジャッキ、坩堝、磁石、電池、コイル、電磁石、発電機、電動機、圧力計、圧力容器、加圧ポンプ、真空ポンプ、圧力ジャッキ、蒸留器、分留器、電気分解層、アンモニア釜、硝酸窯、雪そり、かんじき、スキー、ヒートポンプ、冷凍器、給湯器、真空管、電球、マイク、スピーカ、無線電話、狼虎庵、お風呂、車軸受け、子供用馬車、圧力水槽、下水配管、水洗便所、温水暖房、ローゼンヘン館冷凍庫、自動骸炭炉、セルロイド、謄写紙、拳銃黒大小、農機具。
カトラリーや子供用ベットのリネンの刺しゅうなど、あまり意識していなかったところも子供たちは覚えていた。部品の鋳型のほとんどは木材を彫刻したものを使っていた。そういえば子供達には木工所の掃除をさせていた。
何に使うものだか知っているかという質問には、母様の拳銃を作りたかったんでしょ、とソラとユエは二人が口をそろえて答えた。マジンとしては言葉もなかった。その裏にある意味に子供たちが気が付き懸念していることは気が付かなかった。
最初の窯に組み込んだ蒸気圧機関は出来合いの太い鉄管を使ったもので、わずか二年でいろいろ見劣りするものになってしまったけれど、燃料を変えたりシリンダーを新しいものに変えたりしてまだしばらくつかえそうだった。炭素材を使ったシリンダーやピストンは摺動に強く蒸気圧機関の性能を高めることに成功した。羽根車用の翼も金属鋳物では複雑な形状が型抜しにくく適当なものができなかったのだが、比較的簡単に形が作れる素材が手に入ったことでようやく実用できた。ころがり軸受用の球も鉄球に比べて遥かに軽く硬くなった。
工程が多少変わったけれど、端材や不良は鉄球と同じように散弾銃の弾丸として売りだした。弾速が早く鳥撃ちには却って良いことや、威力が早く減衰するので流れ弾が出にくい。鴨を手負いにして生け捕りにするのに使えるということで、それなりに人気が出た。熊とか鹿にはあまり向かないが、そういうのを散弾銃で狙うのはもともとあまり筋の良いことではなかった。
デンプンをセロファンのタネで固めたうえで耐熱陶器の器に液体窒素を入れた状態で骸炭釜に入れるとひどく硬い材料になることを発見した。
最初は食器だった。ガラスと違って艶のある黒ですぐに手に馴染む冷たさをもったそれは、割れにくく軽い黒い上等な磁器という風合いだった。これと比べればベークライトの重みのある感触は柔らかげにさえ感じた。
品質の安定した粘土を使う気分で、本来の目的のペースが落ちている骸炭炉で焼き始めた。液体窒素を入れたのはどうしてもある程度灰に煤けるので窒息剤という意味合いだった。そのうちに、窒素により高圧をかけた炭が何らかの変化を受けひどくなめらかで燃えにくいものになっていることに気がついた。
最初のうちは、かなりいいところまでいけるのだが微細な寸法は保証できず、冷却工程で割れてしまうこともある相変わらず歩留まりの悪い方法だった。
だが、母材の整形が簡単で手作業で修正が効くことや一般的な焼き物に比しても遥かに薄く仕上げることができる点、更にはそうやって作ったものは後の工程なしに固く酸やアルカリに侵されず、あるいはタネの配合と圧力を変えると水素も通らなくなったり半透性の調整ができるなど、様々な機能があった。
耐圧容器や共に入れる窒息剤の種類や量などを変えてやることで、水素が滲んで逃げない容器も出来た。
焼き固めてしまえばレンガや鉄と比べても耐熱温度が高く、遥かに軽く丈夫だった上に、燃えにくい極めてなめらかな炭の作り方というものの技法が安定すると順次骸炭釜の内釜は炭素製釜に置き換わっていった。多少目減りしたもののプラチナが回収されたのは、逼迫していないとはいえ財布に優しい出来事だったし、最悪金貨を鋳潰して精錬すれば手に入る金と違いプラチナの地金は流通量が極端に少なかった。天秤は減り量で見ていたので面倒はあまりなかった。
そうして焼き固めた材料は強度耐熱部材としても、鉄で挟み込んでみるとひどく硬い軸材であることが実感できる。
中子のように穴を開けた薄く刃の形に尖らせた炭の板で刃の軸を作り、鉄で挟んで叩いて研ぎだしていくと驚くほどの刃物になった。
天蓋材には純粋な硬さでは負けるが大きさや形の自由を考えれば十分なものだった。
そうして作った部材は、銃身の内筒や拳銃のスライドフレームなど、バネ以外のほとんど全てに使えた。軽すぎる。という点をアウルムは嫌ったが、ユエは拳銃は普段持ち歩くものなんだから軽い方がいいし、重さが必要なのは飛んでゆく弾丸だけ、という指摘は的を射たものだった。
そうやってステアの拳銃は鉄から炭素製になった。
爆発をさせなくても拳銃は作れるんだね、というソラの何気ない感想は前に作ったときの騒ぎの衝撃を思い起こさせるもので、子供たちがなにをやっているかを理解していたという証として心に染みた。
マジンは試しに何を作ったか知っているか子供たちに聞いてみた。
竈、排煙回収器、骸炭釜、水平器、定盤、旋盤、回転キリ、回転ヤスリ、手押しポンプ、蒸気圧機関、自動帯ヤスリ、回転ノコギリ、機械ろくろ、機械金槌、引出し機、押出機、巻取り機、圧延機、煉瓦窯、焼き入れ窯、拳銃大小、猟銃三種類、機械ポンプ、ネジジャッキ、坩堝、磁石、電池、コイル、電磁石、発電機、電動機、圧力計、圧力容器、加圧ポンプ、真空ポンプ、圧力ジャッキ、蒸留器、分留器、電気分解層、アンモニア釜、硝酸窯、雪そり、かんじき、スキー、ヒートポンプ、冷凍器、給湯器、真空管、電球、マイク、スピーカ、無線電話、狼虎庵、お風呂、車軸受け、子供用馬車、圧力水槽、下水配管、水洗便所、温水暖房、ローゼンヘン館冷凍庫、自動骸炭炉、セルロイド、謄写紙、拳銃黒大小、農機具。
カトラリーや子供用ベットのリネンの刺しゅうなど、あまり意識していなかったところも子供たちは覚えていた。部品の鋳型のほとんどは木材を彫刻したものを使っていた。そういえば子供達には木工所の掃除をさせていた。
何に使うものだか知っているかという質問には、母様の拳銃を作りたかったんでしょ、とソラとユエは二人が口をそろえて答えた。マジンとしては言葉もなかった。その裏にある意味に子供たちが気が付き懸念していることは気が付かなかった。
最初の窯に組み込んだ蒸気圧機関は出来合いの太い鉄管を使ったもので、わずか二年でいろいろ見劣りするものになってしまったけれど、燃料を変えたりシリンダーを新しいものに変えたりしてまだしばらくつかえそうだった。炭素材を使ったシリンダーやピストンは摺動に強く蒸気圧機関の性能を高めることに成功した。羽根車用の翼も金属鋳物では複雑な形状が型抜しにくく適当なものができなかったのだが、比較的簡単に形が作れる素材が手に入ったことでようやく実用できた。ころがり軸受用の球も鉄球に比べて遥かに軽く硬くなった。
工程が多少変わったけれど、端材や不良は鉄球と同じように散弾銃の弾丸として売りだした。弾速が早く鳥撃ちには却って良いことや、威力が早く減衰するので流れ弾が出にくい。鴨を手負いにして生け捕りにするのに使えるということで、それなりに人気が出た。熊とか鹿にはあまり向かないが、そういうのを散弾銃で狙うのはもともとあまり筋の良いことではなかった。
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