82 / 89
82 ロイクの嘘
しおりを挟む
ロイクの拳の勢いで、ロイクと俺を繋げていた氷が割れた。
遠くに殴り飛ばされ、衝突の勢いを利用して手足を覆っていた氷を地面に叩きつける。
予想通り、氷は割れると俺から剥がれ落ちた。くるりと後ろに転がって起き上がると、再び双剣を構える。
「ファビアン……! 私を愚弄するのか……!」
ロイクは勇者の剣を構えると、歯を剥いてみせた。普段国民に見せてる穏やかな国王の仮面を脱ぎ捨て、怒りと嫉妬に狂った醜い顔を俺に向けている。
矜持と劣等感の塊、としか言いようがない。俺はこれに二十年以上支配され続けてきたんだ。
ちらりと双子たちの方を確認する。双子はのんびりとなにやら話しているけど、オリヴィアと王太子妃は手を取り合って心配そうな顔を俺たちに向けていた。
距離があるので、大声を出さない限りはこちらの声は聞こえないだろう。そう判断した俺は、ロイクへの挑発を続けることにした。
「お前がやったこと、俺は忘れちゃいねえぞ」
ロイクに直接触っちゃ駄目だということを学んだ俺は、再びロイクに高速で迫ると跳躍と剣戟を繰り返す。
ロイクは侮辱されて我を忘れてしまったらしい。これまでの落ち着いた対応はどこかへ消え、俺がいた場所に攻撃をしては地面を叩き割り、破片を撒き散らしながら俺を追いかけてきた。
考えなんてない、力任せの戦い方だ。
「お前がアルバンや前線送りにした奴らを殺したことを、俺が知らないとでも思ってたのか」
「私は誰も殺してはいない! あれは不幸な事故だろう!?」
なるほど、その方向できたか。まあアルバンの亡霊が俺に教えてくれたなんて知る由もないだろうしな、と俺は鼻で笑った。
「誰があいつを直接殺めたのか、俺は知ってるんだぜ」
「!」
ロイクの目が泳ぐ。俺はロイクの背後に跳躍すると、背中に二発、浅めだけど傷をつける。服が破け、血が飛び散った。
ロイクは距離を置くと、再び剣を構える。だけど先程までの優越感に満ちた余裕は、ロイクから見事に剥がれ落ちていた。
「こちらはファビアンを傷つけないようにと気を使っているんだぞ……!」
でたよ、自分は聖人君子、悪いのはこっち発言。
俺はロイクは相手にせず、先を続けた。
「お前がセルジュを殺したことだって、俺は知ってんだぞ」
「私は……、誰も殺してなどいない! 信じてくれファビアン!」
ロイクは誠実そうに見える顔に涙を浮かべると、両手を広げて訴え始める。
「全部誤解だ! ファビアン、私を信じてほしい!」
大声を出すロイク。結界の外の家族に自分は俺に誤解されている可哀想な人間なんだと見せかける為だろう。
もううんざりだ。付き合ってられねえ。
心配そうなオリヴィアに一瞥をくれた。
オリヴィア、ごめん。もうこれ以上我慢できないんだ。許してくれ。
結界の外でも十分に届くよう、俺は声を目一杯張り上げた。
「直接手を下したのはお前じゃなくても、暗部のラザノに命令したのはお前だろーが! そんなに俺に恋人ができるのが嫌か! 家族がいる癖に俺に構うんじゃねーよこの変態野郎!」
オリヴィアが目を見開いたのが視界の片隅で見えたけど、俺は意識を目の前のロイクに向けることにする。気を抜ける相手じゃない。
「ファ、ファビアン、な、何を……っ」
ロイクは目に見えて焦り出した。まさかこれまでずっと気を使って黙ってきた俺が、オリヴィアの前で堂々と暴露するとは思ってもなかったんだろう。
言ったら俺の大切な人を害すると暗に匂わせてきたから。
ロイクはオリヴィアとは離婚できない。クロードがそう定めたからだ。だけどいざとなったらオリヴィアを殺すと俺に思わせることには成功した。死別であれば離婚はしなくても済む。だけどオリヴィアにバレて愛想を尽かされてしまったら、ロイクの命に危険が迫る。
「ち、違う! ファビアンは何かを誤解しているんだ! 私の言葉が足りなかったのなら謝る! この通りだ!」
「俺を愛してるって事ある毎に言ったのは、じゃあ何なんだよ!」
今度こそ、ロイクは顔面蒼白になった。
「違う! あれは同じ英傑の仲間としての親愛を!」
「じゃあ厄災討伐の最中に俺のケツを掘りまくったのも仲間としての親愛かよ!」
「!」
ロイクは目を見開くと、膝をがくりとつく。
「ファビアン、あの時の私は――違うんだ! 実は……クロードにお前を抱けと脅されていたんだ!」
「……はあ?」
思わずクロイスの方を見ると、クロイスは「何言ってんのかね?」といった表情で肩を竦めた。だよなあ。
ロイクは剣を地面に置くと、涙ながらに語り始めた。
「クロードは、オリヴィアに惚れていた! オリヴィアは私を好いてくれていたが、私に奪われたくなかったクロードは、ファビアンを抱かないとオリヴィアを犯すと!」
「ほー」
とりあえず聞いてみよう。咄嗟にどんな嘘を組み立てたのか、ちょっと興味がある。
ひとまず俺のことを抱いたと認める方向で、何とか誤魔化せないか模索してるんだろう。
ロイクはさめざめと泣きながら、己の苦しみを訴え始めた。
「ファビアンには申し訳ないことをした……! だからこちらに戻ってきてから、ファビアンにはこれまでの償いをしようと屋敷を用意し城内に身分も用意したんだ!」
なるほど、そうきたか。それにしても、本当に悪知恵だけはよく働くな、こいつ。
俺は続きを促した。
「でもそうしたらおかしくねえか? なんでクロードは竜の鍵穴に入っていったんだよ。順当にいけばお前が入るやつだっただろ、お前の話が正しければ。脅されていたのなら」
すると、ロイクはキラキラした泣き顔をバッと上げ、懸命に訴え始める。こいつ、自分に酔ってないか。
「竜の鍵穴に誰が入るかの話になった時……! 私は咄嗟に、クロードが脅していたことをオリヴィアにばらしてほしくなければクロードが入るんだと言ってしまったんだ!」
「へえー」
いつの間にか結界は解除され、俺の左右にはロイクの家族が並んでいた。
ロイクは泣きながら演技を続ける。
「私はファビアンに償いたかった……! 自分ばかりが幸せになり、申し訳なさをずっと抱えていたんだ……!」
するとここで、これまで一番の衝撃発言が、意外な人物の口から飛び出してきた。
遠くに殴り飛ばされ、衝突の勢いを利用して手足を覆っていた氷を地面に叩きつける。
予想通り、氷は割れると俺から剥がれ落ちた。くるりと後ろに転がって起き上がると、再び双剣を構える。
「ファビアン……! 私を愚弄するのか……!」
ロイクは勇者の剣を構えると、歯を剥いてみせた。普段国民に見せてる穏やかな国王の仮面を脱ぎ捨て、怒りと嫉妬に狂った醜い顔を俺に向けている。
矜持と劣等感の塊、としか言いようがない。俺はこれに二十年以上支配され続けてきたんだ。
ちらりと双子たちの方を確認する。双子はのんびりとなにやら話しているけど、オリヴィアと王太子妃は手を取り合って心配そうな顔を俺たちに向けていた。
距離があるので、大声を出さない限りはこちらの声は聞こえないだろう。そう判断した俺は、ロイクへの挑発を続けることにした。
「お前がやったこと、俺は忘れちゃいねえぞ」
ロイクに直接触っちゃ駄目だということを学んだ俺は、再びロイクに高速で迫ると跳躍と剣戟を繰り返す。
ロイクは侮辱されて我を忘れてしまったらしい。これまでの落ち着いた対応はどこかへ消え、俺がいた場所に攻撃をしては地面を叩き割り、破片を撒き散らしながら俺を追いかけてきた。
考えなんてない、力任せの戦い方だ。
「お前がアルバンや前線送りにした奴らを殺したことを、俺が知らないとでも思ってたのか」
「私は誰も殺してはいない! あれは不幸な事故だろう!?」
なるほど、その方向できたか。まあアルバンの亡霊が俺に教えてくれたなんて知る由もないだろうしな、と俺は鼻で笑った。
「誰があいつを直接殺めたのか、俺は知ってるんだぜ」
「!」
ロイクの目が泳ぐ。俺はロイクの背後に跳躍すると、背中に二発、浅めだけど傷をつける。服が破け、血が飛び散った。
ロイクは距離を置くと、再び剣を構える。だけど先程までの優越感に満ちた余裕は、ロイクから見事に剥がれ落ちていた。
「こちらはファビアンを傷つけないようにと気を使っているんだぞ……!」
でたよ、自分は聖人君子、悪いのはこっち発言。
俺はロイクは相手にせず、先を続けた。
「お前がセルジュを殺したことだって、俺は知ってんだぞ」
「私は……、誰も殺してなどいない! 信じてくれファビアン!」
ロイクは誠実そうに見える顔に涙を浮かべると、両手を広げて訴え始める。
「全部誤解だ! ファビアン、私を信じてほしい!」
大声を出すロイク。結界の外の家族に自分は俺に誤解されている可哀想な人間なんだと見せかける為だろう。
もううんざりだ。付き合ってられねえ。
心配そうなオリヴィアに一瞥をくれた。
オリヴィア、ごめん。もうこれ以上我慢できないんだ。許してくれ。
結界の外でも十分に届くよう、俺は声を目一杯張り上げた。
「直接手を下したのはお前じゃなくても、暗部のラザノに命令したのはお前だろーが! そんなに俺に恋人ができるのが嫌か! 家族がいる癖に俺に構うんじゃねーよこの変態野郎!」
オリヴィアが目を見開いたのが視界の片隅で見えたけど、俺は意識を目の前のロイクに向けることにする。気を抜ける相手じゃない。
「ファ、ファビアン、な、何を……っ」
ロイクは目に見えて焦り出した。まさかこれまでずっと気を使って黙ってきた俺が、オリヴィアの前で堂々と暴露するとは思ってもなかったんだろう。
言ったら俺の大切な人を害すると暗に匂わせてきたから。
ロイクはオリヴィアとは離婚できない。クロードがそう定めたからだ。だけどいざとなったらオリヴィアを殺すと俺に思わせることには成功した。死別であれば離婚はしなくても済む。だけどオリヴィアにバレて愛想を尽かされてしまったら、ロイクの命に危険が迫る。
「ち、違う! ファビアンは何かを誤解しているんだ! 私の言葉が足りなかったのなら謝る! この通りだ!」
「俺を愛してるって事ある毎に言ったのは、じゃあ何なんだよ!」
今度こそ、ロイクは顔面蒼白になった。
「違う! あれは同じ英傑の仲間としての親愛を!」
「じゃあ厄災討伐の最中に俺のケツを掘りまくったのも仲間としての親愛かよ!」
「!」
ロイクは目を見開くと、膝をがくりとつく。
「ファビアン、あの時の私は――違うんだ! 実は……クロードにお前を抱けと脅されていたんだ!」
「……はあ?」
思わずクロイスの方を見ると、クロイスは「何言ってんのかね?」といった表情で肩を竦めた。だよなあ。
ロイクは剣を地面に置くと、涙ながらに語り始めた。
「クロードは、オリヴィアに惚れていた! オリヴィアは私を好いてくれていたが、私に奪われたくなかったクロードは、ファビアンを抱かないとオリヴィアを犯すと!」
「ほー」
とりあえず聞いてみよう。咄嗟にどんな嘘を組み立てたのか、ちょっと興味がある。
ひとまず俺のことを抱いたと認める方向で、何とか誤魔化せないか模索してるんだろう。
ロイクはさめざめと泣きながら、己の苦しみを訴え始めた。
「ファビアンには申し訳ないことをした……! だからこちらに戻ってきてから、ファビアンにはこれまでの償いをしようと屋敷を用意し城内に身分も用意したんだ!」
なるほど、そうきたか。それにしても、本当に悪知恵だけはよく働くな、こいつ。
俺は続きを促した。
「でもそうしたらおかしくねえか? なんでクロードは竜の鍵穴に入っていったんだよ。順当にいけばお前が入るやつだっただろ、お前の話が正しければ。脅されていたのなら」
すると、ロイクはキラキラした泣き顔をバッと上げ、懸命に訴え始める。こいつ、自分に酔ってないか。
「竜の鍵穴に誰が入るかの話になった時……! 私は咄嗟に、クロードが脅していたことをオリヴィアにばらしてほしくなければクロードが入るんだと言ってしまったんだ!」
「へえー」
いつの間にか結界は解除され、俺の左右にはロイクの家族が並んでいた。
ロイクは泣きながら演技を続ける。
「私はファビアンに償いたかった……! 自分ばかりが幸せになり、申し訳なさをずっと抱えていたんだ……!」
するとここで、これまで一番の衝撃発言が、意外な人物の口から飛び出してきた。
22
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました
ミヅハ
BL
1年前、困っていたところを助けてくれた人に一目惚れした陽依(ひより)は、アタックの甲斐あって恩人―斗希(とき)と付き合える事に。
だけど変わらず片思いであり、ただ〝恋人〟という肩書きがあるだけの関係を最初は受け入れていた陽依だったが、1年経っても変わらない事にそろそろ先を考えるべきかと思い悩む。
その矢先にとある光景を目撃した陽依は、このまま付き合っていくべきではないと覚悟を決めて別れとも取れるメッセージを送ったのだが、斗希が訪れ⋯。
イケメンクールな年下溺愛攻×健気な年上受
※印は性的描写あり
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる