【完結】悪役令嬢だった僕は、蛮族の国で拳で人生を切り拓く(予定)

緑虫

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61 愛を捧ぐ方法

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 白大理石でできた霊廟の中に、アントン殿下に無理やり引っ張られながら入った。

 ここは王族しか入れない場所で、王族の血に含まれる大精霊の血に反応して扉が開閉する仕組みになっている。だから霊廟の存在は勿論知っていたけど、中に入るのは今回が初めてだった。

 扉を通り過ぎると、ギギ……と重い音を立てて勝手に閉じていく。

 背筋をヒヤリとしたものが走った。僕の中に、大精霊の血は混じっていない。つまり殿下が開かない限り、僕たちはこの密室の中に閉じ込められたということだ。

 目だけを移動させて、外に繋がっている場所がないかを確認する。かなり高い位置に、恐らくは採光の為の吹きさらしの細い窓があった。僕のヒョロガリ具合ならギリギリ通れそうだし、『力の腕輪』さえあれば壁を縦に上って脱出できそうだ。

 ――よし。とにかく、何としてでも『力の腕輪』を奪還だ!

 他に妙案を思いつかなかった僕は、その一点に望みをかけることにした。

 天井が高くて奥に細長い広々とした空間の最奥には、献花がふんだんに捧げられた大きな祭壇が見える。

 祭壇の上には、彫像が二体。長剣を地面に突き刺し勇ましく仁王立ちをしているのが、初代国王だ。その隣にある、赤ん坊を腕に抱く聖母のような笑みを浮かべている中性的な人物の彫像が、男女どちらにもなれるという現在も眠りについている大精霊のものだった。

 祭壇まで真っ直ぐに伸びた通路の両脇にある光の魔道具が、人の気配を感知して次々に淡い陽光に似た色味の光を灯していく。

 その祭壇の手前に、この場に全くそぐわない物が置かれていた。

 それは、猫足のついた大きなベッドだった。ふかふかそうな布団と枕もちゃんとセットされている。

「はい?」

 思わず素っ頓狂な声を漏らすと、読めない表情を浮かべた殿下がギラギラした目で僕を見下ろす。

「お前も聞いただろうが、書物には『我ガ子孫ニ困難アル時、我ガ寝所ニ真実ノ愛ヲ捧ゲヨ。サスレバ我ノ力ヲ貸与セン』との記載があった。つまり、この場で私がお前を抱き想いが通じ合えば、私に大精霊の力が宿るのだ」

 ちょっと待ったこの馬鹿王子! 愛を捧げるの意味をエロい方に勘違いしちゃったのか!? 脳内お花畑!? エロいことしか考えてないのか!?

「はあ!? ち、違いますよ! 捧げるってそういう意味じゃないですよ!? 単に大精霊の像に向かってパトリシアへの愛を訴えればいいだけですってば!」
「何を根拠に戯言を」

 殿下が眉を顰める。

「勿論、切々と祈り訴えたさ。だが何も反応が得られなかったのだ……! そうしたら、パトリシアが『物理的に愛を捧げるんじゃないですか』と言い出したのだ。だから私はここまで寝台を運ばせパトリシアを初めてこの腕で抱いたというのに……!」

 えっあの二人、もうヤッちゃったんだ。しかも霊廟の中で? うっわ……。

 ドン引きのあまり、あからさまに顔を歪めてしまった。段々と目の色がおかしくなってきた殿下が、僕の両手を掴みながら僕を殿下の身体で押していく。膝裏がベッドの端に当たったと思った直後、ベッドの上に殿下ごと倒れ込んでしまった。

「うわっ!?」

 目を血走らせた殿下は、僕のお腹の上に跨がり体重で押さえ込むと、ネグリジェの胸元を両手で掴んだ。

「ちょ、な、何するんですか!」

 殿下の手首を掴んで、引き離そうと試みる。だけど僕と殿下では、エンジほどでは全然ないけど体格差がある。びくともしなかった。くそう……!

 殿下が、仄暗い笑みを浮かべながら語る。

「当初は、パトリシアがお前に関して思い違いしてしまったのは私を愛するが故だという言葉を信じていた」

 は? あの人、全てバレた後もそんなことを言ってたのか。何と言うか、厚顔無恥にも程度があるというか、呆れて開いた口が塞がらないというか……。まあそうやって殿下を引き止めておいてくれたお陰で、ついこの間まで僕はゴウワン王国で平穏無事に過ごせてたんだろうけどさ。

 僕の胸元を掴む殿下の腕が、ブルブルと震えだす。

「なのにいざパトリシアを抱き彼女の中で果てると、あの女は王太子であるこの私に言ったのだ! 『童貞だからって下手くそ過ぎる、宰相の息子よりもモノが粗末だし、大臣の息子より早漏だし、ガリガリの公爵令息よりも体力がないし完全不完全燃焼』と!」
「うわあ……えぐ」

 いくら猥談が不慣れな僕にでも、その言葉が指す意味くらいは分かった。その内容の酷さも。え、酷すぎない? 僕ならそんなことを言われた瞬間泣き崩れる自信しかない。

 しかもそれって全員、学園でパトリシアの取り巻きをやってた人たちだよね? まさか全員と肉体関係があったの? え、マジで? で、パトリシアで童貞を捨てたばかりの殿下にそれを言っちゃったの? どれだけ下手だったのさ、殿下……。

 殿下の腕に力が込められて、手の甲に筋が浮き出る。

「そして案の定、私は大精霊の力には目覚めなかった! つまり、あの女は私のことなどこれっぽっちも愛していなかったのだ! 私の王太子という肩書だけを愛していたのだ! だから私を裏切っていた三人の男を捕らえ、あの女が誰かひとりを選ぶまで抱くのをやめるなと命じた! 死にたくなければとな!」
「な……っ」

 殿下の顔が、泣き笑いに歪んだ。

「離宮の一室に見張りをつけて閉じ込めたら、もう何日も経つというのに中からは情を交わす憎らしい声ばかりが聞こえて一向にやまない! あの女は男を誑かす悪魔だったのだ! 私は悪魔に魅入られていたのだ!」

 まさかこの人、元恋人が他の男とヤッてるところに行って聞き耳立ててたの? うっわ、病んでる……。

 殿下が主張を続ける。

「私はようやく理解したッ! 私が真に愛すべきは、私の為に人生を捧げてくれていたユリアーネだけだったのだと!」
「ちょっと! だから僕には恋人がいるって――」
「黙れ!」

 ビリビリッ! とネグリジェが左右に引き千切られ、薄っぺらい僕の白い胸元が顕にされてしまった。ふうー、ふうー、と興奮したように肩で息をする殿下。や、やばい……目が完全にイッちゃってるよ!

 枕元に転がっていたピンク色の液体が入ったガラス瓶を手に取ると、殿下は蓋を親指で開け、口に含む。

 突然伸びてきたもう片方の手が、僕の喉を上から押さえつけた。

「グエッ!?」

 目を白黒させている間に、殿下が顔を近付けていきなり僕の唇を奪う!

「んんーっ!」

 力任せに殿下の胸を拳で叩いても、ちっとも効果がない。嫌なのに、エンジ以外は絶対にお断りなのに! 重ねられた口の隙間から舌が差し込まれたかと思うと、どろりとしたばかに甘い液体が口の中に入ってきた。

 な、なにこれ!? 色味といい、絶対まともなやつじゃない気しかしないんだけど!?

 吐き出そうとしても顔を横に反らそうとしても、させてもらえない。僕が鼻で息をして懸命に飲み込むのを我慢していることに気付いた殿下が、イラッとしたように眉根を寄せて、僕の鼻を指で軽く摘んだ。

「……っ!」

 懸命に耐えていたけど、息苦しさに段々と耐え切れなくなり――。

 ゴクン、と激甘な液体をとうとう嚥下してしまった。

 しまった――!

 目を見開く僕の顔を見た殿下が、やっと顔を離す。僕の口の端に垂れた液体を、舌でねっとりと舐め取っていった。

 あ、無理。

 ゾワワワ……ッと鳥肌が立つ。今すぐ殴り倒したい。『力の腕輪』はどこだ。ジャケットの内ポケットだ。この距離なら、掠め取ることは可能だ。殴る、今すぐ殴り飛ばしてやる……!

 僕は怒りと気持ち悪さで叫びたくなる衝動を必死で押さえながら、虎視眈々と殿下の胸元に手を突っ込む機会を窺った。恐らく、チャンスは一回しかない。失敗は許されなかった。

 そんな僕の様子には気付いていないのか、殿下が興奮気味に舌舐めずりをしながら僕の胸に手のひらを当て、撫で回し始める。ひい……っ、気持ち悪い……!

「あれ以来、女の裸には一切反応しなくなってしまった」

 この人は気持ち悪いけど、その部分一点においては同情する。

「だが見よ……! ユリアーネの裸体の美しさを前に、今にもはち切れそうだ!」

 殿下が自身の下腹部を強調するように腰を動かした。うげ……っ、そのテントは見たくなかった……!

「ふふ、それは優秀な宮廷医師が煎じたものだから副作用はないそうだ、安心しろ」
「ちょ……っ、一体何を飲ませたんですか……!」

 殿下がうっとりした表情で答える。

「これは抱かれる側の男に特に効きが良いという催淫剤だ。男の身体は濡れないというが、これを服用することにより体液を分泌し、内部を清浄化し、解す必要もなくなるほど柔く受け入れられるようになるというスグレモノだ」
「は……? 解す……? 一体何を、」

 僕の問いに、何故か殿下がニタリと嬉しそうな笑いを浮かべた。えっ、な、なにその顔、気持ち悪いんだけど!

「そうかそうか、お前の純潔はまだ守られていたのだな。あの男に奪われているだろうと考えただけで腸が煮えくり返っていたが、これは朗報だ。ユリアーネよ、これ以上ないほどの天国を与えてみせよう」

 あれ、僕まさか墓穴掘っちゃった……?

 僕がひく、と顔を引き攣らせた直後、殿下がまたもや僕の首を片手で上から押さえつける!

「んぐッ!?」

 あまりの衝撃に脳が身体のコントロールを見失った瞬間、殿下が僕をうつ伏せに裏返す。そのまま、ネグリジェを腰まで一気にまくった。

「ゲホッ! ケホケホケホッ!」
「なんと美しい曲線だ……!」

 人のケツを撫で回しながら言うな! ああもうやだ! どうしよう!? エンジ、どうしようーっ!

 殿下はパニックになっている僕の膝を割り足の間に陣取ると、これしか用意されてなくて泣く泣く穿いた総レースの小さいパンツの紐に手を伸ばし――引っ張る。

 冷たい空気が、股間に触れた。
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