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1章 王都要塞ルフォート・フォーマ

2)ケンタウルスに天使にお城!

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「よし、ついたぞ、お嬢ちゃん」

 イケメンケンタウルス?様 に連れられてお城の目の前に着いた時には、私はすっかり疲労困憊、心神喪失、茫然自失の状態だった。

 だから絶叫マシンは嫌いなんですってば……。

 動くこともできず、全身を使って何度か大きく深呼吸していると、けらけらと笑われて、そんなんじゃ先が思いやられるなぁと言われた。

 同感ですっ! 神様の言葉を全面的に信じちゃだめだと分かりました、と、言いたいけれど飲み込んだ。

「つ……」

 ぜ~、は~っ。 と最後に一つ大きく息を吐いて頭を下げる。

「ここまで連れてきてくれて、ありがとうございました。」

「おう、これが俺らの仕事だからな。 さてお嬢ちゃん。 まずはあそこの門番に声をかけて門の中に入れてもらえ。 すぐに王様に会えるからな」

 指さされた方向には、開かれた大きな門とその両脇に人の形だけど大きな翼が背中にある……天使? いや、輪っかはないな、天使じゃないのかな? が立っている。

「は~、ファンタジー!」

「なんだそりゃ? おかしなお嬢ちゃんだな。 ほら、降りな。」

 あはは! と、豪快に笑って馬の脚を折り曲げてくれたので、ゆっくり降りるともう一度、頭を下げた。

「本当にありがとうございました。」

「いやいや、こんな可愛い嬢ちゃんならいくらでも助けてやるって。 この国の王様はいい人だから、安心していって来な。」

 じゃあな! と、手を振って、来た道だと思う先に行ってしまった彼が見えなくなるまで――馬なのであっという間でした――手を振った。

 可愛いお嬢ちゃんって言ってくれてありがとう、実は中の人、四〇歳を超えてるけどね。

 フフッと笑いながらお城の方を振り返り……あんまりの大きさにびっくりした。

「おおぉぉぉ! でっかいお城!」

 見上げてやっと見えるお城の見た目は、どちらかというとお姫様的なお城ではなく、要塞のような石造りのお城で、塔がいくつも連なって立つような形でとても格好いい。

 うん、これはもう、大好きなやつです!

 大好きなRPGもこんな形のお城でした。

 完璧! 素敵! 神様ちょっとだけ見直しました!

 思わずガッツポーズをとっていると、なんだかいろんな方から視線を感じて恥ずかしくなる。

 と、門の方を見れば、門の横に立つ天使様が手招きしているので、慌ててそちらに小走りで向かった。

「こ、こんにちは」

 頭を下げると、自分よりうんと背の高い天使様は、果てしなくイケメンでした、イケメンが多すぎます。

 神様、グッジョブ!

 心の中でガッツポーズをしていると、天使様は私の目線に合わせてしゃがんでくださった。

「こんにちは、お嬢さん。 ところで、さっきのしぐさは何ですか?」

 とっても素敵に笑ってくださるので、こちらも頑張って外見年相応の笑顔とテンションを思い出しながら頭を下げた。

「えっと、嬉しいことがあって、それを(心の中でも)表現してたんです。 えぇと王様にお会いしたいんですけども、どうすればいいですか?」

「お嬢さんは空来種ですか?」

「よくわからないですが、先ほどの素敵なケンタウルスさんはそう言ってました。」

「ケンタウルス……あぁ、なるほど。 ではちなみに、お嬢さんから見て私は何だと思いますか?」

 何だと思う……とはなんだろう? どう答えるのが正しいのかわからないけど第一印象を素直に伝えてみよう。

「天使様、ですか?」

「ふふ、お嬢さんはやはり空来種のようですね。 ようこそ、わが王の住まう城へ。 まずこの指輪を指にはめてください。」

 差し出されたのは指輪?

 虹色の小さな石がはまったを受け取ると、ここに着けるのがいいですよ、と言われた左の中指にはめると、不思議なことに、ぶかぶかだった指輪はするすると縮まり、私の中指にちょうどいいサイズになった。

「すごい!」

「さぁ、その指輪をはめたまま、この門から場内に入り、まっすぐ進みなさい。 皇帝陛下のところまで行けますからね。」

「まっすぐですか?」

「はい、突き当たるまでまっすぐ。」

「そうですか、わかりました。 ありがとうございます。」

 にっこり笑ってそう言ってくれた天使様? に頭を下げてから、門をくぐって中に入っていった。

 もちろん、私が門の中に入っていくまで見ていてくれた天使が見えなくなるまで、めちゃくちゃ手を振り続けてから。






 城の中は夢のようだった。

 内側からほんのり光を放つ、綺麗な白い石の廊下には、金の刺繍が入った真っ赤な絨毯が敷いてあって、私の理想のお城のイメージそのままだった。

 壁もきっと同じ石なのだろう、同じくほんのり光を帯びているが、それとは別に少し高いところに等間隔に綺麗な飾りの明かりもあって、要所要所にはなんだか絶対高そうな飾りや絵が飾ってある。

 まごうことなき、お城ですよ、お城! 夢みたい! 素敵っ!

 と、騒ぎたいのを我慢し、時折現れる別れ道にも惑わされず「まっすぐ進みなさい」の言葉を信じてまっすぐ進む。

 そういえば誰にも会わないなぁ。

 こんなに大きなお城だし、お城に入るまではケンタウルスや天使や人や不思議な生き物とかたくさんいたのにな……と周りを見回しながら不思議に思っているとふいに目の前に扉が現れた。

 金色の枠に繊細な花と鳥の意匠が彫り込まれた、大きな白い扉。

 入ってもいいのかな? まっすぐ進みなさいって言われたからなぁ。

 金色の鳥を模したノブに手をかける。

「すみません、失礼します~。」

 一応声をかけてから、そっとノブをまわしてドアを押して中に入る。

「温室だぁ! すごい!」

 つい声が出てしまっても許してほしいくらいには、本当にすごい世界が広がっていた。

 花と、緑と、光にあふれた見事な庭園。

 天井はガラス張りで、青い空が見えていて、温室内には色とりどりの小鳥と金魚が飛んでいる。

 咲き乱れる花は色とりどりで見たことがないものも多く、香りもよい。

 一番近くにあった大きな花に顔を近づけると、その花の蜜を吸っているピンク色の宝石のような小鳥がいて、ただただ見入ってしまう。

「素敵……。」

「気に行ったか?」

「はい、とっても。 ……って、あれ?」

「ここは俺のお気に入りの場所なんだ。」

 急に声を掛けられて返事をしてしまったが、誰だろう? と顔を上げると、いつの間に来たのだろう、一瞬ライオン!? と思ってしまうような豊かな黄金の髪に黄金の瞳の美しい男の人が立っていた。

「勝手に入ってすみません。」

 あわてて頭を下げると、大丈夫だと笑って頭をなでてくれた。

「その指輪が俺のもとに連れてきたんだ。」

 にやりと笑ってそのまま奥に向かって歩き出した彼は、肩越しに振り返って私を手招きをした。

「こっちにこい、茶でも入れるから話をしよう。 可愛い空来種のお嬢ちゃん。」
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