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6章 お店と勉強と生活と。
4)美味しい晩御飯と話し合い?
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ヒュパムさんとのお茶会から帰った私と入れ替わりに、セディ兄さまは例の収納籠を片手に晩御飯の買い出しにいってしまったため、私はお店番を始める。
帰ってきたときにはお客さんは2人いて、傷薬や入浴剤などをたくさん買ってくれたので、お店の外までお見送りをした後、ついでにお店の床を掃き掃除する。
手洗いうがいの後は椅子に座ってお客さんを待ちながら、カウンターに広げた分厚い本をみた。
「受験勉強なんて20年ぶり? う~ん、こっちの問題とかどういうやつなんだろうなぁ……」
ものすごい難しかったり、意味が解らなかったらどうしようかなぁと思いながら一枚目、二枚目とぱらぱらめくっていくのだが……
「んん?」
ぺら、ぺらっとめくっていく。
「これは、小学校の教科書……?」
小学校の算数っぽいぞ……答えめっちゃわかるよ、これ。
すこし先を開いていくと、これはこっちで言う国語と思われる項目。 これはネイティブじゃないからダメかな?と思ったけど、翻訳機能のおかげでスムーズ! 何を書かれているのかわかります! 逆に漢字とか、漢文とか、古典がないのでとってもいい感じ!
そのままパラパラとめくって確認していくと、どうしてもこれはどうにもならない場所が出てくるので、そこだけ栞の代わりにリボンを入れて、時折飛ばしながら流すようにどんどんめくっていって、最後まで見終わったころ、お店の扉に着けた鈴が鳴った。
「ただいま。」
「兄さま、おかえりなさい。」
「ただいま……勉強していたのか。」
籠をもってお店のカウンターに入ってきた兄さまは、広がっている本を見て眉根を下げて笑った。
最近いつもそんな、ちょっと困ったように笑うなぁと思いながら、頷く。
「私が教えられそうなところだといいけど、解らないところはあったかな?」
と、カウンターに籠を置いて聞いてくれる。
セディ兄さま! そういうところですよ! 素敵、さりげない優しさ素敵!
と嬉しくなりながらも、リボンを入れたところを広げる。
「この国の歴史に、世界や精霊の成り立ちと魔法の使い方や仕組み、各諸国の特徴や法律……なるほど。」
そこまで見てくすっと笑ったセディ兄さまの顔を見る。
「なぁに?」
「やっぱりというか、空来種がわからないというところは一緒だなぁと思って。」
「え?」
私の頭をなでながらセディ兄さまは本を手に取ってめくる。
「数術や、論文的なもの、理路整然とした緻密な学問に関しては、陛下もそうだったけど、空来種はみんな優秀なんだよ。 曰く、こちらのそういったものは、ものすごく簡単なんだだそうだ。 あちらの世界はこちらよりもそういった学術がとても進歩しているらしい。 ただこちらの学者たちが全く理解できずにこちらで活用することはまだ難しいと陛下はよく嘆いているけどね。 でも空来種のその知識のおかげで躍進的に、えぇと、福祉分野とか、通貨などの分野が発展はしたかな……正直、、私はそういったことの方が苦手なんだが。 まぁとりあえず、フィランのわからないところは私がきちんと教えられるところでよかったよ。 少しはお兄さんらしいことができるからね。」
にこっと優しく笑った兄さま。
その笑顔の破壊力ったらもう!!
神か!
天使か!
なにその笑顔と言葉!
兄さま好き! 推しとして!
推しと住むとか本当は地雷だけど、ここまで来たら逆手にとって、妹の位置を堪能しますね!
神様、本当にありがとう!
「お手柔らかにお願いしますね、兄さま」
心の中で久しぶりに覇王のポーズをとりながら、セディ兄さまにお願いをすると、よしよし、と頭をまた撫でてくれた。
「さて、そろそろお店の閉店時間かな?」
「あ、ほんとだ! こんな時間。 お店の閉店作業は私がやるよ。」
「じゃあ私は晩御飯の準備をしよう。 あ、そうそう。」
「ん?」
椅子から立ち上がって、カウンターからお店の方に出た私に、時計を指さす兄さま。
「これをね、作ったのも空来種だよ。 それまではなんとなく太陽の位置で生活していたんだけど、これができて躍進的に一日の使い方が変わったらしい。 本当に数字的なものに強いね。」
そういえば、時間ってあっちと同じ言い方するなって思ってたけど、そういうことか!
「空来種、結構好き勝手やってますね。」
「そうだね。 さて、今日はコンローの良いやつが買えたから、フィランの好きなコンローとウインナーのシチューに、白パンと果物のサラダにしよう。 フィランはお店を閉めたら、お店の商品のチェックをしてお風呂に入りなさい。」
「はぁい」
素敵兄さま、最後はやっぱりお母さん属性を見せながら奥に入っていったので、わたしは箒と塵取りをもって、お店の前の履き掃除と、看板を片付けをするためにお店の外に出た。
「あ。」
そう言えば兄さまに、学費の事とか相談するんだった。 ご飯の時に相談しようと、頭の中で電卓をたたきつつ、私は掃き掃除を終えると、いそいそと看板を片付けた。
木の器に盛られたシチューは今日も美味しそうに湯気を立てている。
トウモロコシによく似たコンローのプチプチの実がくさん入っていて、それから手でちぎったソーセージがたくさん入っていて……ソーセージ作った人は絶対空来種。 だってソーセージだもん、名前が!
ありがとう、ソーセージ美味しい!
「フィラン、今日のお呼ばれはどうだった?」
いただきますをして、あまあまのシチューを堪能していると、パンをちぎっていたセディ兄さまが聞いてくる。
「えぇとね……ヒュパムさんが今日お仕事で行ったお店のお菓子が美味しいから、ぜひにって呼んでくださったみたいなんだけど、貴族層の、しかも窓から王宮が見えちゃうようなところに建っているお店だったのです。 確かにすっごく綺麗で美味しかったけど、ものすごい場違いと言うか緊張するから、次からはやっぱり普通がいいとお願いしました。」
以上、素直な感想と報告でした。
黙々と食べながらそう話す私に、苦笑いをする兄さま。
「それはびっくりしたね。」
「うん。 いつもの格好で行っちゃったけど、お店の人の視線がすごく怖かったよ。 や、被害妄想なんだけど。 でも、貴族層に行くって知ってたらもうちょっと素敵なお洋服に着替え……あ。」
「うん?」
パンをちぎってシチューにつけたところで思う。
「もうちょっと素敵な服で行ったのにって言おうと思ったけど、服、色違いのワンピースが3枚しかなかったから、事前に知ってても一緒だと思って。」
そう言うと、セディ兄さまがものすごく微妙な顔になった。
「……あぁ、そうだね。 フィランは洋服に興味がないのかなと思ってはいたんだけど……」
「昔は全くなかったですね、着飾っても似合わなかったし。 こっちに来て最初の頃は、そりゃ可愛いお洋服って思ってましたけど、今はもう、シンプルなお洋服が一番お仕事しやすいし、うん、やっぱり必要ないですね。」
外見が変わっても、中身が一緒だから、結局、着たきり雀になったなぁと思いながらパンを口に入れてもぐもぐ……おいしい。
フフッと笑いながら飲み込んでもう一口、とパンをちぎったところで、微妙な表情をして固まってる兄さまに気づいた。
あれ? パンにシチューって、もしかしてものすごい行儀の悪いことしてる? いや、今までずっとこうしてたけど今更? と考えながらとりあえず固まっている兄さまに声をかける。
「え~っと、兄さま? どうしたんですか?」
「あ、いや。 うん、明日、服を買いに行こう。 靴も……すっかり失念していた。 貴族層へ行くことも増えるし、可愛いんだからもっと可愛い服を買わないと。」
あ、兄さまが保護者モードに入ったかも? しかも貴族層に行くことが増える?
「え、いいですよ。 貴族層あんまり行きたくないですし。」
「そうはいっても、コルトサニア商会の本店は貴族層にあるから、今日みたいに必要になっていくことも増えるだろうし、あぁ、しかしそこまで気が回らなかったな。 セスでさえ侍女になってからは最低限の服や宝飾品を買っていたんだから……ひとまず余所行きを一式そろえないと……」
と、ぶつぶつ考え出し始めた兄さまだけど、嫌な予感しかしない!
「いやいや、兄さま、余所行きとかあってもどこにもいかないですし、明日も朝からお薬仕込んで売って、お金を稼いでおかないとだめですから! アカデミーの試験費用もいるし、もし入学できたときには、生活に困らないように入学費用や授業料を今のうちに稼いで貯めておかないと! ……あ、それで兄さまに相談があったんだった。」
「相談? 何かあったのかい?」
よし! 服から気をそらせた!
「試験費用と入学金と授業料と、それから学校にもし行けた後の店番の問題なんですけど……」
「あぁ、それは大丈夫だよ。」
こともなげに言って、兄さまは果実水を飲んだ。
「アケロスが言っていただろう? 学費や入学費は王宮側が出すって。 と言っても国庫に手を付けるわけにはいかないから、陛下の私財からだけどね。 彼は皇帝になる前に開拓した土地をいまだ所有しているから蓄えもあるし、今回は陛下のわがままに巻き込まれるんだから、全額きっちり払ってもらいなさい。 何なら仕事としてお給料をもらっていいくらいだ。」
「……いえ、お給料まではちょっと。」
勉強は自分のためだし、そこまでしてもらうのは良くないよね、っていうかいろいろと手をまわすの早すぎじゃない?
つい、げんなりしちゃったところに兄さまが畳みかけてくる。
「それから、店に関してなんだけど、このお店の商品作成はどうしてもフィランにしかできないから手伝うことができないけど、学校に行っている間は店番の事は気にしなくて大丈夫。 私と、こちらから手配した人材でやるからね。 あぁ、その人材に対する給料も陛下が持つから安心するように。」
「え!? いやいやいや!」
その言葉に慌てて声を上げる。
「兄さま、ここ私のおうち! 私のお店! 兄さまもだけど、『猫の手』として人を雇うのに、お給料は別から出ますっておかしいです! その方たちのお給料は、王宮の足元にも及ばないけど、ちゃんと私が払いたいです!」
「う~ん、その心がけは立派だけど、できない相談だね。」
わたしの言葉に対し、とてもはっきりと兄さまは言い切った。
「良いかい、フィラン。 今回のアカデミー入学の前提は陛下のわがままに付き合ってなんだ。 陛下のわがままでアカデミーに行くために店番ができないのだから、それに伴う金銭や人材の補填は、きちんと責任を取ると陛下も言っておられた。」
「え? でも自分の勉強のためでもあるんですよ?」
「うんそうだね。 ならフィランは、アカデミーで陛下のお世話をして、お給金代わりにそれらの事をしてもらう、と考えればいい。 それから店番の方は、基本は私がやるんだよ。 セスの傍にいたいからね。 私が何かの用でここを離れるときだけ、私や陛下が信頼する人にいてもらうだけだから、その相手とフィランと接触することもないし、水場や二階には入れないようにするつもりだ。 だから安心してアカデミーに通っていいんだよ。」
「……。」
ぐうの音も出ないド正論来ましたよ、これ。
もう!
もう!
みんな過保護すぎるでしょ! と、言いたいのをぐっと我慢して果実水を飲む。
現時点で私が反論しても、兄様には口で勝てないってわかってるから、きっと上手に丸め込まれるだけだし、なんたって陛下と師匠も絡んでるからなぁ……。
私、ロギイさんとラージュ陛下になら絶対に勝てると思うけど、師匠と兄さまに絶対勝てる気がしない。 丸め込まれて気が付いたら思い通り、ってなりそう。
そう、引き際って肝心。
ふぅっと、あきらめのため息をついた。
「いろいろと納得いかないけど、でも、わかりました……」
「いろいろと迷惑をかけてすまない。 迷惑料だと思って受け取ってほしいな。」
「……随分大きな迷惑料ですね……。」
天を仰ぎながら、そうつぶやいた私。
あ、この方角って、神様もいるけど皇帝陛下の住んでる王宮もあるんだった……天の神様を拝むっていうか、皇帝を拝む……? いや、どっちも嫌だなと思ってもうひとつ、ため息をついた。
帰ってきたときにはお客さんは2人いて、傷薬や入浴剤などをたくさん買ってくれたので、お店の外までお見送りをした後、ついでにお店の床を掃き掃除する。
手洗いうがいの後は椅子に座ってお客さんを待ちながら、カウンターに広げた分厚い本をみた。
「受験勉強なんて20年ぶり? う~ん、こっちの問題とかどういうやつなんだろうなぁ……」
ものすごい難しかったり、意味が解らなかったらどうしようかなぁと思いながら一枚目、二枚目とぱらぱらめくっていくのだが……
「んん?」
ぺら、ぺらっとめくっていく。
「これは、小学校の教科書……?」
小学校の算数っぽいぞ……答えめっちゃわかるよ、これ。
すこし先を開いていくと、これはこっちで言う国語と思われる項目。 これはネイティブじゃないからダメかな?と思ったけど、翻訳機能のおかげでスムーズ! 何を書かれているのかわかります! 逆に漢字とか、漢文とか、古典がないのでとってもいい感じ!
そのままパラパラとめくって確認していくと、どうしてもこれはどうにもならない場所が出てくるので、そこだけ栞の代わりにリボンを入れて、時折飛ばしながら流すようにどんどんめくっていって、最後まで見終わったころ、お店の扉に着けた鈴が鳴った。
「ただいま。」
「兄さま、おかえりなさい。」
「ただいま……勉強していたのか。」
籠をもってお店のカウンターに入ってきた兄さまは、広がっている本を見て眉根を下げて笑った。
最近いつもそんな、ちょっと困ったように笑うなぁと思いながら、頷く。
「私が教えられそうなところだといいけど、解らないところはあったかな?」
と、カウンターに籠を置いて聞いてくれる。
セディ兄さま! そういうところですよ! 素敵、さりげない優しさ素敵!
と嬉しくなりながらも、リボンを入れたところを広げる。
「この国の歴史に、世界や精霊の成り立ちと魔法の使い方や仕組み、各諸国の特徴や法律……なるほど。」
そこまで見てくすっと笑ったセディ兄さまの顔を見る。
「なぁに?」
「やっぱりというか、空来種がわからないというところは一緒だなぁと思って。」
「え?」
私の頭をなでながらセディ兄さまは本を手に取ってめくる。
「数術や、論文的なもの、理路整然とした緻密な学問に関しては、陛下もそうだったけど、空来種はみんな優秀なんだよ。 曰く、こちらのそういったものは、ものすごく簡単なんだだそうだ。 あちらの世界はこちらよりもそういった学術がとても進歩しているらしい。 ただこちらの学者たちが全く理解できずにこちらで活用することはまだ難しいと陛下はよく嘆いているけどね。 でも空来種のその知識のおかげで躍進的に、えぇと、福祉分野とか、通貨などの分野が発展はしたかな……正直、、私はそういったことの方が苦手なんだが。 まぁとりあえず、フィランのわからないところは私がきちんと教えられるところでよかったよ。 少しはお兄さんらしいことができるからね。」
にこっと優しく笑った兄さま。
その笑顔の破壊力ったらもう!!
神か!
天使か!
なにその笑顔と言葉!
兄さま好き! 推しとして!
推しと住むとか本当は地雷だけど、ここまで来たら逆手にとって、妹の位置を堪能しますね!
神様、本当にありがとう!
「お手柔らかにお願いしますね、兄さま」
心の中で久しぶりに覇王のポーズをとりながら、セディ兄さまにお願いをすると、よしよし、と頭をまた撫でてくれた。
「さて、そろそろお店の閉店時間かな?」
「あ、ほんとだ! こんな時間。 お店の閉店作業は私がやるよ。」
「じゃあ私は晩御飯の準備をしよう。 あ、そうそう。」
「ん?」
椅子から立ち上がって、カウンターからお店の方に出た私に、時計を指さす兄さま。
「これをね、作ったのも空来種だよ。 それまではなんとなく太陽の位置で生活していたんだけど、これができて躍進的に一日の使い方が変わったらしい。 本当に数字的なものに強いね。」
そういえば、時間ってあっちと同じ言い方するなって思ってたけど、そういうことか!
「空来種、結構好き勝手やってますね。」
「そうだね。 さて、今日はコンローの良いやつが買えたから、フィランの好きなコンローとウインナーのシチューに、白パンと果物のサラダにしよう。 フィランはお店を閉めたら、お店の商品のチェックをしてお風呂に入りなさい。」
「はぁい」
素敵兄さま、最後はやっぱりお母さん属性を見せながら奥に入っていったので、わたしは箒と塵取りをもって、お店の前の履き掃除と、看板を片付けをするためにお店の外に出た。
「あ。」
そう言えば兄さまに、学費の事とか相談するんだった。 ご飯の時に相談しようと、頭の中で電卓をたたきつつ、私は掃き掃除を終えると、いそいそと看板を片付けた。
木の器に盛られたシチューは今日も美味しそうに湯気を立てている。
トウモロコシによく似たコンローのプチプチの実がくさん入っていて、それから手でちぎったソーセージがたくさん入っていて……ソーセージ作った人は絶対空来種。 だってソーセージだもん、名前が!
ありがとう、ソーセージ美味しい!
「フィラン、今日のお呼ばれはどうだった?」
いただきますをして、あまあまのシチューを堪能していると、パンをちぎっていたセディ兄さまが聞いてくる。
「えぇとね……ヒュパムさんが今日お仕事で行ったお店のお菓子が美味しいから、ぜひにって呼んでくださったみたいなんだけど、貴族層の、しかも窓から王宮が見えちゃうようなところに建っているお店だったのです。 確かにすっごく綺麗で美味しかったけど、ものすごい場違いと言うか緊張するから、次からはやっぱり普通がいいとお願いしました。」
以上、素直な感想と報告でした。
黙々と食べながらそう話す私に、苦笑いをする兄さま。
「それはびっくりしたね。」
「うん。 いつもの格好で行っちゃったけど、お店の人の視線がすごく怖かったよ。 や、被害妄想なんだけど。 でも、貴族層に行くって知ってたらもうちょっと素敵なお洋服に着替え……あ。」
「うん?」
パンをちぎってシチューにつけたところで思う。
「もうちょっと素敵な服で行ったのにって言おうと思ったけど、服、色違いのワンピースが3枚しかなかったから、事前に知ってても一緒だと思って。」
そう言うと、セディ兄さまがものすごく微妙な顔になった。
「……あぁ、そうだね。 フィランは洋服に興味がないのかなと思ってはいたんだけど……」
「昔は全くなかったですね、着飾っても似合わなかったし。 こっちに来て最初の頃は、そりゃ可愛いお洋服って思ってましたけど、今はもう、シンプルなお洋服が一番お仕事しやすいし、うん、やっぱり必要ないですね。」
外見が変わっても、中身が一緒だから、結局、着たきり雀になったなぁと思いながらパンを口に入れてもぐもぐ……おいしい。
フフッと笑いながら飲み込んでもう一口、とパンをちぎったところで、微妙な表情をして固まってる兄さまに気づいた。
あれ? パンにシチューって、もしかしてものすごい行儀の悪いことしてる? いや、今までずっとこうしてたけど今更? と考えながらとりあえず固まっている兄さまに声をかける。
「え~っと、兄さま? どうしたんですか?」
「あ、いや。 うん、明日、服を買いに行こう。 靴も……すっかり失念していた。 貴族層へ行くことも増えるし、可愛いんだからもっと可愛い服を買わないと。」
あ、兄さまが保護者モードに入ったかも? しかも貴族層に行くことが増える?
「え、いいですよ。 貴族層あんまり行きたくないですし。」
「そうはいっても、コルトサニア商会の本店は貴族層にあるから、今日みたいに必要になっていくことも増えるだろうし、あぁ、しかしそこまで気が回らなかったな。 セスでさえ侍女になってからは最低限の服や宝飾品を買っていたんだから……ひとまず余所行きを一式そろえないと……」
と、ぶつぶつ考え出し始めた兄さまだけど、嫌な予感しかしない!
「いやいや、兄さま、余所行きとかあってもどこにもいかないですし、明日も朝からお薬仕込んで売って、お金を稼いでおかないとだめですから! アカデミーの試験費用もいるし、もし入学できたときには、生活に困らないように入学費用や授業料を今のうちに稼いで貯めておかないと! ……あ、それで兄さまに相談があったんだった。」
「相談? 何かあったのかい?」
よし! 服から気をそらせた!
「試験費用と入学金と授業料と、それから学校にもし行けた後の店番の問題なんですけど……」
「あぁ、それは大丈夫だよ。」
こともなげに言って、兄さまは果実水を飲んだ。
「アケロスが言っていただろう? 学費や入学費は王宮側が出すって。 と言っても国庫に手を付けるわけにはいかないから、陛下の私財からだけどね。 彼は皇帝になる前に開拓した土地をいまだ所有しているから蓄えもあるし、今回は陛下のわがままに巻き込まれるんだから、全額きっちり払ってもらいなさい。 何なら仕事としてお給料をもらっていいくらいだ。」
「……いえ、お給料まではちょっと。」
勉強は自分のためだし、そこまでしてもらうのは良くないよね、っていうかいろいろと手をまわすの早すぎじゃない?
つい、げんなりしちゃったところに兄さまが畳みかけてくる。
「それから、店に関してなんだけど、このお店の商品作成はどうしてもフィランにしかできないから手伝うことができないけど、学校に行っている間は店番の事は気にしなくて大丈夫。 私と、こちらから手配した人材でやるからね。 あぁ、その人材に対する給料も陛下が持つから安心するように。」
「え!? いやいやいや!」
その言葉に慌てて声を上げる。
「兄さま、ここ私のおうち! 私のお店! 兄さまもだけど、『猫の手』として人を雇うのに、お給料は別から出ますっておかしいです! その方たちのお給料は、王宮の足元にも及ばないけど、ちゃんと私が払いたいです!」
「う~ん、その心がけは立派だけど、できない相談だね。」
わたしの言葉に対し、とてもはっきりと兄さまは言い切った。
「良いかい、フィラン。 今回のアカデミー入学の前提は陛下のわがままに付き合ってなんだ。 陛下のわがままでアカデミーに行くために店番ができないのだから、それに伴う金銭や人材の補填は、きちんと責任を取ると陛下も言っておられた。」
「え? でも自分の勉強のためでもあるんですよ?」
「うんそうだね。 ならフィランは、アカデミーで陛下のお世話をして、お給金代わりにそれらの事をしてもらう、と考えればいい。 それから店番の方は、基本は私がやるんだよ。 セスの傍にいたいからね。 私が何かの用でここを離れるときだけ、私や陛下が信頼する人にいてもらうだけだから、その相手とフィランと接触することもないし、水場や二階には入れないようにするつもりだ。 だから安心してアカデミーに通っていいんだよ。」
「……。」
ぐうの音も出ないド正論来ましたよ、これ。
もう!
もう!
みんな過保護すぎるでしょ! と、言いたいのをぐっと我慢して果実水を飲む。
現時点で私が反論しても、兄様には口で勝てないってわかってるから、きっと上手に丸め込まれるだけだし、なんたって陛下と師匠も絡んでるからなぁ……。
私、ロギイさんとラージュ陛下になら絶対に勝てると思うけど、師匠と兄さまに絶対勝てる気がしない。 丸め込まれて気が付いたら思い通り、ってなりそう。
そう、引き際って肝心。
ふぅっと、あきらめのため息をついた。
「いろいろと納得いかないけど、でも、わかりました……」
「いろいろと迷惑をかけてすまない。 迷惑料だと思って受け取ってほしいな。」
「……随分大きな迷惑料ですね……。」
天を仰ぎながら、そうつぶやいた私。
あ、この方角って、神様もいるけど皇帝陛下の住んでる王宮もあるんだった……天の神様を拝むっていうか、皇帝を拝む……? いや、どっちも嫌だなと思ってもうひとつ、ため息をついた。
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