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狸と狐のピーチとオレンジのキャンディ
ファジーネーブル〖3〗
しおりを挟むけれど、私の思いを知ってか知らずか木津音くんは悲しそうな顔して、
「そんなんじゃないよ。………立貫さん、笑いたくないときは笑わなくていいよ」
「無理してないよ。私の事なんか気にしないで。ただ、ちょっと疲れ気味かな」
語尾があがり、やはり笑う。笑いたくないのに。
「『なんか』なんて、やめなよ。俺、立貫さん、いつも物を丁寧に幸せそうに、綺麗に食べるから。偉いと思う。肉まん、美味しい?箸使い綺麗だし。家庭科でちゃんとお米を研げたの立貫さんだけだった」
「うん………」
食べ物ばっかりの話。でも嬉しかったよ。でも木津音くん、ごめん。私やっぱり笑ってしまう。汚い笑顔をふりまきながら。
毎日、夕方肉まんを持って現れては、怪訝そうな顔をする私に見つめられながらも、木津音くんは満面の笑みを浮かべる。
「ピーチとオレンジどっちが好き?」
不思議な質問から始まって、一緒に半分した肉まんを食べる。
「肉まん食べ終わってから食べて」
とても美味しい飴をくれた。そして、
「一緒に帰ろう」
という。木津音くんは、毎日
『ピーチとオレンジどっち好き?』
と私に嬉しそうに訊く。私は
『どっちも聞いたよ。それに、どっちも美味しいよ』
と照れ臭くてって下を向いて口を尖らせて、不貞腐れて可愛くない顔で初めて笑って言った。
──────────
誰かといて久しぶりに心から笑えた。友達ても、同種の中でも、家族とでも笑えなくなっていたのに。『心から』笑ったのはあの日以来だった。
私が『本当に』笑えなくなったのは幼い頃、好きだった──片思いしていた、狐のせいだ。
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