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狸と狐のピーチとオレンジのキャンディ
ファジーネーブル〖5〗
しおりを挟む私は勇気を振り絞って、おどおどと、狐に話しかけた。
『い、稲荷寿司、作ったの………』
『いらねー』
私の笑った顔は『可愛くない』じゃない『汚い顔』なんだ。
笑うと余計に『汚い』んだ。
冗談めいてもない、完全な否定の言葉。一生懸命作った、お稲荷さんも、冷ややかな一言で意味を失ってしまった。
私は意味のない、食べてもらいたかった人がいなくなった稲荷寿司を泣きながら食べた。弟たちにはあげなかった。
あの狐の言葉が私の胸より奥の心までえぐったのは、初めて好きになった、とても親切なやさしい狐で、私の心に言葉で楔を打っていった、とても意地悪な狐だったからだ。
好きだった。だから、傷ついた。
だから心から笑えなくなった。
たくさんたくさん泣いたよ。私はもうあなたの土を蹴る後ろ姿しかおぼえてないよ。
ううん。覚えているよ。あなたの笑顔も、
声の温もりも、優しい言葉も覚えている。
だから、つらい。苦しい。あなたを忘れたい。本当に、あなたを好きだったから。
──いつまで根に持ってるの?そういう人は言われる側にないからよ。言う側の人は忘れている。
きっとあの狐も忘れてる。どうせ、こういうことを覚えているのは私の方。こだわっているのは私の方。しつこいとか、心が狭いとかいわれる。自分が過去にこだわってるくらい知ってる。あの一件があってから、笑顔が汚いと言われてから、あの狐がくれた蜂蜜ローヤルゼリーで母さんは元気になったけど、私はへらへら薄く笑うだけで、ニッコリ綺麗になんて、笑えなくなっていた。
狐に胸をえぐられて、その中身は、朗らかに笑うことは、素直な心は、あの狐が持って行ってしまった。
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