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狸と狐のピーチとオレンジのキャンディ

ファジーネーブル〖6〗

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 「木津音くん、ごめん、帰るね!」

「立貫さん!明日放課後、体育館倉庫に一人で来て」

「うん!」

浮かれて駆ける私の中でパチンッと何かが弾けた。無意識に、私、笑った。やっと笑えて、何かが弾けた。やっと正しく思い出せたことがある。

私には記憶の箱の鍵が壊れて、閉じこめておきたいのに、どうしても溢れてしまう言葉がある。

『笑って汚い顔をより汚くするな』

好きな狐から言われた言葉だった。私は上手く笑えなくなった。だけど思い出したくなかった、でも思い出した。彼が、あの彼が私に言った。暗示が溶けた。あの狐の顔が鮮明になっていく。

『笑顔が汚い』

その言葉で、私の生き方や、処世術まで変えた、私の初恋の狐。恋しくて憎い狐。

──────────

『幼い私の初恋を踏みにじったあの狐』は『木津音くん』だった。

半分個の焼きそばパンも、ピーチかオレンジの飴も、ほかほかの肉まんも思い出したくもない。

『笑顔が汚い』

って吐き捨てられた冷たい言葉も、それ以来ずっと笑えなくなったのも。あの狐のせいだったのに。

私はまんまと騙されて、不細工に笑ってた。

もう誰も好きになんかならないと思ったその日、蒲団をかぶって咽ぶように泣きながら思ったのも、だれも信用できないと思ったのも、あの狐がそうさせた。

でも、その鎖をほどいてくれたのもあの狐だった。弾けた鎖は術だ。

ねぇ、またがんじがらめに私のこころを縛っていくの?どれだけ私が苦しんだか解る?

「汚い顔」

って思われるって、怯えて、怖くて、哀しくてどうしていいか解らないから、また私は感情を握りつぶして無表情のまま泣きながら感情を埋葬して、偽りの『笑い面』を被る。

私の顔は汚い。笑った顔はもっと汚い。
私はその場を立ち去り泣いた。汚い顔をさらに歪ませる。

一人部屋に籠って声をあげて泣いた。

あの狐のせいだ。みんな、嫌いだ。だれも信用できない。あの優しい顔、笑った顔、照れた顔、溢れ出る親切、善意。全部。魂胆がない人なんかいない。
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