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〖第8話〗鈴蘭のブーケ
しおりを挟むどうして?よりによって今日………。特別な花束を、渡そうと思ってたのに。オレは隠したブーケを背中に持ち、遠くに見える社務所をみながら、苦笑いする。
ああ、そう言うことか。何で気づかなかったんだろう。
オレ、馬鹿だな。鈍いな。渇いた笑いがこぼれた。仕方無いよな、オレは冴えないし。でも、よりによって、今日はつらいな。
いつもタイミング悪すぎだよ、オレ。綺麗な昨日話した、カナエちゃんが好きな花、あげたかったんだよ。
けどさ、カナエちゃんが好きな花も、ブーケが欲しいのも、オレからじゃないんだよな。
オレがあげるどんな豪華な花束も、笑顔も、ただ無愛想にしているだけでも狐野郎には、カナエちゃんにとっては、ただそれだけで良い。要は、俺は敵わないんだよな。想いはどうにもならない。
カナエちゃんは、それから社務所をオレに任せ早退けしてしまった。
**********
その日、オレは、特別に花屋の娘さんに、鈴蘭を小さいけれど、凝った綺麗なブーケにして貰っていた。こんなことになるとは思わなかったから。
オレは狐野郎を呼んだ。カナエちゃんがいないのはこいつのせいだけど、棄てるのには憚られる。ブーケが可哀想だし、花屋の娘さんに悪い。あまりにもやりきれない。誰もいなかったら、泣いてた。
「狐野郎!狐!」
ふわりとオレの呼びかけに、狐野郎は姿を表した。
「これ……やるよ。枯れたら花が、可哀想だから」
狐野郎は驚いたように瞬きをして、小さく、
「あ、ありがとう。こんな凝った花……綺麗だ……」
狐はそう言うと、はにかんで笑った。
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