指先だけでも触れたかった─タヌキの片恋─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第10話〗ごめんの言葉はいつも遅くて

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 今、こいつがカナエちゃんに鈴蘭のこのブーケを渡せばカナエちゃんは笑って嬉しそうにブーケを受け取るんだろうな。段々惨めになってくる。自分の心が真っ黒になりそうだ。残酷な気持ちになってくる。
 そう言えば西洋の物語で不思議な鏡が出てくる話があった。あの話が何故か頭をよぎった。

「田貫、あ、その、ブーケありがとう。あ、あのさ、ずっと……言いたいことが、あって………お、俺じゃなくて……わ、私……お前のこと……ずっと、ずっと……す、好き……………」

「あぁ?聴こえねー。お前に……お前なんかに百回礼を言われても、カナエちゃんに一つも喜んで貰えなかったら何の意味なんて無いんだよ。勝手に喜んでろよ。いつもお高くとまって、羨ましいね。この鈴蘭だって、一昨日カナエちゃんが好きだって言ったから、初めて、ヒヤトイノシゴトのコウツウセイリをして、初めて稼いだオキュウリョウで買ったんだ。もらった花束じゃない!初めてあげたいと思ったヒトの為に買ったブーケだ!お前なんかにあげるためのブーケなんかじゃない!お前なんか、お前なんか……目障りだ!いなければよかったんだ!ずっと、カナエちゃんが好きだったのに!お前のせいだ、消えちまえ!」

 そう言って狐野郎を見ると、狐は泣きそうな顔をして霞と共に姿を眩ませて消えてしまった。ファサっと地面に鈴蘭のブーケが落ちた。また、間違えた。
 責めるのはオレ自身なのに。………狐に、あんな顔させちまった。あれじゃ八つ当たりだ。

「ごめんな………ごめん稲荷、稲荷の狐…………」

 気が風で葉を揺らす音しか響かない。
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