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〖第20話〗太白の切ないプライド
しおりを挟む今オレが、カナエちゃんを前にして何もできず、昔を思い出し固まってる様子を見て、木常が、
「少々お待ちください」
木常は、オレを社務所の端へ連れていく。じっと瞳をとらえられる。大きくて少し潤んで、黒曜石みたいだ。とても綺麗で、やはり、釣り合わない。オレは自信がない。格好良くなりたかった。
「巷で言う絶世の美女がぞっこんなのはあなたよ。しょぼくれた顔しない!私の気持ちも信じられない?忘れてよ。前の人間への想いなんて、もう捨てて。それに釣り合い?太白は私のすべてよ。私の幸せはあなたなの。あいしてるから。大丈夫、行こう?ほら、あのピンクお守り渡してあげて」
カナエちゃんには、もうオレの、オレ達の記憶はない。何でオレはこんなに彼女にこだわっているのかなあ。
きっと、命の恩人で、普通のヒトは触るのも嫌になるオレを洗ってくれて、ご飯をくれて、ヒトになったみずぼらしいオレにも態度は普通のヒトと変わらなかった。ちっぽけな自尊心を踏みつけるようなことはしなかった。
コンビニの冴さんも、花屋の倫子さんも。オレの周りの人間は、みんなオレに優しかった。決して小綺麗な格好でもお金持ちな格好でもなかったのに。
『内緒っすけど、おにぎりハイキなんすよ。超もったいないっすよ。店長に内緒でたまに貰うんす。これはまだ賞味期限内っす。田貫さんに』
『田貫さん、肉まん!今年初っ!私のおごり!』
『田貫さん、良かったらクレマチスの鉢。業者さんがくれたの。貰い物でごめんね』
『これ、バラ園のチケット。ペアなの。私は家のチビはまだ子供だから連れていけないし二人は連れては行けないし。良かったら、カナエちゃんか、前に言ってた木常さんとも───』
オレは幸せだった。善意に囲まれて生きてきたんだ。
オレが今まで出会った人たちは、やさしさを身に纏ったような人たちだった。
◇◆つづく◆◇
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