21 / 24
〖第21話〗木常の見つめる先
しおりを挟む勿論、木常に対してもそうだった。昔はただ視線が気になった。悲しい瞳の見つめる先が、オレだと言うことは、カナエちゃんとオレと一緒に、楽しく会話できないことへのただの一抹の寂しさということだと思っていた。狐が見ているのは、カナエちゃんじゃなくて、オレだと、ずっと気づかないでいた。
「カナエちゃんしか見えない、カナエちゃんに夢中なあなたにとって、私も見つめるだけの恋だった。見つめるしかできなかった。そして私の視線は騒音だった。だから、あなたのつらさは解るよ。つらかったね、田貫。『何で気づいてくれなかったの!』なんて怒ったりしないよ」
木常はカナエちゃんの記憶を消した日から、心がぼんやり宙を漂ったままのようなオレを見かねたのか、毎日鈴蘭の花束をくれた。木常の本当の名は『鈴蘭』だった。
******************
オレはカナエちゃんに術をかけてからしばらくし、気力を失い、ヒトになる力も失ってしまう始末だった。毎日小さな毛布をかぶせられ社務所の端のお洒落な木箱に入れられた。添えられるのは、木常がいつも買ってくる鈴蘭の花束だった。
木常の思いは雪を融かす春の陽射しのようだったとオレは思う。優しくて、暖かなで、決してオレを責めるようなことは、絶対にしなかった。
心に穴が空いて、カナエちゃんが棲んでいた俺の心は、がらんどうで、古傷みたいにカナエちゃんがいた痕跡が痛くて、寂しくて、恋しくて。オレは木常が、オレが木常への好意を解っていながら、その想いを返せるか解らないのに肩を借りて泣いた。
オレは狡い奴だ。木常、ごめん。こんなオレを許してくれ。それでも木常は、そんなオレの心を読むように優しくしてくれて、オレはその優しさに甘えてしまう。
『オレは狡い。ごめんな、木常』
『惚れた弱み。いつか名前で呼んで。それだけでいいらしいの』
◇◆つづく◆◇
0
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる