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〖第22話〗
しおりを挟む正座した膝に握る手に爪が食い込む。じっと固まったまま下を向くしか出来ない。
ぽたぽたと涙が落ちる。虚しいと思った。そして惨めだとも思った。お互いの沈黙が続く。沈黙に耐えかねて、顔をあげる。滲んだ涙で表情は解らないけれど、正一と目が合った気がして、私は怖くてまた俯いた。
後ろに結わえた長い真っ直ぐに伸びた黒髪が軽くほどけ、顔にかかる。指で耳にかけようとした時、正一の右手がすっと左頬に差し伸べられる。
『ぶたれる!』
そう思い身が竦んだ。でも、大きな冷たい手は、私の頬をくるんだ。親指で涙を拭われる。
「何が、不安なんだい?話してごらん」
いつもより、静かに、殊更穏やかに正一は訊いた。さっきまでの自分に芽生えた激しい感情が消えていく。浮かぶのは、後悔だった。
「い、言えない」
「ちゃんと、聴くから。話してごらん」
「い、嫌だ。言えない」
「雪」
低くて、意思のある声。逃げられない。そう感じた。そして、この感情に気づいた私は、もう正一と一緒には居られない。
叶わない想いほど、つらいものはないのに、気づいた感情を押し殺して正一と暮らせない。まして、私を誰かに重ねて目を細めるひとと、笑顔で一緒にいることは私にはできない。
最後になるだろう言葉を、私は言う。消え入るような声で言う。
『……私、正一、好き。だから、つらい。出てく』
正一は、頬から力なく手を離す。正一の顔を見る勇気はなかった。私は泣きそうになりながら笑う。
「正一、やさしいの、私、か、勘違いした。正一、言葉、みんな、嘘。私、誰かの代わり。正一、私にやさしい。親切。でも違う。拾ったのも、か、可哀想だからじゃ、ない。私じゃないひと、見てる。正一、嘘つき」
いつも静かな正一からは感じることはない激しさで、正一は私に言った。
「私は君に嘘をついたことは一度もない。誰かに何か聴いたのか?言いなさい!誰に何を聴いたんだ!何を吹き込まれた!」
正一の、初めて聴く大きく荒い声。いつもの、つつむような綿みたいな話し方とあまりに違いすぎて、怖くて答える声が震えた。
「どうして、むきに、なるの?本当だから、でしょ。私、つらいよ、苦しい。それに、誰にも、訊いてない。解るの。解るんだよ。正一が、好きだから。もうここには、いられない。私、秘密、話したから、出てく。さよなら、それとごちそう、さま。今まで、ありがとう。ごめんなさい。正一に、森の、加護を……」
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