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第3章
兎へのオオカミの手紙
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『秋彦、好きな花は山梔子と金木犀だったな。受け取って欲しい。
金木犀の香水なんだ。昔、おばあちゃんの家の裏の林に大きな金木犀があって花を摘んだこと覚えているか?
俺も、金木犀が好きだ。
秋彦も、好きだよ。ずっと、好きだった。忘れようとしても忘れられなかった。信じて欲しい。
告白に何も答えがないから、きっと気持ち悪いと思ってるんだろうと思っていた。でも秋彦への想いは消えなくて彼女を作った。少し加野は、目がお前に似てた。
ひとの気持ちを軽んじた。それが間違いだった。あの事件の引き金を引いたのは俺だ。本当にすまない。
クラスからお前が消えて、何をしても連絡がとれなかったとき、秋彦に会って、話が見えなくて、キスだけ残して消えてしまった秋彦が忘れられなくて谷崎なら何か知っているかと話を訊いた。
谷崎を責めないでくれ。
それで、あの事件を知った。何も知らずに無神経に頬を張ってしまったこと、手を振る秋彦を追いかけられなかったことを謝りたい。本当にすまなかった。
もう間違えないから。また、昔みたいに戻りたい。今度こそ守るから。秋彦には沢山の傷を負わせた。すまない。
傍にいたい。
声を聞きたい。
またいつか秋彦と暮らしたい。
独りよがりな願いばかりですまない。
支えになりたいんだ。明日、答えを聞きに行く。出来れば香水をつけてきてくれたら嬉しい。 祥介』 …………………………………………………
昨日の日曜日とはうってかわってのどんよりとした曇り空だった。
昼休み前、雨が降り始め、土の匂いがたち込めていた。
保健室で秋彦は落ち着かない様子で祥介を待っていた。
本当に、祥介は来るのか。加野に何か言い含められて来るのではないか。
言葉は誰でも何とでも言えると、思う気持ちがとれない。あの手紙も疑ってしまう。夏なのに手首と首元から金木犀が香る。マイボトルの冷たい紅茶を飲みながら、ぼんやり、祥介のことを考えていた。
「秋彦?」
振り返ると祥介のいつもの顔が驚きと何処か恥ずかしそうな顔に変わっていく。
「どう、したの?」
「いや、可愛い…。ファッション雑誌のモデルみたいだな。髪、似合ってるよ、コンタクトにしたんだな。声を聞かなきゃ誰だか解らないよ」
「誰かに聴かれたくない話したいこと、あるんでしょ?こっちへ来て」
秋彦は大きなソファがある隣のカウンセリングルームに案内する。
「…加野さんに、言われてきたの?本当のことしかここでは言わないで。約束して」
秋彦の大きな瞳が、祥介を見つめる。秋彦の疑い見る大きな瞳が祥介の胸を刺した。
「加野とは、あの事件を知ってからすぐ別れた。許せなくて。あの事件は知らないふりを通して、
『成績が下がって親に、彼女なんて作る暇あるなら勉強しろって怒られた』
って言った。秋彦が夏期講習来るかどうか解らなかったけど、
一応、考えて言ったつもりだ。
手紙に書いたけど、
谷崎っていう下級生にあの話を聞いた…無神経なことばかり秋彦に対して言ってきた…。ごめん。
あと保健室登校だっていうことも、
聞いた。あ、そうだ。
夏期講習のプリントとか、
夏休みの課題とか持ってきた」
「そう…ありがとう」
プリントを受けとる手、小さい手だと祥介は思う。暫くの沈黙が二人の間に流れる。祥介はポツリポツリと呟く。
「全部、全部俺のせいだな。俺が自分勝手だったから」
加野と中途半端に付き合って、秋彦があんな目に遭わされたのに、ろくに話も聞かないで祥介は秋彦の頬を打った。
嫌味も言った。昔なら違かった。
谷崎と秋彦の関係に嫉妬してた………。
足の怪我も…あんな無神経な言い方をした。
「すまない、秋彦。守るどころか、お前を傷つけた………」
祥介はそう言い下を向いた。
───────────続
金木犀の香水なんだ。昔、おばあちゃんの家の裏の林に大きな金木犀があって花を摘んだこと覚えているか?
俺も、金木犀が好きだ。
秋彦も、好きだよ。ずっと、好きだった。忘れようとしても忘れられなかった。信じて欲しい。
告白に何も答えがないから、きっと気持ち悪いと思ってるんだろうと思っていた。でも秋彦への想いは消えなくて彼女を作った。少し加野は、目がお前に似てた。
ひとの気持ちを軽んじた。それが間違いだった。あの事件の引き金を引いたのは俺だ。本当にすまない。
クラスからお前が消えて、何をしても連絡がとれなかったとき、秋彦に会って、話が見えなくて、キスだけ残して消えてしまった秋彦が忘れられなくて谷崎なら何か知っているかと話を訊いた。
谷崎を責めないでくれ。
それで、あの事件を知った。何も知らずに無神経に頬を張ってしまったこと、手を振る秋彦を追いかけられなかったことを謝りたい。本当にすまなかった。
もう間違えないから。また、昔みたいに戻りたい。今度こそ守るから。秋彦には沢山の傷を負わせた。すまない。
傍にいたい。
声を聞きたい。
またいつか秋彦と暮らしたい。
独りよがりな願いばかりですまない。
支えになりたいんだ。明日、答えを聞きに行く。出来れば香水をつけてきてくれたら嬉しい。 祥介』 …………………………………………………
昨日の日曜日とはうってかわってのどんよりとした曇り空だった。
昼休み前、雨が降り始め、土の匂いがたち込めていた。
保健室で秋彦は落ち着かない様子で祥介を待っていた。
本当に、祥介は来るのか。加野に何か言い含められて来るのではないか。
言葉は誰でも何とでも言えると、思う気持ちがとれない。あの手紙も疑ってしまう。夏なのに手首と首元から金木犀が香る。マイボトルの冷たい紅茶を飲みながら、ぼんやり、祥介のことを考えていた。
「秋彦?」
振り返ると祥介のいつもの顔が驚きと何処か恥ずかしそうな顔に変わっていく。
「どう、したの?」
「いや、可愛い…。ファッション雑誌のモデルみたいだな。髪、似合ってるよ、コンタクトにしたんだな。声を聞かなきゃ誰だか解らないよ」
「誰かに聴かれたくない話したいこと、あるんでしょ?こっちへ来て」
秋彦は大きなソファがある隣のカウンセリングルームに案内する。
「…加野さんに、言われてきたの?本当のことしかここでは言わないで。約束して」
秋彦の大きな瞳が、祥介を見つめる。秋彦の疑い見る大きな瞳が祥介の胸を刺した。
「加野とは、あの事件を知ってからすぐ別れた。許せなくて。あの事件は知らないふりを通して、
『成績が下がって親に、彼女なんて作る暇あるなら勉強しろって怒られた』
って言った。秋彦が夏期講習来るかどうか解らなかったけど、
一応、考えて言ったつもりだ。
手紙に書いたけど、
谷崎っていう下級生にあの話を聞いた…無神経なことばかり秋彦に対して言ってきた…。ごめん。
あと保健室登校だっていうことも、
聞いた。あ、そうだ。
夏期講習のプリントとか、
夏休みの課題とか持ってきた」
「そう…ありがとう」
プリントを受けとる手、小さい手だと祥介は思う。暫くの沈黙が二人の間に流れる。祥介はポツリポツリと呟く。
「全部、全部俺のせいだな。俺が自分勝手だったから」
加野と中途半端に付き合って、秋彦があんな目に遭わされたのに、ろくに話も聞かないで祥介は秋彦の頬を打った。
嫌味も言った。昔なら違かった。
谷崎と秋彦の関係に嫉妬してた………。
足の怪我も…あんな無神経な言い方をした。
「すまない、秋彦。守るどころか、お前を傷つけた………」
祥介はそう言い下を向いた。
───────────続
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