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第9章
ライオンの『恋』④
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色々な話。谷崎はずっと穏やかに聴いてくれた。
「俺といるときくらいは肩の力抜いて。
さて、花火付き学習旅行の計画立てましょ?
その前に早いけれど昼飯食べちゃいます?
早弁みたいですね」
「早弁か…憧れだよ。谷崎くんのご飯作るとこ見てていい?」
谷崎はあっという間に手早く汁が少し多めの豆腐のチャンプルを作り、
どんぶりによそわれたご飯にのせる。
「早いね。すごい。いい匂い」
「人参とピーマンは炒め時間短縮でレンチンしてますから。食べましょ。熱いうちに」
「あ、これ、アイスのほうじ茶。濃い目に淹れて氷いれたの。良かったら」
「ありがとう、先輩」
二人の『いただきます』から始まる食事。柔らかな灯りのような谷崎の笑った顔に秋彦も自然と笑顔になる。
「お醤油しか味つけないのに、出汁でてる、すごく美味しいし、僕、好きだな」
「良かった」
谷崎はチャンプル丼をかきこみ嬉しそうだ。
「先輩の淹れてくれたお茶、香ばしくて美味しい。手間でしたね。ありがとう、先輩」
「そんな、簡単だよ…」
谷崎は秋彦をいつも真っ直ぐ褒める。
あまり褒め慣れてない秋彦はむず痒い感じがして俯いてしまうけれど、とても嬉しい。
それに、谷崎の柔らかな、まるい笑った顔に会える。
谷崎が喜ぶことをもっとしてあげたい。
思い返す。
昔、祥介に、何かしただろうか。
守ってもらうことが、してもらうことが当たり前で、あのひとのために何かするのは拙い料理くらいだった。
失敗しても美味しいと笑うやさしい顔が好きだった。後ろ姿だけで終わってしまった秋彦の初恋。
長く拗らせてしまった恋だった。
もう、本当の彼女がいるひとを何故思い出すんだろう。何で感傷に浸ってるんだろう。
思い返してしまうのは、
思い出を作りすぎるほど、
長く、傍に居たからだと秋彦は思う。
やさしい恋に落ちたライオンは仔ウサギのすべてを許してしまう。
自分の思いを閉じ込めてまで。
『そう簡単に思い出は消えない。思い出は生きてきた証』と言い、
『でも想いは、こころは俺に下さい』と
『俺とのこれからを考えてほしい。だから前を向いて』と言った。
谷崎を失いたくない。
こんなにあったかくてやさしいひとは秋彦の人生にはいなかった。
谷崎は見返りも求めない。
ただ与えて、支えてくれた。
鞄をもって、いつも通りの格好をした谷崎に秋彦は玄関で背伸びをしてキスをした。
触れるだけのキスがもどかしく首に手を回して谷崎を見つめてせがむ。
谷崎は肩の鞄を置き、秋彦を抱きしめキスをする。絡めて、味わう。
心地よくてずっとそのままでいたいような口づけだった。
何故かとても甘く感じた。
幸せだった。そっと口唇を離し谷崎は、
「じゃ、五日後、駅で」
───────────続
「俺といるときくらいは肩の力抜いて。
さて、花火付き学習旅行の計画立てましょ?
その前に早いけれど昼飯食べちゃいます?
早弁みたいですね」
「早弁か…憧れだよ。谷崎くんのご飯作るとこ見てていい?」
谷崎はあっという間に手早く汁が少し多めの豆腐のチャンプルを作り、
どんぶりによそわれたご飯にのせる。
「早いね。すごい。いい匂い」
「人参とピーマンは炒め時間短縮でレンチンしてますから。食べましょ。熱いうちに」
「あ、これ、アイスのほうじ茶。濃い目に淹れて氷いれたの。良かったら」
「ありがとう、先輩」
二人の『いただきます』から始まる食事。柔らかな灯りのような谷崎の笑った顔に秋彦も自然と笑顔になる。
「お醤油しか味つけないのに、出汁でてる、すごく美味しいし、僕、好きだな」
「良かった」
谷崎はチャンプル丼をかきこみ嬉しそうだ。
「先輩の淹れてくれたお茶、香ばしくて美味しい。手間でしたね。ありがとう、先輩」
「そんな、簡単だよ…」
谷崎は秋彦をいつも真っ直ぐ褒める。
あまり褒め慣れてない秋彦はむず痒い感じがして俯いてしまうけれど、とても嬉しい。
それに、谷崎の柔らかな、まるい笑った顔に会える。
谷崎が喜ぶことをもっとしてあげたい。
思い返す。
昔、祥介に、何かしただろうか。
守ってもらうことが、してもらうことが当たり前で、あのひとのために何かするのは拙い料理くらいだった。
失敗しても美味しいと笑うやさしい顔が好きだった。後ろ姿だけで終わってしまった秋彦の初恋。
長く拗らせてしまった恋だった。
もう、本当の彼女がいるひとを何故思い出すんだろう。何で感傷に浸ってるんだろう。
思い返してしまうのは、
思い出を作りすぎるほど、
長く、傍に居たからだと秋彦は思う。
やさしい恋に落ちたライオンは仔ウサギのすべてを許してしまう。
自分の思いを閉じ込めてまで。
『そう簡単に思い出は消えない。思い出は生きてきた証』と言い、
『でも想いは、こころは俺に下さい』と
『俺とのこれからを考えてほしい。だから前を向いて』と言った。
谷崎を失いたくない。
こんなにあったかくてやさしいひとは秋彦の人生にはいなかった。
谷崎は見返りも求めない。
ただ与えて、支えてくれた。
鞄をもって、いつも通りの格好をした谷崎に秋彦は玄関で背伸びをしてキスをした。
触れるだけのキスがもどかしく首に手を回して谷崎を見つめてせがむ。
谷崎は肩の鞄を置き、秋彦を抱きしめキスをする。絡めて、味わう。
心地よくてずっとそのままでいたいような口づけだった。
何故かとても甘く感じた。
幸せだった。そっと口唇を離し谷崎は、
「じゃ、五日後、駅で」
───────────続
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