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第10章
ライオンと妖艶なウサギの夜④
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秋彦はもう、恨みや憎しみを身体の中に置きたくないと思った。
許したいとは言わない。
思い出したくもない。
ただ、もういい。
秋彦の望みは
『普通であること』
だ。でも何故だろう。
涙が出る。
こころが飽和したみたいだと秋彦は思う。
「谷崎くん。たにざき、くん」
秋彦は谷崎にしがみついた。
「どうしたんですか?足が痛いんですか?何処か痛めましたか?」
あたふたと心配する谷崎に、
「解んない、解んない。お椀から水が溢れたみたい。涙がまらないよ」
谷崎は微笑みながら、秋彦を抱きしめる。
「しあわせが溢れたんですよ。
一緒にいるんですから。
ほら、段々落ち着いてきたでしょ?
深呼吸して。
先輩が泣いたら涙を拭きますから。
俺が泣いたときには先輩の胸を貸して下さい」
「うん。うん」
「ほら、大きいの上がりましたよ」
オレンジ色の大きな花火。
地響きがした。
触れるだけのキスをして、あがり湯に水を足にかけて出る。
まるで二人のお風呂を出るタイミングを見計らったように、秋彦の祖母が、
「スイカ切ったから早くおいでな」
と脱衣所に顔を出した。
部屋着に着替え、
皆でスイカを食べ、
お喋りを楽しみ、
二人で母屋へ行く前に秋彦の祖母に挨拶をし、床についた。
「先輩、先輩のことギュッとして寝ちゃだめですか?」
「いいよ。この前みたいな腕枕?」
「はい」
「僕、谷崎くんにくるまれて寝るの、好き」
それから二日、予定通りに課題の学習を終えスケジュールを消化した。
夜は蛍を見た。ふわふわと飛びながら伴侶を見つけるために光る蛍。谷崎は肩にとまった蛍に困惑していた。
『触ったら死んでしまいそうです』
という秋彦は庭木の落ち葉を一枚取り、
蛍を乗せ宙に放った。
蛍はゆっくり飛び去り、二人から遠ざかる。
一つ予定外だったのは夜更けに抱き合うことだ。もう、秋彦は理性を手放し、与えられる快楽に降伏する。
青い瞳のライオンの前でだけ、仔ウサギは妖艶な美女になる。
乱れ、喘ぎ、嬌声をあげ、
艶かしい声で、谷崎をねだり、急かし、
谷崎に絡む宿り木のように背にしがみつき爪を立て、細い悲鳴のような声をあげ達する。
そして、指を絡め、谷崎は秋彦を包むようにして眠る。帰る前の晩、抱き合った後、秋彦は名残惜しそうに、
「秋の連休になったら、またこよう?彼岸だから近い親戚も来るけど、
お線香あげて帰るだけだし。
あ、叔母さんと叔父さんたちのお返しと、
お盆の御仏前に返すお菓子は考えなきゃ。
任せていいっておばあちゃんは言ってたけど。今度、秋に来たとき、
谷崎くん、一緒に栗拾いしない?
楽しいんだ。
スニーカーで、挟んでイガを割るの。栗ご飯作ってあげる。
茸も採りにいこう。沢山、裏山に生えるんだ」
と谷崎の腕の中で言った。
「谷崎くんとこれて良かった」
素敵な思い出をありがとう、とも。
───────────続
許したいとは言わない。
思い出したくもない。
ただ、もういい。
秋彦の望みは
『普通であること』
だ。でも何故だろう。
涙が出る。
こころが飽和したみたいだと秋彦は思う。
「谷崎くん。たにざき、くん」
秋彦は谷崎にしがみついた。
「どうしたんですか?足が痛いんですか?何処か痛めましたか?」
あたふたと心配する谷崎に、
「解んない、解んない。お椀から水が溢れたみたい。涙がまらないよ」
谷崎は微笑みながら、秋彦を抱きしめる。
「しあわせが溢れたんですよ。
一緒にいるんですから。
ほら、段々落ち着いてきたでしょ?
深呼吸して。
先輩が泣いたら涙を拭きますから。
俺が泣いたときには先輩の胸を貸して下さい」
「うん。うん」
「ほら、大きいの上がりましたよ」
オレンジ色の大きな花火。
地響きがした。
触れるだけのキスをして、あがり湯に水を足にかけて出る。
まるで二人のお風呂を出るタイミングを見計らったように、秋彦の祖母が、
「スイカ切ったから早くおいでな」
と脱衣所に顔を出した。
部屋着に着替え、
皆でスイカを食べ、
お喋りを楽しみ、
二人で母屋へ行く前に秋彦の祖母に挨拶をし、床についた。
「先輩、先輩のことギュッとして寝ちゃだめですか?」
「いいよ。この前みたいな腕枕?」
「はい」
「僕、谷崎くんにくるまれて寝るの、好き」
それから二日、予定通りに課題の学習を終えスケジュールを消化した。
夜は蛍を見た。ふわふわと飛びながら伴侶を見つけるために光る蛍。谷崎は肩にとまった蛍に困惑していた。
『触ったら死んでしまいそうです』
という秋彦は庭木の落ち葉を一枚取り、
蛍を乗せ宙に放った。
蛍はゆっくり飛び去り、二人から遠ざかる。
一つ予定外だったのは夜更けに抱き合うことだ。もう、秋彦は理性を手放し、与えられる快楽に降伏する。
青い瞳のライオンの前でだけ、仔ウサギは妖艶な美女になる。
乱れ、喘ぎ、嬌声をあげ、
艶かしい声で、谷崎をねだり、急かし、
谷崎に絡む宿り木のように背にしがみつき爪を立て、細い悲鳴のような声をあげ達する。
そして、指を絡め、谷崎は秋彦を包むようにして眠る。帰る前の晩、抱き合った後、秋彦は名残惜しそうに、
「秋の連休になったら、またこよう?彼岸だから近い親戚も来るけど、
お線香あげて帰るだけだし。
あ、叔母さんと叔父さんたちのお返しと、
お盆の御仏前に返すお菓子は考えなきゃ。
任せていいっておばあちゃんは言ってたけど。今度、秋に来たとき、
谷崎くん、一緒に栗拾いしない?
楽しいんだ。
スニーカーで、挟んでイガを割るの。栗ご飯作ってあげる。
茸も採りにいこう。沢山、裏山に生えるんだ」
と谷崎の腕の中で言った。
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素敵な思い出をありがとう、とも。
───────────続
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