あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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第11章

仔うさぎとライオンの大学生活

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「ずっと一緒に『いよう』でしょう?」
ああ、あのひとと同じことを言う。

秋彦は泣きそうになる。


未練はない。
ただ、そう言ってくれたひとの手を、
掴めなかった。
改札に消えていく後ろ姿しかもう、はっきりとは思い出せない。

あんなに『好きだ』なんて言っておいて。一番信用できないのは、自分だと秋彦は思う



それから秋彦はT大に進学した。
ほぼ満点だったらしく、
新入生の挨拶を不本意ながらやる羽目になった。

次点は祥介だったらしい。

サークルは有毒植物研究サークルを祥介と作った。
話をしたら『俺も興味ある』と祥介言ったからだ。
部員は、祥介と、秋彦と目が大きな可愛い彼女だ。
引っ込み思案だが、あまえたな所が何処か昔の自分に似ていると秋彦は思った。

二人を見ていると微笑ましくて、
祥介が笑っていて良かったと思う。

たくさん植物園に行った。
その度に秋彦は、谷崎を誘った。

谷崎はいつも『これ食べれるんですかね』と、目につく植物を見るたび言っていた。



谷崎は、一つ遅れてT大に入学し、壇上に上がり新入生の挨拶をした。

新入生で、
一番の成績だったらしい。




「先輩、久しぶり!」
「うん。三ヶ月ぶりだね」

秋彦は自分の表情が緩んでいくことが解る。

「入学式まで会わないって大見得切った自分が馬鹿でした。逢いたかった。すごく逢いたかった。今日、先輩の家に行っていい?」

「いいよ。ブランケットがなくて、寒くて寂しかった」


小声で谷崎は秋彦に耳元で囁いた。


「三ヶ月おあづけと同じですから。今日は寝させませんよ。覚悟してください」

「そう言われると思って…身体の方は準備しといたから…」


恥ずかしそうに横を向く白衣姿で長く延びた髪の秋彦はまるで女性だ。


「髪延びましたね。そろそろ切りごろじゃないんですか?」

「そうだね。ここのところ切ってない。自分じゃ気づかないね。谷崎くんも延びてるよ?今度一緒に行かない?」


声を小さくして、秋彦は勇気を出した。

「その後、二人でデートしたい…だめ?」

自信無さげな上目遣い。反則だと、谷崎は思う。




それから、定期的に二人のスケジュールを合わせて髪を切りに行くようになった。
息抜きのデートだ。

帰りにふっくら二段の特大パンケーキを秋彦が食べて、谷崎はシーフードドリアを食べた。


「海老、欲しいな」

「どうぞ。俺も苺欲しいです」

フォークが行き交い、小さな微笑みが交わされる食事。


それが二ヶ月、三ヶ月、と忙しさの中に紛れ込んでいく。




いつの間にか国家試験も通り、
秋彦は医師になった。
谷崎は薬剤師になった。

以前、
「どうして医学部じゃなくて薬学部なの?」

と訊いたら、

「先輩の心臓は…もう治りましたよね?階段での息苦しさも俺がいなくても大丈夫になった。
でも、足の痛み止めの薬は手放せない。
作りたい。
先輩がつらいことを思い出して、
無理して笑ったりしなくなるように。
あと、医者行かなくても取り敢えず薬があればって思いがちでしょ?痛み止めとか。けど効果が強いものは、
身体に負担が強くかかるものが多いんです。特に、胃に大きな負担がかかる。
身体に優しい痛み止めをつくりたいなって。先輩が『美味しい』って笑っている顔、好きです。
先輩の笑った顔は俺を幸せにします」

「ありがとう。谷崎くん」


──────────《続》
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