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最終章
ライオンの涙(1/18改編)
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そう書いたあと、
谷崎はテーブルに突っ伏して泣いた。
「死にたくない!死にたくなんかない!死にたくない!」
このひとと、一緒にいたいよ。
ずっと、一緒にいたいんだよ!
ジジイになって、隠居して。
このひととやっと、
穏やかなしあわせを掴んだのに!
「先輩…ずっと愛してるよ。俺のこと忘れないで。お願い。新しい恋人が出来ても、俺との思い出を…忘れないで。少しだけでも俺を好きだった気持ち…とっておいて…」
顔中涙で濡らしながら、
谷崎は呟き泣いた。
秋彦はドアの隙間に立ち尽くし全てを聴いていた。駆け寄り、谷崎を抱きしめ泣き叫んだ。
「忘れられるわけない!忘れられないからこうして一緒にいる。
ずっと一緒。僕には谷崎くんだけ。
手術、受けよう?五十パーセントは怖い。
だから谷崎くんが、いなくなったら僕も逝く。独りにはさせない。
怖くないでしょ?
一緒なら、怖くないでしょ?」
それからが大変だった。
生きることをもう何処かに置いてきたような谷崎に二分の一に、
いやそれ以下に賭けろというのは酷な話だ。
無理な話だ。解ってはいる、
これは秋彦自身のエゴだと。それでも、生きて欲しい。
「解りました。手術受けます」
その声を聴き、その日のうちに祥介に電話をした。早々に手術の準備がされる。
爆弾なのだ。
急ぎに越したことはない。
けれど、半分の確率に二の足は踏む。
入院に必要な荷物をつくる。
二人でこの荷物を持って退院したい。
ある夜だった。事前入院最終日。いよいよ明日だ。
「手術終わったら何がしたい?」
「花火大会一緒に見たいです。あと、冷やしラーメン作り方覚えたんで一緒に食べたいです」
「いよいよ、明日だね」
「あっという間でした」
「色々、今までありがとう。愛しています。秋彦さんだけです。ずっと、あなただけだ」
谷崎は秋彦の手を握りしめた。
「ありがとう。僕も谷崎くんだけ」
秋彦から口づけた。長く、長く。自分のいのちの破片が甘く溶けて谷崎に染み込むように。
いのちを、分けてあげられたらいいのに。
こころの底からそう思った。
手術当日。ストレッチャーで運ばれる谷崎の手に口づけた。
「お願いします梶原先生。祥介、お願い」
時間だけが過ぎていく。
谷崎に病室を個室で取っておいてもらって良かった。ボロボロの泣き顔を隠すのは、
せめてものつよがり。
外で泣いたら全てが崩れてしまいそうで怖かった。
「神様、お願いします。潤ちゃんを助けてください。治してあげてください。潤ちゃんを空に連れていかないで。お願いします」
潤ちゃんと呼ぶときはベッドの中だけ。谷崎もベッドの中では秋彦さんと呼ぶ。
二人だけの秘密。
ああ、そう言えば秘密の恋人だったんだっけ。あのとき言ってたね『秘密の恋人ですね』って。
谷崎くん、君はそう言って笑っていたね。
秋彦は椅子に座りベッドに突っ伏した。
谷崎の香りがうっすら残るベッド。
「かみ、さま」
五時間は過ぎてる。
長い。祥介、助けて。
お願い。ノックの音で、はっと正気に返る。
「秋彦、入るぞ」
「祥介、谷崎くんは…」
表情を弛めて祥介は、
「成功だ。秋彦、大丈夫か?」
秋彦はその場にへたりこむように脱力して座り込んだ。
「怖かった。助からないんじゃないかって、怖くて、後悔ばっかり浮かんできて、
もっと伝えたい言葉があったのにって。
祥介。ありがとう。
梶原先生は?どちらに?」
「支倉先生、こんにちは。いつもばあちゃんがお世話になってます」
ヒョコっと顔を出したのは、おばあちゃんを連れ、秋彦のメンタルクリニックに来ている梶原さんだった。
テストと問診、診察し、初期の認知症と見られたので少ない量の薬物療法を行っている。
「こんにちは。そんな、僕なんて。何も」
「ばあちゃん、最近笑うんですよ。
昔みたいに。
頑固だから色んなクリニックたらい回し。
でも、支倉先生は違った。
谷崎さんは私が完全バックアップするんで。
個室で、付き添い希望でしょう?
麻痺も多分ほとんど無いと思います。
まだ、若い。そんな私も私も、若造ですが。
場所も思ったよりよかったのと、
最初のMRIより小さくなってる気がしました。
まだ、麻酔が解けてないので。
あと長くて三十分くらいは」
ストレッチャーで無事帰ってきた谷崎を見て涙があふれた。
「谷崎くん、成功だよ。
「秋彦さん」
「どうしたの潤ちゃん」
「ただいま」
秋彦は蹲って泣いた。大声で泣き叫んだ。
──────────────《続》
谷崎はテーブルに突っ伏して泣いた。
「死にたくない!死にたくなんかない!死にたくない!」
このひとと、一緒にいたいよ。
ずっと、一緒にいたいんだよ!
ジジイになって、隠居して。
このひととやっと、
穏やかなしあわせを掴んだのに!
「先輩…ずっと愛してるよ。俺のこと忘れないで。お願い。新しい恋人が出来ても、俺との思い出を…忘れないで。少しだけでも俺を好きだった気持ち…とっておいて…」
顔中涙で濡らしながら、
谷崎は呟き泣いた。
秋彦はドアの隙間に立ち尽くし全てを聴いていた。駆け寄り、谷崎を抱きしめ泣き叫んだ。
「忘れられるわけない!忘れられないからこうして一緒にいる。
ずっと一緒。僕には谷崎くんだけ。
手術、受けよう?五十パーセントは怖い。
だから谷崎くんが、いなくなったら僕も逝く。独りにはさせない。
怖くないでしょ?
一緒なら、怖くないでしょ?」
それからが大変だった。
生きることをもう何処かに置いてきたような谷崎に二分の一に、
いやそれ以下に賭けろというのは酷な話だ。
無理な話だ。解ってはいる、
これは秋彦自身のエゴだと。それでも、生きて欲しい。
「解りました。手術受けます」
その声を聴き、その日のうちに祥介に電話をした。早々に手術の準備がされる。
爆弾なのだ。
急ぎに越したことはない。
けれど、半分の確率に二の足は踏む。
入院に必要な荷物をつくる。
二人でこの荷物を持って退院したい。
ある夜だった。事前入院最終日。いよいよ明日だ。
「手術終わったら何がしたい?」
「花火大会一緒に見たいです。あと、冷やしラーメン作り方覚えたんで一緒に食べたいです」
「いよいよ、明日だね」
「あっという間でした」
「色々、今までありがとう。愛しています。秋彦さんだけです。ずっと、あなただけだ」
谷崎は秋彦の手を握りしめた。
「ありがとう。僕も谷崎くんだけ」
秋彦から口づけた。長く、長く。自分のいのちの破片が甘く溶けて谷崎に染み込むように。
いのちを、分けてあげられたらいいのに。
こころの底からそう思った。
手術当日。ストレッチャーで運ばれる谷崎の手に口づけた。
「お願いします梶原先生。祥介、お願い」
時間だけが過ぎていく。
谷崎に病室を個室で取っておいてもらって良かった。ボロボロの泣き顔を隠すのは、
せめてものつよがり。
外で泣いたら全てが崩れてしまいそうで怖かった。
「神様、お願いします。潤ちゃんを助けてください。治してあげてください。潤ちゃんを空に連れていかないで。お願いします」
潤ちゃんと呼ぶときはベッドの中だけ。谷崎もベッドの中では秋彦さんと呼ぶ。
二人だけの秘密。
ああ、そう言えば秘密の恋人だったんだっけ。あのとき言ってたね『秘密の恋人ですね』って。
谷崎くん、君はそう言って笑っていたね。
秋彦は椅子に座りベッドに突っ伏した。
谷崎の香りがうっすら残るベッド。
「かみ、さま」
五時間は過ぎてる。
長い。祥介、助けて。
お願い。ノックの音で、はっと正気に返る。
「秋彦、入るぞ」
「祥介、谷崎くんは…」
表情を弛めて祥介は、
「成功だ。秋彦、大丈夫か?」
秋彦はその場にへたりこむように脱力して座り込んだ。
「怖かった。助からないんじゃないかって、怖くて、後悔ばっかり浮かんできて、
もっと伝えたい言葉があったのにって。
祥介。ありがとう。
梶原先生は?どちらに?」
「支倉先生、こんにちは。いつもばあちゃんがお世話になってます」
ヒョコっと顔を出したのは、おばあちゃんを連れ、秋彦のメンタルクリニックに来ている梶原さんだった。
テストと問診、診察し、初期の認知症と見られたので少ない量の薬物療法を行っている。
「こんにちは。そんな、僕なんて。何も」
「ばあちゃん、最近笑うんですよ。
昔みたいに。
頑固だから色んなクリニックたらい回し。
でも、支倉先生は違った。
谷崎さんは私が完全バックアップするんで。
個室で、付き添い希望でしょう?
麻痺も多分ほとんど無いと思います。
まだ、若い。そんな私も私も、若造ですが。
場所も思ったよりよかったのと、
最初のMRIより小さくなってる気がしました。
まだ、麻酔が解けてないので。
あと長くて三十分くらいは」
ストレッチャーで無事帰ってきた谷崎を見て涙があふれた。
「谷崎くん、成功だよ。
「秋彦さん」
「どうしたの潤ちゃん」
「ただいま」
秋彦は蹲って泣いた。大声で泣き叫んだ。
──────────────《続》
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