あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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番外編

【番外編】啓介の夏休み①

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《番外編・啓介の夏休み》

啓介は父─祥介の部屋を探検するのが好きだ。祥介の部屋にはいろんな本が置いてある。難しいが本を読むのは楽しい。
ある日、いつもは鍵がかかっている祥介の机の引き出しにアルバムを見つけた。まるで隠してあるみたいだった。

パラパラと見ると幼い自分と、不思議に幼い母が、前に行った古く、でも綺麗な、病院もしている家で仲良くあそんでいる。
おかしい。母は自分を産むときに亡くなった。それに母は父よりもかなり若い『トシノサコン』と周りは言っていた。写真のように同学年にはならない。

それにこれは…自分じゃない…暫く考えたのちこの男性は自分ではなく父だと啓介は気づく。このひとは誰だろう。啓介はハッとした。あの、母そっくりの、きれいなひと。確か『秋彦さん』あのひとだ。小さいときに会った柔らかい髪、甘い匂い。悲しげな儚い人。
会いたい。あのひとに会いたい。柔らかい声、少し寂しそうな微笑み。抱きしめて欲しいな…。そんな考えが浮かび啓介は何故か頬が熱くなる。
必要な荷物をもち、駅へ急いだ。蝉が鳴いていた。何故か啓介は走っていた。自分でも解らないくらいだ。
会いたい、会いたい、どうしても。こめかみから汗が伝うが気にならない。駅に着き、奮発してイカの中にご飯が入った駅弁を買う。行き方は解っている。
正確なスマートフォンとおぼろ気な記憶。ガランとした駅で乗り換え。着いた駅で、タクシーのおじさんに、いくらくらいかかるか訊いた。おじさんは笑って、

『支倉先生のとこならサービスしてあげるよ』

と乗せてくれた。着いてみると薄暗い。

「秋彦さん!秋彦さん!」

目についた、庭を眺める小柄な白衣姿に駆け寄り飛びつく。
見た目は昔と変わらない。何歳かなんて解らない。ただ闇が忍び寄る時間に端正な白い顔と、紅い口唇だけが映える。
何故か秋彦は寂しげな顔をしていた。目を細め眺める風景に、風の匂いに、誰かを探すように。

「啓、介くん?随分久し振りだね。大きくなった。一人で来たの?」

「そうだよ。どうしたの?秋彦さん悲しいの?」

いきなり飛びつかれ驚きながらも、柔らかく笑う秋彦は甘いお菓子みたいな匂いがする。庭の遅咲きの山梔子の花の匂いがたちこめているのとあいまって、むせかえるように甘い。

「大丈夫だよ。どうしたの?お父さんと喧嘩したの?学校は?」

ふふっと悪戯っぽく啓介は笑った。

「お父さんには内緒で秋彦さんに会いに来たんだ。お父さんは元気だよ。学校は夏休み」

良かった…。と秋彦はため息をついた。そして、秋彦は、

「取り敢えずあがって。祥介心配してるよ。連絡しておくね。あと、僕のことは『秋彦おじさん』って呼んで」

行こうか、差し伸ばされた白い手は夏なのに乾いていてヒヤリと冷たかった。
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