僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

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さよなら、そうにいちゃん〖第32話〗

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「僕は待ったよ。ずっと待った。あれから五年独りで待った。食べ物がなくなって、お腹が空いて、ひもじくて、何か野草か茸か外に取りに行くたびに石と泥団子を投げられて。殴られて、蹴られて。誰も助けてなんかくれなくて。痛くて熱が出ても看病してくれる人なんかいなかったよ。僕が必死に生きている間、思い出すのはあの幸せだった半年だけ。それだけを生きる糧にしていたよ。あと四年、三年って。きっと最初は解らなくても、答えを解いてくれるって指を折りながら待ってた。きっと迎えに来てくれるって。その間、そうにいちゃんはお見合いしてたんだ。今年だけで十五回も!白い毛並みだったらすぐに結婚できて、幸せになって、赤ちゃんもいたかもね。僕のことなんて最初、覚えてもいなかったんだから。きっと見向きもしなかったよね。そうにいちゃんは良家の娘さんと祝言をあげて僕を忘れたまま家督を継いで………違う?」
   
 ただ、黙りこんだ。空の言うとおりだ涙声になりながら、空は続けた。

「黒い毛並みが何でそんなに嫌なの?その毛並みだったから今があるんじゃないの?そうにいちゃんがつらい思いをしたのは聞いたよ。小さなそうにいちゃんが可哀想だった。きっと僕の想像もつかないくらい、悔しい思いや悲しい思いをしてきたんだね。でもね、僕は………本当につらかったけど、『穢れた巫女の子』で良かったと思うよ。そうにいちゃんが見つけてくれたから。そうにいちゃんは違かったんだね。僕じゃなくても、本当に良かったんだ!誰でも!寂しさを埋めてさえくれれば!僕にはそうにいちゃんだけだったのに!」
    
 空は大声で泣きながら作った花の刺繍を蝋燭の火にくべ始めた。花が燃えていく。

 薄い絹は、あっという間に消えていく。二人で見た白菊、桜、この赤い火のような空の想いに似た楓。蒼は後ろから無理やり抱きしめて、動きを止める。

「やめろ!せっかく作ったんだろう!それに、火傷なんかしたらどうする!」

「いらない!こんなのいらない!そうにいちゃんのために作ったものなんて、全部要らない!燃えちゃえばいいんだ!こんなの、こんなの!」

    泣きわめきながら腕を振りほどいた空は、ヒックヒックと呼吸が苦しそうだった。座り込み、ずっと泣いていた。自分も空の目の前に座る。暫く沈黙が続いた。

『悪かった』と、きちんと話さないと。そう思って、俯いた顔をあげたとき、空は口を開いた。

「最後に質問に答えて、そうにいちゃん。毛並みは白が良かった?黒が良かった?」
    
 空はじっと黙ったままの蒼を逸らすことなく見つめた。暫くして空はいつもの軽く首をかしげた笑いかたで、ニコリと笑った。あまりに悲しい笑い。静かに笑う空は今まで見た中で一番綺麗だと蒼は思った。スッと立ち上がり、空は言った。

「さよなら、そうにいちゃん。あなたの毛並みが白く美しくあれ。山神さまの名のもとに」

    そう言葉を残し、空は風と共に消えてしまった。 

辺りに風が吹く。
まるで永遠の別離のような。

   
「そ、そら?空!俺が悪かった!だから、消えたりしないでくれ!そうにいちゃんが、悪かったから……もう、いなくなったり、しないでくれ……」

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