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三回目の出逢い〖第35話〗──①
しおりを挟む「願いを聞いて欲しい」
「何ですか?」
「黒くて蒼い毛並みに戻して欲しい」
「解りました」
呪のようなものを読み、印を組んだ。額の汗が綺麗だ。蒼は空を見つめ、言った。
「それと……」
「それと?」
「戻ってきて欲しい。私の所に。君を、愛してるんだ。忘れられなかった」
「毛並み以外の願いは無理です。今、山神さまの留守を預かっています」
「黒く蒼い毛並みを心から愛してくれるのは君しかいない。あの日、君を失った日、狛井家で純血の血統の証と、誰もが見とれる翠を前に自分を比べて惨めになった。過去を思い出して、忌まわしい色と皆に言われ、尾を踏まれたときを思い出して、卑屈になっていた。翠はあのとき君が好きだった。もし君まで、翠に惹かれたら、私は?醜い嫉妬が湧き出るのを感じたよ。私はつまらない。翠のように明るく話が上手いわけでもない。そして長年に渡る劣等感があった。君に想われる自信がなかった。翠と打ち解け楽しそうにする君を見るのがつらかった。優しい眼差しも温かい声音も自分だけに欲しかった。自分の目を背けてきた穢い気持ちが見えて、何もかもが、嫌になった。あのとき私にあったのは、醜い嫉妬と卑屈で幼稚な劣等感だ。すまない。君を傷つけたことを謝らないと。そう思って、来たんだ。あらためて、すまなかった。帰るね。私はいつでも君を待ってる。待つのは今度は私の番だね。私が死ぬ前までに、会いに来てくれたら嬉しい。蜂蜜生姜湯、ご馳走さま。美味しかったよ。それと怪我を治してくれてありがとう。あと、その蝶は、返してもらえないか?」
空の周りを舞う蝶々に向かって何やら空は言うと、蝶々は、蒼の元へ来て、自然と籠に入った。
「ありがとう。この蝶が、その、君みたいに思えて」
「……昔、蒼様を思って作りました。だからではないかと」
「そうか。大切にするね。君に会えて嬉しかった」
そう言い草履を履き、振り返る。これで最後かもしれない。それでも空は俯き、蒼を見ようとはしなかった。下を向く空に言った。
「空、君を愛しているよ。ずっと、待っているよ」
階段を降りる。本殿の明かりが遠くなる。これで、良かったんだ。一目でも会えたじゃないか、ずっと、幻や夢でしか会えなかった人に。
「空……」
階段を降りながら、そう呟いた瞬間、涙が堰をきったように溢れた。その時、風が吹いた。
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