僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

文字の大きさ
70 / 115

三回目の出逢い〖第35話〗──①

しおりを挟む

「願いを聞いて欲しい」

「何ですか?」


「黒くて蒼い毛並みに戻して欲しい」

「解りました」

    呪のようなものを読み、印を組んだ。額の汗が綺麗だ。蒼は空を見つめ、言った。

「それと……」


「それと?」

「戻ってきて欲しい。私の所に。君を、愛してるんだ。忘れられなかった」

「毛並み以外の願いは無理です。今、山神さまの留守を預かっています」

「黒く蒼い毛並みを心から愛してくれるのは君しかいない。あの日、君を失った日、狛井家で純血の血統の証と、誰もが見とれる翠を前に自分を比べて惨めになった。過去を思い出して、忌まわしい色と皆に言われ、尾を踏まれたときを思い出して、卑屈になっていた。翠はあのとき君が好きだった。もし君まで、翠に惹かれたら、私は?醜い嫉妬が湧き出るのを感じたよ。私はつまらない。翠のように明るく話が上手いわけでもない。そして長年に渡る劣等感があった。君に想われる自信がなかった。翠と打ち解け楽しそうにする君を見るのがつらかった。優しい眼差しも温かい声音も自分だけに欲しかった。自分の目を背けてきた穢い気持ちが見えて、何もかもが、嫌になった。あのとき私にあったのは、醜い嫉妬と卑屈で幼稚な劣等感だ。すまない。君を傷つけたことを謝らないと。そう思って、来たんだ。あらためて、すまなかった。帰るね。私はいつでも君を待ってる。待つのは今度は私の番だね。私が死ぬ前までに、会いに来てくれたら嬉しい。蜂蜜生姜湯、ご馳走さま。美味しかったよ。それと怪我を治してくれてありがとう。あと、その蝶は、返してもらえないか?」

    空の周りを舞う蝶々に向かって何やら空は言うと、蝶々は、蒼の元へ来て、自然と籠に入った。

「ありがとう。この蝶が、その、君みたいに思えて」

「……昔、蒼様を思って作りました。だからではないかと」

「そうか。大切にするね。君に会えて嬉しかった」

    そう言い草履を履き、振り返る。これで最後かもしれない。それでも空は俯き、蒼を見ようとはしなかった。下を向く空に言った。

「空、君を愛しているよ。ずっと、待っているよ」

    階段を降りる。本殿の明かりが遠くなる。これで、良かったんだ。一目でも会えたじゃないか、ずっと、幻や夢でしか会えなかった人に。

「空……」

    階段を降りながら、そう呟いた瞬間、涙が堰をきったように溢れた。その時、風が吹いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

壊すほどに、俺はお前に囚われている

氷月
BL
【後輩と先輩、交錯する心と体】 春、新学期の大学キャンパス。 4年の蓮(レン)は、人気者らしく女子に囲まれながらも、なぜか新入生・七瀬巧(タクミ)の姿を探してしまう自分に気づいていた。 彼は去年の秋、かつて蓮が想いを寄せていた男の恋人の友人として出会った相手。 ――まさか、この俺様が、また男に惹かれるなんて。 否定しようとすればするほど、目はタクミを追ってしまう。 無邪気に笑う顔。ふと見せる真剣な横顔。 先輩と後輩、互いに抗えない感情に囚われながら、夏の学園を駆け抜けていく――。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

処理中です...