妖精の園

華周夏

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【第34話】リトの来訪

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扉が開いた。風が入り鈴が鳴る。頬を撫でる風が暖かだ。リトが健康そうな白い歯を見せて笑う。

『フィル!おっと、フィル様だな。ホットティーと俺ん家で作ってるホットワイン試しに持ってきたんだ。甘口なんで飲みやすいかと思うんだけど……隊長?    久し振りですね。親衛隊は隊長が自室にて『遊学』にいそしんでる間も鍛えておきましたから。お好きなとき、いつでも戻られても大丈夫ですので』

    カッときたレガートがリトに手を上げようとした瞬間、フィルは間に入り、リトを庇って叩かれた。

大して痛くない。この程度は慣れている。叩いたレガートは泣きそうな顔をしていた。叩いた手の手首をもう片方の手で握りしめていた。

『フィル、すまない……そんな、お前を叩くつもりじゃ……。何故リトを庇ったんだ。私を侮辱したのは、リトじゃないか!』

    フィルは冷めた視線でレガートを見た。

「リトの言ったことは真実だよ。レガートは本当のことを言われるのが嫌なの?
部下だから?
王さまだったらこんなことはしないよね。ああ、身の程を知れってこと?    
いつも僕、あなた達に言われてたね。
それにさ、私を叩くなんて日常だったじゃない。もう、慣れてるから。
レガート、そのすぐカッとなって手をあげるの、直したほうがいいよ?
前はそんなこと、なかったのにね。
リト、このひと暴力で全てが解決すると思ってるから、気をつけて。
……レガート、話はそれだけ?」

    真っ赤な頬の大人の顔をしたフィルは、レガートに軽蔑の眼差しを送る。

『また、来るから……もう、絶対手をあげたりなんか……しないから。大切にするから……だから、暖かくして眠って……』


    フィルは笑ってしまう。何を今更このひとは言うんだろうと思える。


「まあ、何処も、廊下よりましだよ。
リト、しもやけが痒いの。
あとから薬塗ってくれる?
レガートに鞭打ちされて背中が痛くて、前屈みになれないの。
凍てつく氷で、小指の薄皮も剥げたよ」


『冬は、なりますね。俺も、靴下脱ぎたいです。しもやけ痒くって』

    ちらりと、フィルはレガートを見た。まだ居たの、と言うように。


『じゃあ、また。……時間を見て、様子を見にくるから……』

    パタンと静かにレガートは扉を閉めた。磨り硝子の扉の無機質な音が響く。


『フィル……すまない。でも、愛してるんだ。フィルだけなんだ。……フィルへしたこと全部、消してしまいたい……』



    扉を閉めても聞こえる、小さな小さな声。磨り硝子の扉の向こうでレガートが泣いている。

俯いてずっと右手で両目を隠して。
指先がきらきら光って見えるのは、手の間から金色の雫がこぼれているから。



────────────続 
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