妖精の園

華周夏

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【第61話】フィルと魔法の力

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    覆面で行う術師試験を受け合格した。
最初から持つ力の量は周りの最終試験に残るような術師に比べれば少ないけれど、
増幅させたり、変化させたりする力をとても評価された。
試験の後、一人、魔術師長室に通された。


『術師の研究室に残ってみないかね?
君の魔力自体はまだまだ弱いが伸び代は充分。それに、君の補助の魔法は特出している。
今の魔法界は力が全てのような所がある。
けれど、君のような能力を持った者が私は新しい魔法界に必要だと思うのだよ』

 老年の白い髭を蓄えた魔術師長のおじいさんにそう言われた。
フィルはとても嬉しかったが、

「大変光栄ですが、もうすぐ結婚するので……申し訳ありません」

と会釈をしてフィルはバサリと覆面の魔法衣を脱ぎ、困ったように笑って黒い手袋を外し左手の薬指を見せた。

『フィル、様!?あの、氷のレガート将軍の婚約者の!』

「魔術師長様、レガート様はもう、氷の将軍ではありません。
今、二人で育てている仔犬が、
私ばかり懐くことにヤキモチを焼くくらい、
可愛らしい方ですよ。
でも、不器用だから誤解されやすいんです。
レガート様は、日夜この国の平和に身を心を費やしています。
だからどうかお願いです。取っ付きにくい人に見えるかもしれませんが、
どうか『氷の将軍』と呼ばないで下さい」
    

そう言いフィルは頭を下げた。魔術師長のおじいさんは、

『無礼をお許しください』
    
と言い、

『頭をあげてくだされ』

と言いながら、何か言いにくそうにしていた。

『あ、あの………』 

「何ですか?」

『あの、誠に無礼だと思いますが、フィル様の髪に触れて、祈っても、よろしいですか?    フィル様の金色の髪に触れると幸運が訪れると……』

    不思議な噂が流れている、と思った。

「いいですよ。どうぞ………」

何の気なしに了承したことだったけれど

『孫が無事生まれますように』

そう小さく必死に何度も祈るように縋るように繰り返し呟いた魔道師長のおじいさんにフィルは胸が苦しくなる。

「丈夫な赤ちゃんが無事生まれますように。手を出して下さい」

    指輪から雪のように生まれる光を念じて小さくまるくする。

「これくらいしか出来ませんが、癒しになる薬です。私なりに研究しました。
あくまで気休め程度です。
でも、秘密にして下さい。皆に作ることはできないので」

『ありがとうございます。
実は息子の嫁があまり身体が強い方ではなく……。何とお礼をしたらいいか……。
さすがレガート将軍と、ともに歩むお方だ。
レガート将軍とフィル様のご結婚、幸多からんことをお祈りします』

「有難う御座います。健やかなお孫さんの誕生を切に願います」


    フィルが頭を下げると魔術師長のおじいさんも深々と頭を下げた。



───────────続く
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