妖精の園

華周夏

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【第60話】いよいよ、結婚式!

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 天馬の馬車から見える景色は圧巻だった。


一面の花畑。

天馬は空を翔ける馬。

王様の天馬は純白の羽根が生えた馬。

レガートの天馬は漆黒の羽根が生えた馬。

天馬は赤子が抱え持つ小さな卵で生まれる。
一番古くからの使い魔だ。
王家の直系しか現れない。
卵に与える気で、

性格や毛並み、毛色が決まる。
この馬車はレガートのものだが

『結婚式なのに、引く馬が漆黒では』
と、レガートが王様に言った。

    向かい合わせの前の席のおばあちゃんは渋い顔をして時々斜向かいのレガートを睨む。



「私は今も反対ですよ。
王様が言うので仕方なく来たんだよ、フィル。本当は立太嗣の儀にも
婚約披露の儀にも参加したくなかったのに。
今度はもう結婚の儀ですか。
本当に後悔しないのかい?
レガート様はお前をあんな目に遭わせておいて先が思いやられるよ。
また魔女みたいな輩に騙されるようなことがあれば、おばあちゃんが許しませんからね!             
そのときはちゃんと言うんだよ!」

チクチクとレガートに嫌味を言うおばあちゃんを宥めるのがフィルには精一杯だった。
    
そしてもう一つレガートに出来ることはぎゅっと手を握ること。

肩を落とし所在なさげにするレガートは切ない。悲しそうに俯いて私をチラリとみるレガートに「信じてる」と手に文字を書くと、レガートは私の手をぎゅっと握り返した。




天馬は翔ける。どんどん高く。

「レガートの天馬も格好良かったよ」

『黒い色を悪い色だと思わなくなったのは、アンダンテのおげだ。陽の光で七色に光る』

と言いレガートは笑った。
だが、やはり結婚式の時には……と、レガートは王様の天馬を借りた。
    
王様が立太嗣の儀の時、
フィルとレガートに下賜され湖に囲まれた白亜の離宮。

先に親衛隊が来ているようだった。
    





あれから毎日、フィルは

薬入りのたんぽぽコーヒーと
栄養のある、
とうもろこしのお粥か
蜂蜜ミルク粥、
それにピピの実のピクルスを食べてもらい、

レガートの仕事の邪魔をしないようにずっと傍にいて魔法の本を読んで、空き時間に魔法を見てもらっての繰り返し。



夕食の後、処方薬を飲んでもらって、
レガートに指輪の癒しの力を増幅させて分けた。
それからは失った時間を取り戻すかのようにベッドでレガートに腕枕をしてもらい、色んなことを話した。


行きたい場所、
嫌いな食べ物、
好きな花、
お互いの好きなところ、
恋人同士がやるべきことをする。
じゃれあい、
たくさん口づけあった。
お預けの閨に不満だらけのレガートだったが、フィルは医師の妖精に

『結婚の儀の後なら』と言われた。
はっきりと面と向かって言われると恥ずかしいとフィルは思ったがレガートの身体の不調もなくなったということだ。

もう羽根の色も綺麗な紫だ。


フィルはレガートと過ごす時間を無駄にしたくなくて、魔法の勉学にいそしんだ。
力があれば便利だし、レガートの役に立てるかも知れないと考えたからだった。



──────────────続
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