妖精の園

華周夏

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【第59話】甘い癒しの時間

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 首筋に口づけし、衣服を剥ごうとしたレガートをフィルは押し返す。
目の前のお菓子を取り上げれた子供のようにレガートは目を丸くする。

「病みあがりでしょ?    駄目だよ。お医者さんに言われたばかりだよ」

『もう、限界だ!』

「ご飯冷めちゃうよ。駄々こねないで」

    フィルは、脱衣所で着替えながら振り返りレガートを見つめる。

「早く元気になって。
元気になったら飽きるほど抱いて」

    少年から青年になりきれていないような、まだ頼りなさが残るが、

淡い微笑みを浮かべるフィルは、

匂いたつ色香があった。

『先へ行っていてくれ』




    さっと後ろを向いたレガートの雰囲気で何が言いたいのかは解った。

「……わ、わかった。何かごめんね」

    パタパタと遠ざかる足音。レガートは手早く自らを慰めた。





水に靡くフィルの長い金色の髪。そして、
「欲しいなら、全部あげる……」
あの言葉、ゆらゆら揺れる、あの瞳……

手に放たれた白を洗い流し、レガートは脱衣所で普段の服に着替える。


いつもの食事。
ぎこちない会話も次第にいつも通りになる。
フィルは席に着いたレガートに粥を食べさせる。
レガートはフィルと食べる食事が一番好きだ。
他愛ない話も楽しい。

「とうもろこしのポタージュのお粥だよ」

『甘くて、美味しいな』

「口開けて?熱かった?」

『いや……大丈夫だ』
    
この童子のような食事が最初は堪らなく恥ずかしかったが今は少し楽しみにしている自分がいることにレガートは気づく。
他人には言えない、フィルとの秘密。

あっという間に粥の残りはわずかだ。

「良かった。昔おばあちゃんが体力が弱っているときにはこれがいいって」

『いつもの蜂蜜ミルク粥もいいが、このとうもろこしの粥は身体の内側まで暖かくなる気がする』

    美味しい、幸せだな……。レガートは噛みしめるように言った。

『タカタカの実を食べようか。私が剥こう』

大きなタカタカの実をレガートは手に取るとスッと薄く皮を剥き、半分にして、フィルに手渡した。



『今まで……すまなかった。
そして、ありがとう。
こんな私を、待っていてくれて。
愛して…くれて。……白鳥が神官の、
栗鼠が証人の結婚式もあげた。
幸せに、なろう。魔女の遺産のような痛みは、
もうない。フィル、愛している』
   
 二人で同時にタカタカの実を齧る。

「美味しいね」

『ああ。美味しい』

フィルは笑う。
確かに笑ったはずなのに涙が溢れた。
溢れてとまらない。

レガートも泣いていた。朝陽にきらきら金の雫が反射し眩しいくらいに綺麗だった。



────────続
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