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〖第13話〗
しおりを挟む「惣介。今日の夕ご飯は早採りの茗荷を使ったお素麺だってチヨさんが言っていたよ」
「………」
叔父さんはひやりといつも冷たい手を頭に置き、僕の頭をワシャワシャと犬か猫のように撫でる。
見上げると、眉を下げ困った顔をしている。叔父さんに、僕は敢えて訊く。
「叔父さん、何だよ。何か言いたいことあるの?」
「惣介をずっと子供扱いしていたこと、悪かった。でも、子供でいられるときは、そうしなさい。子供でいられる時間は短い。それに子供は便利な生き物だよ。もうすぐ十八歳か。あの小さかった子が」
叔父さんは感慨深げに呟いた。チヨさんの料理は絶品だ。安易に僕は茗荷のお素麺に懐柔される。
僕はまだ、子供でいい。僕には好きな大人は少ない。父さんも母さんもあまり好きじゃない。寧ろ嫌いのカテゴリに入る。
僕を見て「勉強しろ」しか言わない。とはいえ本気で嫌いな訳じゃない。少し辟易して、甘えているのだ。本当に消えてしまったら困るのに、よく「消えちまえ」とか言うひとがいる。それと、同じだ。
辛かったことはたくさんあった。独りの寂しさは小さい頃から知っている。熱を出しても、独りだった。けれど、置かれた環境は世間で言う贅沢に分類される。
僕はこの家を継ぐ。逆らうつもりはない。仕方がないと、解っている。これが本家の長男に生まれた逃れられない運命だ。だから、全うする。その為の、最後の夏休みだ。塾の授業はリモートだからと、僕は叔父さんの家に逃げてきた。あの家の居心地の悪さは僕を酸欠にさせる。僕は、周りの期待ほど、出来た人間じゃない。
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