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〖第15話〗
しおりを挟む「叔父さんの絵のモデルって、何なの?」
この山奥、モデルを呼ぶのは難しい。皆で畑で採った枝豆を食べながら僕は言った。粒が大きく甘くて美味しい。
「誰なのって訊かないのが惣介らしくていいね。そうだな、インスピレーションかな。このお米を美女だと思ってごらん」
叔父さんはお箸で、チヨさんが『食べ盛りですもの』と作ってくれた小さな焼きおにぎりからご飯を一粒摘まむ。
「なめらかな肌、少しふっくらした身体。艶めく、ふくよかさを恥じらう若さ『あまり、見ないで下さい』とでも言いたげだろう?それだけで私は絵が描ける。まあ人によりこの解釈は違う。それと、私は羞恥や秘密とか、隠されるものを好んで描くかな。大っぴらなものにはあまり惹かれないからね」
「あんなにいっぱいの美女と美男子を描いてるのに品があるのはそのせいなのかなあ。僕も絵の中の人に会いたいくらいだよ」
叔父さんが日本酒を少しずつ傾けながら、僕を見て笑う。
「惣介。自然は好きかい?」
「うん」
「植物は、好きかな?」
「うん、好きだよ。何かあるの?」
叔父さんは、酔いが回った弛緩した瞳で、
「この季節の子は優しい子が多いから、惣介も誰かに会えるかもしれないね」
と言い、僕を見て笑った。そして、左手のぐい呑みの日本酒を飲み干して、ゆらゆら揺れながら、
「私が初めて香蝶に会ったのは、十六の頃だった。今も昔も、彼女の美しさは変わらない」
そう微笑み、叔父さんはうとうとと船を漕いだ。
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