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〖第16話〗
しおりを挟む「叔父さん、大丈夫?」
「良介さん、久し振りに酔いましたね。ほら、お部屋に行きましょう?」
ふふっと小さく笑ったチヨさんの声が、恋人を気遣うような、色のある、若い女の人のような声に聞こえた。
「惣介さんには後で離れにゼリーをお持ちしますね。グレープフルーツのゼリーですよ」
顔を上げると、いつもの柔らかな笑顔のチヨさんの顔がある。
*****
離れへ庭を通って帰る。汗を誘う、温度と湿度に山梔子の匂いが溶ける。
甘ったるい匂いが肌に濡れるように広がって、美女のため息のようだ。
僕は、この夏の花がとても好きだ。早めの夕食の良いところ。山の端は夕暮れを名残に宵闇を纏う。
この花は忍び寄る宵闇と澄んだ月の光が似合う。香りに対比する白い花弁の清廉な美が際立つ。
ベッドサイドの窓を開けた。網戸は開けない。虫は好きじゃないからだ。いつも、窓を開けて山梔子の花の匂いを楽しむけれど、今日は不思議に山梔子の匂いが近い。
外に何か気配がする。悪いものや、怖いものではなさそうだけど、人か、動物か。解らない。
「水、くれる?」
網戸越しに声を聴く。姿を見る。あまりに驚くと声は喉に引っ掛かって出ない。
現れたのは、匂いたつような、甘い香りを纏う美少年だった。
肩までの軽くうねる黒髪に白い肌。
瞳は碧色。
薄い黒いシャツを一枚。
黒の薄地のスラックス。
目が合うと少年は僕に微笑みかける。大袈裟に言えば僕は、呼吸の仕方を忘れた。
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