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〖第21話〗
しおりを挟む僕は毎日暇さえあれば、山梔子の木の元に行って水をやる。他の木に山梔子ばかり贔屓にしてると思われたら、山梔子の肩身が狭いだろうと思い、必要な分だけチヨさんに教わり庭木に水をやる。
毎日、山梔子に話しかける。端から見たら、僕はどうかしている。それでも僕はあの少年に、もう一度会いたかった。そして、謝りたかった。
一週間後、甘い香りの花が咲き、夕闇に濃密な匂いが立ち込めた。
「良かった。花が咲いたね。甘い良い匂い。綺麗だね。……もう僕が、水をあげにここに来なくてもよさそうだね。……山梔子、傷つけてごめんね……さよなら」
山梔子から返事はなかった。返事なんて、本当はあるはずなんてない。あの少年も。山梔子が少年だという考えも、全部夢だ。そんな都合の良い物語みたいなことあるわけないじゃないか。そう思って立ち去ろうとした。
「行かないで、惣介」
振り向くと服はボロボロ、髪もボサボサ、肌は砂まみれの山梔子がいた。僕は震える声で言った。
「ごめん……ごめんなさい……あんなこと言うつもりじゃなかったんだ。でも君が『君は、俺のことが好きだろ?』なんて言ったから、笑うから、頭の中が真っ白になった。僕は、会ったばかりの君に惹かれてた。君は、そんな僕の気持ちを見透かしてた。おかしいよ……こんなの。僕、どうしちゃったんだろ……いつも君のことばかり考えてる」
「惣介は、山梔子の香りは好き?いつ初めて花を見た?」
山梔子が、涙目で柔らかく微笑んだ。
「小学校一年生。学校の先生が教えてくれた。『あのいい匂いのするお花はなんですか』って訊いたら『山梔子よ』って、先生は笑った。今でも覚えてるよ」
山梔子は目じりに涙を滲ませる。
「君との出会いはその時よりもっと前。アメリカに留学していた君のお父さんの昌介さんが君のお母さんの明美さんにダンスパーティーて贈ったのが山梔子の花だった。明美さんは昌介さんとダンスをしながらのプロポーズを受け、二人は結ばれた。そして、その証は君。部屋には山梔子の花があった。宵闇の部屋に甘い匂いを醸しながら俺は待ってた。ずっと君を待ってた」
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