宵闇の山梔子(くちなし)〖完結〗

カシューナッツ

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〖第23話〗

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 ベッドで横になる山梔子にしがみついて懐に顔を埋めると、いい匂いがする。安心して眠りにつく。こんなに気持ちのいい眠りは、初めてだった。

 毎日授業を消化し、レポートを書く。山梔子は離れたところから不思議そうに僕を見ている。

 リモートで一度クラスの友達と雑談をしている時、偶々、山梔子が映ってしまい、女子が騒ぎ立てた。

 僕との関係性や、自分の正体、ここの場所。山梔子は困りながらも笑顔で質問に答えていた。

 「惣介を困らせたくはないから」


──いつかは消えてしまう、夢の世界の思い出だから──

小さく山梔子がそう言ったのを僕は聞き逃さなかった。

「山梔子、僕の記憶から消えてしまうの?」

「……仕方がないことだよ。大人になることは、子供の部分を捨てなきゃいけない。そうしてひとは大人になる」

「山梔子は、そうなって欲しい?僕に綺麗な思い出として消えて欲しい?本当にそう思ってる?」

「思ってるよ。皆そうだったよ。皆、俺を忘れて立派な大人になったよ」

「じゃあ、何で山梔子は泣いてるの?僕は山梔子を忘れるなら立派な大人になんかならなくていい!ずっとここにいる。僕は、君が好きだよ。何よりも、未来よりも君が好きだよ」

 山梔子との思い出を残しておきたくて、僕には山梔子を描く才能はないから写真を取った。

 この高原の夏、いつも一緒だった。ずっと一緒にいた。そのことを残しておきたいのに、何度写真をとっても山梔子は映らない。

 実家に帰らなければならない日が近づいてくるのが怖かった。もう、一緒にいられない。

 僕の記憶から、この緑に満ちた風が、高原、甘い香りの、優しい笑顔が消えてしまう。その事実が苦しくて、つらくて、たまらなかった。

 それでも、僕は笑う。山梔子が悲しまないように。僕は忘れても山梔子は憶えている。なら、僕は山梔子の記憶の中で、せめて幸せな記憶でいたい。 
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