宵闇の山梔子(くちなし)〖完結〗

カシューナッツ

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〖第24話〗

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「風がなければ、月と流星群が、湖に映るよ。見に行かない?天体望遠鏡で見ても綺麗だよ」

 初めての山梔子からの誘いだった。

「流星群か。すごいね。行きたいな。ところでどうやって知ったの?」

「蝶々さんから」

「蝶々?山梔子は、蝶々と話ができるの?」

 山梔子は曖昧に頷いた。

──────────

 夜、湖に星を見に行く。柄にもなく、籠のバックに大きめのタンブラーを二つ。常温の沢の水と温かい紅茶を入れた。

 ビスケットと、プレッツェルも持った。高原の夜は冷えるし、山梔子は常温の沢の水が好きだ。

 天体望遠鏡が以外に重く、山梔子は汗をかいていた。甘い香りがする。

「僕、持とうか?」

「大丈夫。こういう時くらい、良い所見せたい」

 変な所で山梔子は意地っ張りだ。つい僕は、微笑んでしまう。夜の高原は虫の音がする。秋が来る知らせ。別れの知らせ。甲高い鈴を転がしたような音。

 無事、湖の畔に着いた。僕は山梔子には、まず水を手渡した。山梔子は、とても美味しそうに水を飲む。

 ビスケットとプレッツェルも喜んでくれた。絵のような風景だった。月の光が明るくて驚いた。

 月は僕と山梔子に影をつけた。天体望遠鏡で見る星々は綺麗だった。

「月は夜の王様なんだ。夜に月がなければ真っ暗になる。月は夜を照らして、暗い世界の道標になってくれる」

 流れ星は八回も見れた。八回とも、

『山梔子を忘れないでいられますように』

 それだけを願った。二人でシートに横になる。山梔子と目が合う。瞳がグリーンとブルーを足したような色をしている。とても綺麗だ。見惚れるように見つめる。

 僕は冴えない蝶。山梔子の匂いに引き寄せられる。

 山梔子とキスをした。星や、月や、虫の音の視線を感じた。皆見てる。恥ずかしいけれど、見ていて欲しかった。星も、月も、虫の音も、この夜の僕と山梔子を見た証人だ。
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