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私が聖女なんて、どうなちゃってるのよぅ〖第2話〗
しおりを挟む裸足で、駆けた。段々と近づく追っ手。私はもう、目が回って走れない。倒れ込んだ私を、すっと抱き上げ、
『怖くないから、じっとして、目をつぶっていろ』
低い声に怯えつつ、私は抱きかかえられ草かげの小さな小さな洞穴に『入れ』と言った。男は私を下ろし
『前だけを見てかがんで進め』
と私を急かす。途中から水晶の洞窟に変わる。
細い光の乱反射でキラキラ光っている。綺麗だと思った。
『あなたが私とシイの実を持って修道院に?』
『ああ。傷を治すのならあそこだ。まさかこんなことになっているとは。今回、父上が呼んだ聖女は少し、いや、かなり頭がおかしい。普通ならこの湖に降りたものを真の聖女とし、最上級に尊い扱いを受けるはずだ。あれでは魔女の扱いではないか。命を狙うなど、どうかしている』
私は彼を見上げる。獣の、顔。獣人と呼ばれる人は、思ったよりこわくない。
『見えたぞ。此処が、我々の根城だ』
文明的で綺麗な、石造りの海外の街。各家にぶら下げてあるランタン。もしもの時の水。そびえる砦。死火山のカルデラの跡のような地形。よく見ると、私を助けた獣人は、真っ白な狼の顔をしていた。
『王子、この娘は?』
『私の妹をウサギの罠から庇った。恩を返したい』
そう言えば、此処に来たとき何かを突き飛ばしたような──。
『本当の顔はお見せにならないのですか?』
部下のような獣人が訊く。二人とも頭は精悍な狼のようだった。体つきは人だ。
『お名前を訊いて宜しいか』
『マミ、です。あなたは、王子様なんですか?』
ふっと、王子は笑う。問いには答えず、
『獣人を見るのは初めてか?』
『はい』
『怖いか』
『それは……怖くないと言ったら嘘になります。で、ですが、綺麗な瞳をされていると。先程の水晶の洞窟のような……それに、修道院のような所の人たちの方が、この国の方よりずっと怖かった、です……』
確かに獣人と呼ばれる人たちの見た目は怖かった。あの、大きな牙。
でも、瞳は優しかった。
会社でストレス発散のように使う上司、私をスケープゴートにしてきた社員。
今度は『降臨された聖女』への狂信だけで簡単に他人に毒を盛る修道院のシスターたちよりずっとやさしいと思った。
『──皆、マミに挨拶を』
そう言うと、いつの間にか集まった皆は獣の頭を脱いだ。今私は初めて、この世界で〖人間〗を見た。
『ルートです。あのときはありがとう。これ、おにいさまからお花』
綺麗な銀の髪、薄いブルーの瞳。差し出されたのは白い薔薇。花言葉は……。
『花言葉は「一目惚れ」だ、マミ。私はこの国の第1王子、リクトだ』
振り返り、そこにある顔。忘れもしない。私の人生をどん底に突き落とした男。私からあの女に簡単に鞍替えして、アクセサリー、背伸びして買ったブランドバック、時計……。カード、財布、二人で行こうと思って貯めてた旅行資金まで持って、煙のようにいなくなった。
『名前も、顔も、言う言葉まで、同じなのね……』
同棲するよりも前。初めてのデート。陸人は、一輪の白い薔薇を私に手渡し、言った。
『この花の花言葉は「一目惚れ」』
私は泣いた。このわけの解らない世界に来てから初めて泣いた。
視界が歪む。皆が言った、雨が、降りだした。
『額に水の聖紋が!本当の聖女さまだ!古代書の通りだ!天の聖女さまだ!』
私はしばらくし、力が抜け、その場に倒れ込んだ。
────────────
身体がふわふわする。
階段を駆け降りて、電車に駆け込んでいるのに、不思議と心拍数は増えていない。ただ、疲労感が残るような。
目を開けると、心配そうに私を見つめる陸人の顔があった。
「目が覚めたか?マミ。熱は下がったようだな」
「おはよ、陸人……」
頭がぼんやりする。会社行かなきゃ。遅れたりしたらまた怒鳴られる。
この前どうしても胃が痛くて身体がつらいとき、インフルって言っちゃったからそれも使えない。
「──力を使いすぎだ。真の聖女の力がこれほどまでとは。何か食べたいものはあるか?」
力?何だろう。あれ?陸人?陸人はいなくなったんじゃなかったっけ。
私を捨てて、ユイを選んだ。
そして私は線路に飛び込んだ。
なのに、今更何でなのよぉ……。
やさしい言葉なんて要らないよぉ。
「ああ……まだケシの毒が抜けきってないようだな。サーチェ神官を!聖女の陰の気を抜け!」
このひと──陸人じゃない。陸人は、こんな話し方しない。
あの労る声。仕草。言葉。
私のうっすら空いた目と、まわらない思考。頭に霞がかって何か大切なことを忘れてる。
まず、ここは何処?私なんでここにいるの?
まず、目の前の陸人はいつもと髪の色も、瞳の色も違う。
それに陸人は私が熱を出した次の日は、
『朝飯、お粥作ったけど食えそう?』
『今日会社リモートにしてもらった。マミ心配だし。独りにしておけないよ』
そう困ったように笑う人。
──それでも陸人は私を捨てた。きっと誕生日にくれたルビーのピアスも、ブランドバックも質屋入り。お金もユイのために使われてるんだろうなぁ。
私の何処がいけなかったんだろう?
確かにユイは美人で弁護士さんで頭がいいよ。だからって、一緒にいた6年はこんなに簡単に消えてしまうの?ひどい、ひどいよ!
「マミ、感情的になるな。回復が遅れる」
「回復って、何なのよぉ!わからないよ!そもそも貴方は誰なのよ!」
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