氷雨と猫と君

華周夏

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〖第11話〗

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 私のベージュのコートはハンガーにかけてある。私自身は男物のお洒落な厚地のニットのカーディガンと毛布がかけられてあった。ブラウスは………着ていてホっとする。人懐っこい瞳の男の子は、視線で問いかける。

「あ、名前ね。斎藤美雨」

「綺麗な名前だね。『みう』って、どういう字、書くの?」

「美しい、雨だよ」

 年上の女を見るのがそんなに珍しいのかしら。そう言いたくなるほど、興味津々の目をして、彼は私をまじまじと、大きな目を丸くして言った。

「へー。外見のイメージとギャップがあっていいね。だってお姉さん綺麗系なのに『みう』でしょ? 仔猫の鳴き声みたいじゃん。可愛いね。これ、良かったら」

 四十路をとうに跨いでる女を捕まえて、嬉しそうに笑いながら『可愛い』なんて、お世辞に決まっているのに、ここまで開けっ広げにいわれると、自意識過剰だけれど、照れる。

 けれど、遠慮がちに彼が渡したのはメイク落としシートだった。一瞬にして照れた自分が嫌になる。ただ単に気の毒がられたか、からかわれただけの、自分がボロボロのメイクの年増の女だったことに気づく。

 そんなパンダメイクの私を見てにこにこしてるなんて、相当悪趣味か、遊び慣れてるのかな、と思った。

 美人じゃないから、若くないからって、馬鹿にして。

 捨てられたごみを拾ってきてやったとでも思っているのかな、とも思って自分が憐れになった。

 そうね、私、あの瞬間、ごみになったんだもの。きらきら光る綺麗なごみ箱に捨てられた、要らないごみ。
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