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〖第75話〗
しおりを挟む「同じじゃないよ『私』を描いてくれた。あの絵は『私』だった。おはぎとだいふくも可愛らしく描いてくれて嬉しかった。もう、何もなくなんかないよ。自信を持って。家事が得意な男の子?素敵じゃない。それに、私は真波を捨てない。絶対に。この関係が終わるなら、あなたが私に飽きるとき。その時手を振りほどくのはあなた。私じゃない。私、こう見えてもあなたのことが、すごく好きなのよ。それに真波が描いた光の中で私とおはぎとだいふくが遊んでる絵、綺麗だった。本当に綺麗だった!」
私は声が震えた。胸が掴まれるように苦しくて、切なくて、ああ私はこの子が悲しいから悲しいんだと思った。本当にこの子に恋した。二回り下の。後悔はしていない。ただ私のせいで、この子が後悔するようなことがあったらつらいな、と思った。
「美雨さん?どうして、泣いているの?」
「真波のが、うつったのよ。真波も泣いちゃいなさいよ。モンブラン、買ってこよう。つらいことには一度向き合って答えを出せば充分よ。もう充分よ。でも、過去は消せない。これから買いに行って食べるモンブランは、私と真波が初めて一緒に食べるモンブランだよ。紅茶淹れて食べよう?真波の過去は、切なくて、でも幸せな記憶もあるんでしょう?つらい思いや、哀しい思いだけ、ケーキと一緒に飲み込もう?幸せな記憶は、とっておいてあげて」
私と真波は着替え、歩いて10分かからない近所の小さな洋菓子店へ行った。一度、クッキーを見かけて、買ってみたらとても美味しかった。それ以来常連だ。真波と手を繋いで歩く。ラッキーなことに今日の最期の一個のホールのモンブランが買えた。
「雨が降りだしましたから、傘をどうぞ」
「あ、すみません。クリスマスのときにでも、返しに来ます」
「はい。お気をつけて」
穏やかに微笑む店員の女性に会釈し、ケーキを持って外に出る。氷雨だ。随分空気が冷えると思っていた矢先だった。
「ケーキ、見るたび切なくなってた。けど、今少し違うんだ」
「どんな風に?」
私が訊くと、真波は、
「どんな味か、楽しみなんだ。前はただ『モンブランを食べる』それだけだった。でも今は『美雨さんと美味しいモンブランを食べる』なんだ。でも、この美味しいケーキも、美雨さんが一緒じゃないと意味がないんだ。前は、失った思い出と一緒に食べてた。今美雨さんと、居候みたいなものだけど、ほとんど、ヒモだけど、一緒にいれて嬉しいんだ」
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