灰かぶりの王子さま~カボチャの馬車で迎えに行くから~〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
1 / 7

邪魔ばっかりする幼馴染みのコイツ①〖プロローグ〗

しおりを挟む

………村の外れ、暗い森の奥には洋館がある。古びた小さな城のようで、屋敷の側面には蔦が蔓延っている。赤と緑の斑に蔦は色づき、いかにそれが古い頃からあったのかを感じさせる。そこは魔女の館と呼ばれ、中に入れば真っ暗で、チタン、チタンと水滴が天井から落ちて来る。辺りは金属臭く、絨毯はぬらりと滑り、手をつくとついた手は真っ赤に染まり………

「まーた。何書いてんだ?」

僕が机に被さるようにして、ノートを隠したが一樹が一歩早かった。取り上げられ、クラスに残ってた奴、皆に聴こえるくらいの大きさで音読された。追いかけて取り上げようとしとも身長差が許さない。

「返して!」

と言い、思いっきり飛び上がっても届かない。それはそうだ。バスケ部の一樹とは、身長で敵うはずもない。恥ずかしい。ここに居たくない。みんな、笑う。こんな変な話書いて。可愛い恋愛話でもない。小説を書くのが趣味なんて一樹しか知らないのに。それを吹聴するなんて。しかも、まだ誰にも言ってないけど小説家になるのが夢なのに。自信もない文章をけなされたら、解ってはいても自分の中では大ダメージだ。涙をためた僕を見かねてか、女子のリーダーの美山さんが、一瞬の隙をついて一樹からノートをすくい取るように取ると、

「災難だったね」

と苦笑いして返してくれた。美山さんの横で一樹は面白くなさそうな顔をしている。

「砂川くんは、本好き?来週の土曜日、一緒に図書館行かない?」

首を少しかしげて笑う癖。僕は思わず見とれた。可愛い子。目が大きくて黒目がちで猫みたいだ。いわゆる陰キャな僕と比べれば天使と石ころくらいの差だと思えた。

「図書館なら俺も行く!」

一樹は、僕の見張り番。何処までもついてくる。教室で、美山さんと話す。くりくりな目がまるで仔猫だ。やいやい言う一樹を置いておいて土曜日の約束をする。学校帰り、少し肌寒いので一樹とコンビニエンスストアで買った肉まんを半分個して帰る。本当は美山さんと帰りたかったけど、黒帯までの辛抱だ。

「あのさ、なんで教室であんなことするの?この前も美山さんが助けてくれた」

「あんまり、美山のこと信用しない方がいい」

僕は腹が立った。こいつよりはずっと、確実に信用できる。

「美山さんはいい人だよ!」

庇ってくれる。助けてくれる。笑いかけてくれる。やさしく接してくれる。おまけに図書館デートに誘ってくれた。こいつが邪魔したけど。

「──この前、現国のおまけの授業で、『短い小説を書こう』ってやったじゃん?『これ以上はないと、解ってはいるのに』とか、『言葉を飲み込む代わりに僕は手の平を握りしめた』ってお前が小説書くとき出てくるとき、前に使ってた言葉だろ?他にも色々。普通全く同じ文句があの短い時間内には出てこない。あいつの小説にまんま入ってた。しかも、この前校内のコンクールに出すのに迷ったもう片方の話が、そのままあいつ名義で校内コンクールで金賞もらって全国行く。本来ならお前がいけたのに。あと、こっからは俺。今日の話。何で部屋ん中真っ暗なのに手が赤いって解るんだ?」

一生懸命書いてるのに。頑張ってるのに、一樹はいつも高みの見物。偉そうに!美山さんが可愛いから、デートに誘われたのが一樹じゃなくて、冴えない僕だから、一樹はやっかんでるんだ。美山さんはそんなことするような人じゃない!そんなことしなくても、頭も良くて、可愛いし、モテるじゃないか。盗んだり汚い真似しなくても、何も困ることはない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」 全8話

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

処理中です...